山陽新報 昭和十年十ニ月十四日(土曜日)
本社選奬 景勝地顯揚座談會[五]
觀光ブロック結成
施設の研究、資金問題等について
協議の機會を作れ
福山城址代表 福山城址と申しますのは都窪郡第一の山で高さ三百米あり、吉備線の總社驛から十七町、岡山市からは五里、山陽線倉敷驛から三十町、伯備線清音驛から十五町許りの岡山市附近から氣輕にお遊びお出になるには絶好の位置を占めてゐます福山城址が投票の一線に立ちました時、これに贊助を受けたのは東西十二里南北九里、町村數にしまして二十一、各村團體學校が二十四と云ふ數に達しました、大化の古へから由緒ある福山城址は東は岡山縣下は勿論、兵庫縣、南は四國、北は伯耆大山にかけて十ケ國の眺望を擅にしてゐます
建武中興當時、延元元年足利直義の東上軍二十萬を一千五百の決死隊をもつて大井田氏經が邀撃した福山合戦は申すまでもなくこの地であつたのです、有志相計りまして今を去る十六年前大正十年ごろから顯彰會を組織し、記念碑建設を進めてゐましたが今年の十一月十日除幕式を擧げたやうなわけであります、
福山城に登りますには西郡と云ふところまで乘合自動車がつきそれから二千八十足で頂上に達します
今後の施設計畫としましては自動車で山上まで達し得るやう自動車道路の建設中で既に一部分は出來てゐますが更に頂上には眺望台の建設を行ひ、各商店なり土産物についてもいろいろ安くする樣な計畫を樹てるなど關係者一致して觀光客の誘致に邁進すべく研究を續けてゐます
酒津水門代表 酒津水門は從來機會ある毎に相當宣傳されて居りまして、例へば櫻の季節にはラヂオを通じて全國に紹介されてゐます、今回十勝に新選されましたが、改めて特に申上げることはありません、然し酒津水門は高梁用水組合の水門と云ふ限られた範圍のものではなく、水門と書いてミナトと讀むのであります、これは昔この地が酒津港といはれた古事によるものであります、觀光施設は時代が進展するに從つて漸次改良して行かねばなりませんから、そこに必然的にお金が入用になつて來ます、これがためには觀光客を誘致して利益を上げなければなりません、これは十勝、十五景、二十秀が打つて一丸と成り、團體的に諸施設を行ふことが一番好いのですが、觀光施設や、資金調達などについては更に具體案を協議する機會を得たいと思ひます
吉備中山代表 私は岡山縣人が觀光に對して餘り熱がないやうに思ひます、隣縣の島根、鳥取などへ行つてみますと觀光施設にその案内に至れり盡くせりの接待ぶりです、昨年の風水害で岡山縣の觀光地も大に傷んだのですが、その後間もなく岡山市に泊つた或る客が宿屋の仲居に對して『何處か見物するところはないか』と尋ねたところ、その女中さんは『後樂園がおえんからほかにや何にもありませんでなア』答へたという樣なことを聞いたのでありますこの點は他府縣へ行つて見ると全く違ひます、それだけ宿屋などでも觀光について深い認識をもつてゐないことを裏書するものだらうと思ひます
私共としては施設と共に斯うした從業員その他の認識についても教育することが大切だらうと思ひます、最近觀光熱が頓に旺盛となつて來ましたがかゝる際におきまして山陽新報社は縣下における隱れた名所旧蹟、地を捜し顯れてゐるものは一層世に呼びかけようとしてこの度新選投票を行はれました、私共景勝地關係者と致しましては心から感謝致す次第であります
さて吉備の中山ですが、吉備中山は備中備前を股にかけて成り立つてゐる山であります。主體は吉備津神社でありまして山としては縣下唯一の御陵墓があります、新選投票について今更新選地でもあるまいといつた意見もありましたが、よし建國以來さんとして輝く土地といつても宣傳のないところに宣揚はないといふが私共の持論でした、か樣な意味合いから知られてゐるところならば一層宣傳して觀光客の誘致をはかることは土地の發展引いては廣く外客誘致に添う所由であるといふことに漸く意見が一致し茲に滿腔の誠意と熱意をもつて當つたのであります、その結果十五景の三位に落ちましたが常昌院さんのいはれる通り十勝、十五景、二十秀だからといつて善惡は判じ難いのであります、投票の多寡によつてその善惡は定まるものではありません、勿論愛郷熱度の反映は充分現はれてゐることは申上げる迄もありません
吉備中山とも最も申上げ度いのは御陵墓があつてその附近の眺望は誠に絶佳な事であります、遠く瀬戸内海を隔てゝ讚岐象頭山ともに對立してゐます、近くは高松宮樣、賀陽宮樣も御登山御眺望遊されましたことは誠に記憶に新たで恐悦至極に思つてゐる次第であります、岡山縣特産の藺草生産地帶も一望下に展開し、また、古くから婦人が召上れば男子が生まれるといふ傳説のある生ワラビもこの中山の産であります、吉備津彦神社とは山續きであるばかりでなく神社としても因縁深い關係にありますので御參詣、御清遊にお越し下さい今回選ばれました十勝、十五景、二十秀は一丸となつて道路網を始め色々の施設において協力その實現に努め度いと思ひますので關係各當局におきましては今後一層御鞭撻御援助をお願ひする次第であります