王子ヶ嶽

観桜ハイキング(予定)

山陽新報 昭和十一年四月十八日(土曜日)

由加山、王子ヶ嶽

ハイキング

倉敷支局後援

十九日擧行す

兒島半島の聖地由加山、國立公園王子ヶ嶽を目標とするハイキングは倉敷スキー山岳クラブ主催、本社倉敷支局後援で十九日の日曜日に擧行する、由加の櫻、王子ヶ嶽の櫻はこの日曜日がまさに滿開、觀櫻行樂の一日こそ狂躁の都會人に與へられたオアシスといふべきだ、倉敷から由加、王子ヶ嶽へのコースは今回の踏破によつて開かれるが、由加山でも王子ヶ嶽でもこのコース開きを双手を擧げて歡迎してゐる

コース

午前八時倉敷驛前自動車で出發、午前八時半兒島郡郷内村林到着、新熊野十二社權現、頼仁親王陵等史蹟を探り、徒歩五十町午前十時半由加山に到着、名刹蓮臺寺、縣社由加神社に參拜、休憩の上、晝食、午後零時出發徒歩三十町舊由加參道を田之口港に至り休憩、琴の浦の絶景を賞しながら海岸づたひに約半里午後二時迄に王子ヶ嶽の麓に到着、登山、景觀雄偉内海第一勝といはれる山上で午後四時まで休憩この間寶探し等も催す、歸路は王子ヶ嶽麓から自動車で一路倉敷に向ひ午後五時半前後に歸着の豫定である

申込みは十七日締切つたが、自動車の都合のつく限り當日朝まで受付ける(會費八十錢、子供半額)湯茶は訪問地で接待されることになつてゐるが、辨當は各自持參されたい、なほ詳細は倉敷市元町ミキヤ運動具店スキー山岳クラブ宛照會されたい

観桜ハイキング(報告)

山陽新報 昭和十一年四月二十一日(火曜日)

春風を衝いて

兒島半島横斷

由加山から王子ヶ嶽へハイキング

春の由加山王子ヶ嶽を目ざして、倉敷からの新コースを開拓すべき倉敷スキー山岳クラブ主催、本社倉敷支局後援の觀櫻ハイキングは十九日の快晴の日曜日に決行された、一行四十餘名、七十一歳の生田柳衛翁から十三歳の名倉すや子嬢まですばらしい元氣だ、午前八時半本社支局前を山陽自動車で出發兒島郡郷内村林に下車、熊野十二社權現に參拜、國寶の社殿を拜觀の上三宅社司から一場の史蹟講話を聽き、頼仁親王陵に詣でたのち、木見から舊由加參道を一里餘り登つて靜かな兒島山脈の屋根の上ともいふべき由加に到着した、縣社由加神社に參拜した上、安井社司の好意になる休憩所に落着き晝食、由加神社の肌守や名所圖繪などをいたゞいて神社を辭し、名刹瑜加山蓮臺寺じ參拜した、同寺では柴田義董、頼山陽などの代表作をもつて飾られた宏壯華麗な客殿を解放して一行を案内し、領主の間といふ豪華な書

院も拜觀した、さらに塔の壇からの大展望、鹽原多助寄進の玉垣、由加の街を飾る滿開の櫻のトンネルなどに興趣は盡きず、櫻、桃、紅梅等一時にどつと咲きだした、由加山こそやはらかな春の樂園だ

ついで梅、椿、紅梅の咲き盛つた舊參道を約三十町とろとろと田之口港に下り、唐琴浦の海岸を賞でながら王子ヶ嶽山麓に到着したのが午後二時半、足は疲れてゐたが一人の落伍者もなく十八町の急山道を櫻咲く王子ヶ嶽の頂上に登り、十二ヶ國の山と海とが眺められるといふ雄偉な景觀のたゞ中に立つた、山上では幹事の淺野、大高兩氏が斡旋して寶探しの餘興もあり、午後四時半下山、山麓から山陽自動車に分乘して夕刻倉敷に歸着解散した、

王子ヶ嶽登山を合せるとまさに四里以上の強行軍で、兒島半島を完全に北から南へ横斷した壯擧であつた

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寫眞は由加山頂の一行