景勝地顕揚座談会[六]

山陽新報 昭和十年十ニ月十五日(日曜日)

本社選奬 景勝地顯揚座談會[六]

自然美は退歩する

その折々の補修は經營者の責任

郷土愛こゝに發露

明王院代表 明王院は六條院町の地内にありまして、山陽線の鴨方驛から八町ほどの所にあります、境内は幽邃明媚の地でありまして、參道の西側には巨杉老松が生ひ繁つてゐます、境内の三千坪には、櫻、紅葉など數千本が植付けられてありまして四時の景趣はまた格別です、この機會に現在の施設に更に新施設を加へることゝ致して居りますが、どうか一度御出で下さい、遙照山は明王院の奥の院であります

和意谷代表 山の中また山の中の和意谷が皆樣と肩をならべて世の中に出ましたことは大變に光榮に存ずる次第であります、和意谷は寛文六年池田光政公によつて開かれました地で、光政公のまへの輝政公は姫路城主として百万石を稱へてゐたが、池田家が三つに別れた爲め結局光政公は備前岡山で三十三万石を領されたに過ぎない、そして光政公は大いに不服とされ、のち津田永忠の献策に基いて十三新田を開拓されたものである

和意谷は實に先代宗族の墓地として選ばれたもので京都妙心寺内護國院にあつた輝政、利隆及び宗族三人の墓を遷葬され、明治維新までは池田家の威光で岡山、閑谷とともになかなか威張つたものであるが、今は住む人も少なく忘れられかけてゐる、しかし和意谷は池田家の墓地だけかといふと決してそうではない、なかなか勝れた眺めをもつてゐるので、元來和氣郡には史蹟、名勝は數限りないほどであり、鹿久居島、天王山、熊山等々屈指に違ないが、和意谷も決してそれらに劣らない、吉永から自動車で三十分で達せられるが、つい先きほど輝政、光政兩公の三百年祭を營まれた時に道路を改修し非常によくなつた

寶島寺代表 寶島寺といつても皆さんは餘り御存じでないかと思はれますが、寶島寺は淺口郡の東南端連島町の南面した山にあります、從來は交通不便のため何處よりもずつと遅れて知られました、近來は自動車の便も良くなつてゐます、丹塗の山門は兒島高徳が寄進したといはれる南北朝期の小建築で、こゝに寶島寺の力があります、寺の風景は良いとも言へないが、惡いこともありません、山上に登れば水島灘の海景美が望まれ、一日の清遊かたがた是非來て戴きたいと思ひます

苫田温泉代表 苫田温泉は岡山の北約二里、御津郡野谷村栢谷にあります、苫田の名のため苫田郡にある樣に思はれてゐますことは頗る遺憾です、この温泉は今から二千年前吉備津彦命がこの地方の賊を平定した時、賊共が手傷を負つてこの温泉で傷を治療しては手向つたので、命がこの温泉を冷泉に封じ込められたと傳へられてゐますが、これがため今日まで顧みるものがなかつたのです

この温泉のラヂユーム含有量は全國七位で、温泉地域は野趣そのまゝで人工が加はつてゐません、山陽新報社の元社長であつた有森信吉氏などは毎年二ヶ月位は來て居られました、最近でも諸名士などの一つの避難場となつてゐます、この温泉は慢性リユーマチス神經痛に良ろしいが、またラブシツクでも治ります(笑聲起る)夏はお湯のなかでほととぎすも聞えます、また附近には苫田八景と稱する景勝地があります保養、景勝、遊覽地として推稱いたしたいと思ひます

春は躑躅が滿山をつゝみ床柱になるような大きなものもあるが、櫻も三百年を經て何抱もあり祇園の夜櫻の比ではない、更に新緑が迚もよく其の候この地できくほととぎすはまたよその地では味ひ得ないものがある、夏の山林學校としても最適地であり、紅葉の候にはまた全山紅に燃え立つばかりと云ふ調子で景勝入選を機にこの隠れた絶勝地に大々的の觀光客誘致に乘出さんと考へてゐます、將來の施設といたしましては自動車の便をよくするとか、梅の木の隨分古いのがありますからこれを梅林にするとかつとめる筈であります

圓通寺代表 玉島地方は由來景勝に恵まれ、養父ヶ濱海水浴場の如きは早くから知られてゐると思ひます、驛と町の間の距離が遠くてこの點は缺點とされてゐましたが、最近はずつと道路がよくなり驛構内から柏島円通寺まで約十分間で達せられるやうになりましたので鐵道當局に對し宣傳その他の便宜の得られる樣お願ひしてゐる次第です

圓通寺公園からの眺望はまた絶佳で水島の古戦場を隔てゝ内海の島々對岸四國の山々の景觀は申すまでもありませんが、良高の開基になる曹洞宗圓通寺はまた奇僧良寛の修業地として歴史的故事に富めることにとゞまらず、山の中腹には巨巌重疊し、その配置の妙なることは自然のうちに庭園の雅致をもち、裏山の森林地帶とともに見て頂きたいと思ふのであります

山陽新報の今回の催しに入選したことを無意味に終はらせることなきようますます圓通寺の宣傳發展に力めるとともに、各種の觀光施設を一層充實せしめて行きたいと心掛けてゐる次第であります

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