三頂山

視察報告

山陽新報 昭和十一年五月十日(日曜日)

三頂山と高島

田村博士激賞

今後施設最善を期す

國立公園協會委員田村剛博士が八日久郷縣山林課長を帶同して目下本社が斡旋中のハイキングの目的地東兒の景勝小串村三頂山の登攀探勝を試み、今後の施設經營に關して質實なる指示を與へたことは取敢ず昨報したが、更に補足報道せんに、三頂山觀察の博士の結論は

遊覽地として必要な足場土台、即ち展望台としての資格は海の國立公園中王子が嶽が最もよいが當所も屋島等と共にその點には惠まれてゐる、殊に當地の特長は瀬戸内海の大觀と兒島灣方面の河川美、原野美を合せて鑑賞し得る點に存し、この點は他の國立公園中見ることの出來ぬ景觀である、また奇岩重疊、白砂青松の山自體の姿も立派である

といふことであつた、そして『この景勝を有する村民としては何等他に謙遜の必要はないから大に宣傳してよからう』との含蓄に富んだ博士の一語は村民に力強い感銘と暗示を與へるに充分であつた、また今後の觀光施設や各種の處理についての博士の指示は

(一)岡山には信仰の對象としての祠が多い、これは現状のまゝでよいのもあるが精々見苦しくないやう外觀と位置に注意すべきである、(二)山頂に廣場を開拓してあるがこれはか聊か細工が過ぎて美觀を損した嫌いがある、今後やる場合は愼重なるを要す(三)山には砂防工事があるが砂防の樹木の成長に添へてかつ葉樹を植付け山林美を増さんことは望ましい(四)よい溪流があるから登山者のために所々に水呑場を設けるとよい(五)婦人登山者のために目立たない個所へ便所の設備を講じることも必要である(六)團體客の遺棄する辨當殻等を散亂をせず一ヶ所に集めて燒棄しつとめて美觀を損ぜぬやうにすることも必要である

等と告げた、山頂でなされた兒童のための博士の談話は『海の國立公園地帶と一環の景勝地である當地へは今後先輩名士の來往が頻繁になりその教へを受ける機會が多からうがそれよりも何時でも見ることが出來る郷土の山岳美につとめて接觸してその感化を受け優美な人格を養ふのは極めてよい』といふにあつて多大の感銘を與へた

同村では當日の博士の登攀を無上の光榮として歡喜し郷土の風景美に強い自信を持ち、博士の指示に應じて今後の施設完成の最善を期して居る、なほ兒島灣口高島の景越が博士の氣に入つたことは尋常でなく、釣はできるか、水は聊か清澄を欠ぐが海水浴も出來るやうだ、竹林があるやうだが何竹かなどとよく談じ船での往途も歸途も葉櫻の島の姿から目を離さぬ程で、歸途はわざわざ波の荒れるデツキに出て右に高島、左に海から見た三頂山を自らレンズに納めた程で

この兒島灣口一環の風景が何の日にか博士を通じて世人に紹介される日があるに相違ないとの事が周圍の人々に等しく強く印象された

寫眞は山頂山から兒島口上道郡方面の眺望