景勝地顕揚座談会[八]

山陽新報 昭和十年十ニ月十九日(木曜日)

本社選奬 景勝地顯揚座談會[八]

個々の特色を強調

ヴアライエテーに富む各景勝地

劃一施設避くべし

横井小原代表 横井小原のことにつきましては同じ御津郡内の人は勿論、どうかすると村の人でさへ餘り知つてゐないのでありますが、この地はその昔現在の岡山市が未だ海底にあつた當時、燦然たる吉備文化の花が咲いた所でありまして、二千年乃至三千年前の立派な古墳のあるところから推測しても古代文化の中心であつたことが立証され、古い文献を調べて見ますと横井小原の名は相當古くから有名であつたことが解ります、現在はこの地方は有名な桃の産地で、春は全山桃の花に包まれ、花見客も多いのですが特に山頂に立つて眺めると四國の峻峰、瀬戸内海の島嶼を指呼の間に見ることが出來、岡山市などは箱庭のやうに見えます

またこの横井小原には陸軍墓地もあります、今後は金山、三野公園、苫田温泉と協力一致して觀光ルートをつくり、一日のハイキングコースとしたいと思つてゐます、御社の方でもどうか便宜を與へて戴きたいと思ひます

高尾烏帽子岩代表 漠然と高尾の烏帽子岩と言つたのでは知らぬ人の方が多いのですが、これは岡山の西方約二里都窪郡高尾山の東端にある高さ百尺、四百坪程の大きな岩であります、それは昔豐臣秀吉大阪城築城の際に採取した殘りの岩ですが、決して人工が加はつたものではありません夏はこの岩から兒島灣に面して見渡す田圃一體に誘蛾燈を點ずるため一面廣い火の海が出來ます、烏帽子岩は大正十年までは村有だつたのが今では私有となつてゐるのです、これを割るとか割らぬとか問題が起こつたことがありましたが、神の御恵みとでも申しませうか二十秀に新選されました、今後同樣問題が起つた場合には縣市並に山陽新報社のお力でどうか適當に御盡力をお願ひしたいと思ひます

遙照山代表 今回山陽新報社の御企てによつて我が遙照山を世に紹介して頂く機會を得ましたことは關係者と致しまして非常に御禮申上げる次第であります、遙照山は山陽線金光驛から北一里の地點にありまして、海拔四〇五米、淺口郡第一の高山で山頂には兩面の藥師如來を祀つてあります、兩面藥師につきましては名高い歴史的古事があります、こゝにはラジユウムを含有する冷泉がありまして近ごろ浴客を増し現在では収容難を來してゐまするが如き盛況であります、頂上からの眺望はまた素的で、北は島根、鳥取兩縣を見渡すことが出來ます、眼下には小田郡北部が展開し、東は倉敷市が歴然と望まれ、南は兒島半島、内海の國立公園の島々を一望に納めることが出來る實に雄大なものであります、最近登山熱が旺盛となりこれに對する施設も目下考究中でありますが一昨年關係四ケ村が協力して保勝會をつくりましたが、私共の考へではこの保勝會を中心として將來の施設の完備をはかり度いと期して居ります

柳井原遊水地代表 柳井原遊水地が山陽新報によつて普く認められましたことは感謝に堪へない、この遊水地は先般の高梁川改修の犠牲となりました西高梁川の一部を堰きとめて造りました百三町歩といふ大きな全國的に有名な池であります、四方山また山で圍まれた周圍二里半の大池で、大正十一年酒津の櫻とともに二千本の櫻を植ゑ、約千四百本が立派になつてゐる、これが池面に映じますので合せると二千八百本となるわけであります

秋の紅葉のころがまたよく、四時を通じ遊覽に適してゐます、また水産試験場の手によつて琵琶湖の源五郎鮒、霞浦の公魚の養魚もやつてゐます、このうへ船穂橋が竣成しますれば交通は便利となりますので一層宣傳に力めたいと存じます

なほ希望を申し述べますれば權威ある投票の結果この地位を獲得しましたのでありますから、山陽新報におかれましても意義ある宣傳方法を執られることを希望します、十勝十五景は既によく宣傳になつてゐますが、二十秀地についても紹介されんことを希望します

杉山座長 二十秀地の宣傳紹介に關しましても引續き計畫されることになつてゐます

高福寺代表 高福寺は赤磐郡仁堀村にあつて土地は自然の風致地帶を成してゐます、縣道を離ることニ、五〇〇米の位置にあり南には兒島灣の海がそのまゝに見えます、船の帆を上げてゐるのが一幅の繪そのまゝです、北に頭を廻らすと那岐山が目前に見えます、その麓で砲兵隊の演習してゐるのは恰も附近でやつてゐる樣で煙も見えます、峰續きには備前第一位の龍大山があります、産物を致しましては春は山に咲く■花で山か花かと■はれるほどです夏は涼しく寢具をはづして寝ることが出來ません、秋は松茸が一万貫以上とれまして山は非常に賑ひますが何分にも交通が不便なので困つてゐます

久米郡龍山村全間から和氣町に通ずる町村道が縣道となれば交通は一躍便利となりますので私共は先づこの縣道編入を熱望してゐる次第であります十町歩に及ぶ境内には老松に櫻を點じて良い景色ですが更に地元の青年團女子青年團によつて櫻苗木の育成が行はれてゐますから將來はますます良くなると思ひます

毛無山代表 毛無山は作州眞庭郡の新庄村にある山陽、山陰の分水嶺でありまして、その高さは一千二百十八メートル、縣下第四位の高山であります、その山容の雄大さ、鬱蒼たる密林地帶であることは全く全國に誇るに足るもので頂上に到れば各所に美しい高山植物、準高山植物が咲き亂れ、仙境に入つたやうな感じがします頂上の眺望の絶佳なることは縣下第一といつても過言ではないでせう

北方を望めば伯耆の大山は指呼の間に見え、松江、大社、美保ケ關は勿論遙かに日本海を隔てて隱岐島をも拜すことが出來ます、岡山縣の方面を見ればあの陸軍の名演習地である蒜山の原野が一眸のうちに収めることが出來、美作、備中二國の連山の容姿を眺めることも出來る、また晴れ亘つた日には遙か南方雲の間に瀬戸内海をも望むことが出來るのであります山容の雄大さと眺望の絶大さとはたしかに毛無山の有する最も大きな誇りであると信じてゐます

また後鳥羽上皇の隱岐に行幸あらせ給うた砌り御製をお詠みになつたことを洩れ承つて居る現在はこゝに碑石を立てゝゐる、近年は年々各地からの觀光客が數を増して來たので地元では保勝會を組織して、道路の修繕、施備の改良に努め、觀光客の誘致に積極的な活動を續けて居るのですから、どうか御社でも廣くこの毛無山の眞價を紹介して戴きたいものだと思つてゐます

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訂正 十五日の本欄苫田温泉代表の發言中末項『春は躑躅』以下は和意谷代表の發言末項に入るもの

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