2011/7/12 Class 13

投稿日: 2011/07/12 3:55:05

記録

  • 補助教材 演習3.10 (梶井・松井練習問題13.1, 13.2) 1105-1124

  • 問題解説 (期末試験の対策) 1124-1158

      • 補助教材演習 2.8

    • 11名出席.うち学生 Ks 1035, Ys 1047, Og 1050 入室.(遅刻者をここに書く一方で欠席者を書かないのは奇妙だが,記録はべつに残している.遅刻者のみ書いているのは,その記録が多少見にくいため.)

    • 授業後 Hk が 13.2 について質問.

アナウンスメント

カバーすべき内容はカバーし終えた.(問題解説はおまけである.課題は本来各自がやるべきこと.) シラバスに書いたことを振り返って,思いつくことをいくつか書いてみる.(以下の文章はきちんと構成されていない.)

この科目は数学として開講したが,経済学として教えた.つまり単に与えられた問題が解けるというだけでなく,解いている問題とその解の意味もじゅうぶん説明するようにした.それらの問題のもととなった現実世界についての説明は十分とは言わないが,現実を単純化しモデル化したものの意味は十分に説明するようにした.数学がリアルな世界と結びついていることを感じてもらいたかったからだ.

この科目をマスターできたひとは一定の自信を持っていい.経済学大学院のミクロ経済学のゲーム理論にかんする試験問題で合格点を取れるレベルにほぼ到達したと言えるだろう.

ただしあくまで応用分野の経済学大学院生に求められるレベルに近づいたという意味であり,経済理論を専門とする大学院生のレベルには,数学的にはとてもおよばない.

講師もこの科目に適任だったと言えよう.非協力ゲーム理論を専門にばりばり研究してる (高校時代に数学オリンピックで優勝したような) 若手理論家には及ばないところがあるだろうけど,三原も大学院時代から非協力ゲームにはかなり真剣に取り組んで来たひとりだ.(大学院はミネソタだが,経済学では有力校であり,べつに辺境ではない.たとえば三原の指導教授のひとりで長年ミネソタにいた Leonid Hurwicz は,ゲーム理論の重要な応用理論であるメカニズム・デザインでノーベル経済学賞を受賞している.どうでもいいが,Hurwicz はうちの祖父によく似てた.) 香川大学の学生のレベルも把握できている.大部分の受講者にとって,テキストも自分で選択して完全に独学するよりは,この授業に参加した方が効果的にゲーム理論を学べたことと思う.

この授業でやったことを知っているだけでも,(経済学以外の) 応用分野にかかわるゲーム理論文献のかなりを利用できるようになったはずだ.逆に言えば,大学教授でもこのていどの勉強さえしたがらない人が多く,そのため自分の専門分野にかかわるゲーム理論文献を利用できないでいる.

経済学の話題についてもオークション,割引,リスク,逆選択などいろいろ学んだ.

特定の研究対象に関する知識を獲得することだけでなく,ゲーム理論や統計学 (理論および統計解析プログラム) のような研究方法をマスターすることが大学生にとって大事だとシラバスに書いた.ゲーム理論は,理論をつくって現象を説明する方法を提供し,統計学は事実を明らかにする方法を提供する.「自分は学者にはならないから関係ない」と思うかもしれないが,MBA (経営学修士) プログラムではゲーム理論や統計学がひじょうに重視されていることを思い起こして欲しい.じつはビジネスや公共団体をめざすひとにとっても, 論理的に考えたり他人に説得的に説明したり事実を明らかにしたりといったスキルが大切なのはまちがいなく,それらの学問に触れることは,そういったスキルを高めるのに役立つと考える.

ただし他人を説得するときには,その相手にとって有利になる点を強調すべきであり,必要におうじて自分自身にとっても不利にならないと付け加えることにより信頼性を高めるのがいいだろう.相手にとって不利益なことであれば,自分にとって有利で合理的だと強調すると逆効果なので注意.また,自分がいくらゲーム理論的に合理的に行動できていても,それを他人に言明しない方がいいことも多い.相手の弱点を適格に把握することにより勝てたスポーツ選手にとって,勝因を正直に語ることは通常は合理的でないだろう.

ゲーム理論のひとつのおもしろさは思考する対象をあつかうところにある.「このプレーヤーの立場から見て最適なのは?」と絶えず考える.ところが統計学では自然現象だけでなく社会現象もあつかっているのに,人間が出て来ない.いや,まったく出て来ないわけではないが,あくまでも過去の行動などがデータとして出て来るのみであり,人間の思考には立ち入らない.そのデータが未来の予測にどうつながるかは,人間の思考に立ち入らなければ分からないはずなのに,その重要な部分をスキップしている.

授業の内容への補足

    • ホテリングモデルについて「3人が同じ場所に移動しようとするのに,同じ場所に来てしまったらそこからはなれようとするのは矛盾しないか?」と過去に質問があった.「同じ場所に移動しようとする」というのは不正確.正しくは同じ場所に限りなく近づこうとするだけ.かりに他の2人が地点1/2にいるとき,縦軸に利得そして横軸に自分の場所をとったグラフを描けば,地点1/2に近づくにつれて利得も1/2に近づくが,地点1/2に一致したところで利得が不連続に下がって1/3となる.このばあい最適な地点というものは存在しないが,「1/2のすぐ右あるいはすぐ左」という,位置を特定できないものがそれにあたる.

    • ゲーム理論の重要な応用分野であるメカニズム・デザインについて授業でほとんど触れることができなかったのは残念.ここに申しわけ程度に触れておく.

      • メカニズム・デザインでよく研究されている具体的問題としては,望ましいオークションの設計がある.たとえばこの科目で学んだように,セカンドプライス・オークション (Vickrey auction) は「各入札者が自分の評価額をそのまま提出するのが最適」という望ましい性質を持つ.(このオークションを考案したヴィックリーは,ノーベル賞受賞発表 [にびっくりして?] 数日後に心臓発作で亡くなった.ちなみに上述のミネソタのハーヴィッツはノーベル賞受賞の翌年に亡くなった.二人ともぎりぎりで受賞したことになる.) オークション設計は,コンピュータ・サイエンティストによる研究の盛んな分野でもある.

      • ある財 (モノ) を,それをいちばん高く評価する者に,金銭の支払いを要求することなしに配分するメカニズムも存在する.そのもっとも簡単なものとして,セカンドプライス・オークションをもとにした Mihara による配分メカニズムがある.(その後理論専門の国際ジャーナルいくつかに蹴られ,改訂を重ねて最終的には Japanese Economic Review に掲載決定.JER は日本経済学会のジャーナルであり,日本人による寄稿が多いという意味では国際性は落ちるけど,理論だけでなく経済学全般を扱うという意味では読者層は広い.) このメカニズムの10分間解説も存在する.

[三原個人メモ: 以上は babygames11comm に追加済み.]

課題

取り組むべき課題や読むべき文献については,シラバス (ダウンロードは babygames11syllabus.pdf) の「授業計画」を参照.これまでの講義でホテリングモデルを終わらせ,本日「問題解説」に入ったところである.

    • ホテリングモデルにかんする参考文献として,上の「記録」に挙げた奥野197-199 頁を追加しておく.

次回の予定

次回は渡辺のテキストのほか,武藤テキスト,補助教材,演習問題の正解を持ってくること.

[追記および修正] 台風の接近により7月19日の授業がキャンセルされたため,次回が最終回 (7月26日,Class 14) となる.不足時間を補うため,次回の正規授業時間直後の 1200-1230 に補講を設定した.(できれば 1220 には終えたい.) 昼食を取りながらの参加を認めるが,他人の邪魔にならないようにすること.

  • 問題解説 (期末試験の対策).90分?

  • おわりの言葉.10分?

  • 授業評価.10分?

    • シラバス,特に「到達目標」を読んでおくこと.シラバスを理解していれば,「到達目標がわかりやすく書かれている」「到達目標の達成に向けて授業全体が組み立てられている」といった質問で「非常にそうである」以外の解答は出て来ないはずであると信じている.

    • 人数が少ないので,高い評価を得ないとまずいと思ってる.今年は欠席の多い学生が数人いるので厳しいかもしれない.

    • 自由記述欄に書く感想や意見を考えておこう.