戸松孝夫 2017.11.1
筆者は毎月文春を読んでおられるそうだが、これは常に新しい情報を入手し変化の激しい時代についてゆくと共に、頭脳の活性化を維持する上で大きく貢献していると思われる。しかし残念なことに、僕は自らこれを実行する気力がなく、いつものことながら他人に読ませ、そのエッセンスを頂くという簡便な方法に頼っており、申し訳ない気持ちで一杯。
1.イタリアとドイツのナショナルチーム同士のサッカーの試合
両国民の文化の違いがサッカーにも反映しているとの説明は面白い。
初めからあらゆる事態を想定してその実施に際しても規則正しく律儀に進めるドイツ軍は、実力はありながら自らの想像力に身を託して行動するイタリアチームに勝てないという実例は、伊独蹴球試合だけでなく、他のスポーツでも見られる現象である。
また我々の日常の社会生活でも両派の考え方が存在するし、企業社会でもそれぞれの正否が論じられることが多い。
日本では一般的にはドイツ型が堅実で正しいように言われており、実施する場合もドイツ型の方が楽だが、面白みや魅力に欠ける。
人生楽しく生きる為には、我等老人は陽気なラテン民族の典型であるイタリア人的発想で、残る人生を過ごしたいと思う。
日伊両国民のIdentityの違いに関するグーグルの説明は面白いし、よく理解できる。
しかしイタリアは失敗とあるが、日本人のような単一のIdentityを持つことが、果たして良いことなのかどうかは疑問である。
国際舞台で僕は「お前は日本人だから、こうだろう」と外国人に決め付けられた不快な記憶もあるが、日本人は皆「和を尊ぶ」日本文化の特質を堅持し、金太郎になることが日本の国威発揚のためには大切なのだろうが。
僕はイタリアで生活した経験がないので、イタリアの国民性や文化の多様性については無知だった。
長年暮らした豪州には南イタリアからの移民が多かったので、イタリア人とはこんなものかと自分なりの一つのイメージを持っていた。その後商用で北イタリアのミラノに出張した折、僕が豪州で抱いたイタリア人のイメージでイタリアの会社と交渉していたところ、自社のミラノ所長にえらく怒られた。北イタリアは貧乏な南イタリアとは異なる真面目な欧州人なのだと。
2.「ニコロ・マキアヴェツリの「名言」
「現実的な考え方をする人が間違うのは、相手も現実的に考えるからそんな真似はしないに違いないと思ったときである」との事例として、古代ローマの例が挙げられているが、いまひとつピンと来ない。
また「宗教が人々を助けようとする本来の姿であり続ける為には、政治も経済も充分に機能し続けていかなければならないから、俗事を馬鹿してはならない」との主張に関し宗教の役割分析には興味があるが、本文のキリスト教とイスラム教が激突する一神教の中世世界での事例も判り難い。
上記の2つの戒めは現代社会ではどのような役割を果たしているのか、身近な事例で説明がなされると判り易いだろう。
3.EU連合の本質的な問題点
下記の2点を指摘する論者は多くはないが、僕は全くの至言だと思う。
① 民主制が危機に陥るのは、独裁者が台頭したからではなく、民主主義そのものに内包されている欠陥が、表面に出てきたときである
② 人類は、現代までの2500年に亘ってあらゆる政治体制(王制から共産主義まで)を考え出す実験を行ってきたが、指導者のいない統治体制だけは考え出すことができなかった
4.日本に必要な「負けないための知恵」と日本が経験していない難民問題
女史の平凡な結論「自ら力を活用できた国だけが勝ち残れる」は然り。
自らの力とは、天然資源に限らず人間や技術や歴史や文化の等々であり、これら全てを活用する「知恵」こそが、わが祖国日本に必要だとの主張。
従って中国を追い越そうとか、GDPが何位になろうとか、大国にふさわしい外交、などに気を使う必要はないとの筆者の見解に共感。
日本が他の先進国に比べて有利な点として指摘されている①政治の安定性、②低い失業率、③不寛容な難民受入 の3点の中で、目下のところは日本で殆ど意識されていないが、③は今後対処方法を誤ると欧州諸国のように動きがとれない大問題に進展する危機を孕んでいることを忘れてはならない。
目下EUを悩ませている難民問題の解決には、古代ローマ帝国の前例に見習うべし、との女史の主張は面白いが、①のローマが強大な軍隊を移民流出国に派遣して流出を抑えていたとの歴史的事実はあまり聞かない。しかし②の「人権尊重の理念、即ち難民に受入国市民と同じ権利を保障すべきという崇高な理念に依りヨーロッパは今や逆襲されている」との分析は重要である。
これは女史がこの本の題名を「逆襲される文明」とした所以のようだが、問題は日本も今やこの崇高な理念に逆襲されかけているという事実にある。
日本は目下のところ難民は年に十数人しか受け入れていない。しかし日本には何十万人という外国人が滞在しており、その多くは家や自動車という資産を持っていないから収入が少なければ、日本国民の税金で賄われる生活保護や国民健康保険を享受することが出来る。
生活保護費(月7万円以上)が、国民年金(40年間真面目にかけてきても月6万円未満)よりも高額だとの事実は知る人ぞ知る程度の問題で、目下のところは数十万人の在日者が対象だから、税負担の総額はたいしたことはない。しかしこの事実を知った外国人の流入が年々増え続けており、更には国内の労働力不足とか国際的圧力で難民移民制限が緩和されて毎年何十万人も入ってくると、どえらい問題になることを認識する必要性がある。
最後に、「強圧的で警察国家的な恐怖政治は短命に終わる」という女史の主張の意図は何か、 北朝鮮のことか?それともアサド大統領のシリア? 具体的な説明があると判り易いだろう。
以上
P.S.
表題の「日本人へⅣ」のIVは単なる記号ではなく、4という数を示しているが、その後に続く文字が消えているということか。「4つの忠告」との意味なのだろうか?
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坂本幸雄原文