凰鳳三山から富士山を眺める
堀江秀昭
薬師岳と富士山
30年も昔だが、まだ山仲間がいないので無謀な単独行を繰り返していた頃の記念碑的な山行である。
新宿から23時55分発車する大垣行きの普通列車は、名古屋、京都、大阪方面の山に夜行日帰りで行けるので「兄さんゴーゴー」と語呂も良く、利用者が多かった。
4月の或る日この電車に乗る。4時25分穴山で一人下車。
御座石鉱泉に予約したバスがいないので電話したら1時間後に中型バス来てくれた。一人貸し切りで費用4500円を払う。
穴山を5時半に出発したが、パンク修理で遅れて6時半に御座石鉱泉に着き、装備をチェックされ、まあ良いだろうとなる。鉱泉が管理する鳳凰小屋(無人)の使用料1500円を支払う。
アイゼン装着し、ピッケルを出して6時45分に出発。すぐに胸を突く急登が始まる。
8時に西ノ平に着き小休止。ここから3時間50分かかって燕頭山2104・5mに11時50分着。
雪がちらほら降ってきた。昼食をとる。
14時心配していた吹雪になる。小屋が見つからないとビバークになるので不安だ。
簡易テント、寝袋など必要装備は持っているが小屋のほうがいい。ルートは背丈を超す灌木が沢山あってはっきりしない上、吹雪で一面の銀世界なのだ。
不安を抱えながら進む。見つからないのでビバークを覚悟したが、運良く鳳凰小屋を見つけた。
15時15分。戸を開けて、転がり込む。当然ながらほかに人はいない。大型ザックからあれこれ出して、寝支度し、食事の準備して、熱燗で乾杯。疲労もあって、20時には眠った。厳冬期用寝袋は暖かく、熟睡できた。
朝5時10分起床。パンと紅茶で食事。登山靴を見たら、かちかちに凍っていて、足が入らない。
吹雪のあと晴れて、放射冷却で気温が零度以下になった為だ。バーナーで根気よく暖めて柔らかくするのに可成り時間が掛かったが、少し焦がしてしまった。
室内を清掃して、パッキングを終え、アイゼンを付けて6時10分に歩き出す。
前日は20センチは積もったようだが、放射冷却で雪面がかちかちに凍っており、アイゼンがしっかり効いて素晴らしい歩きだ。
ルートから少し外れて地蔵岳2764mに6時半着。
オベリスクと言われる石塔は固定ザイルがあったが、登るのは敬遠する。
賽の河原は多数の仏像と石塔が林立していて、異様な雰囲気だ。
観音岳2840mに9時15分着。25分休憩する。鳳凰三山の最高峰。
天気が良いため雪が緩んできたのでアイゼンを外す。高低差の少ないルートだ。
甲斐駒や白根三山が目前で、雪煙を上げる富士山が美しい。
薬師岳2780mに10時15分着。15分休憩。山頂は広々して巨石が沢山ある。
南御室小屋に12時15分。昼食にする。
苺平は13時00分。杖立峠14時10分。夜叉神峠小屋に15時30分に到着して泊まる。
他に客は白根三山撮影で泊まっていた荻窪の若い男性のみだった。
食事を共にしながら飲んだビールが喉に沁みた。
翌朝8時、二人して夜叉神峠を下り、8時40分に夜叉神峠登山口に着き、ゲートに停めてあった彼の愛車に乗せて貰い、羊腸のような曲がりくねった車道を下って、芦安で礼を言って別れた。
芦安からバスで甲府に出てJRで帰宅した。
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