Q坂本幸雄2017.12.22
<藤田さんのホール体験の深さに脱帽>
・藤田さんから、サントリーホールへ足繁く通っておられることが良く判るほどの感想を頂き感激しました。音楽のジャンルに応じて、どんな位置のどのあたりの席が聴き心地が良いかなど、よほどの利用回数が無ければ得られない経験知でありましょう。羨ましい限りです。残念ながら、小生、当ホール開館以来、ほとんどが大阪在住のため、音楽が大好きであるにも関わらず、今まで当ホールには5、6回程度しか行ってないのです。
・それでも当ホールに関しては、小生にもいくつかの思い出があります。以下、藤田さんのすごい経験知からの感想に触発され、かつ「一橋33ネット」の落書き帖の気楽さに甘えて、小生の思い出話を書きます。興味があればご一読下さい。
<オープニング・セレモニーの思い出>
・何よりも心に響く思い出は、ホール開館(1986.10.12)当日のオープニング・セレモニーでの、初代館長:故佐治敬三さん(以下佐治サンと記す)の演出です。開館を告げるアナウンスとともに、舞台に向かって右側の二階席前方に座っておられた佐治サンがやおら舞台後方の客席通路(当日後方座席は空席となっていた?)を通って、舞台正面のパイプオルガンの前に進まれ、客席に向かってにこやかな笑みをたたえながら一礼され、パイプオルガンの”A(ツェー)“の音を右指で抑えられたのです。すると、その“A“の音に合わせて、オーケストラが音合わせを行ったのであります。通常、オーケストラの音合わせはオーボエの”A“の音で行うものでありますが、この時には、佐治サンご自身がホールのシンボルでもある、舞台正面のパイプオルガンでの音出しを演出されたのです。その時の、こころにくいほど素晴らしい佐治さんの演出が今でも深く心に焼きついているのであります。
<「音の宝石箱」との評価>
・サントリーホールについては、前回「一橋33ネット」投稿にも書きましたように、舞台から客席への残響音2.2秒にすごくこだわって設計されました。当ホール設計のテーマは、まさに「世界一美しく響くホールを!」との、その”響き“にありました。そのため、壁の側面は三角錐にし、天井は内側に湾曲させ、壁面の内装材には、ウイスキー貯蔵樽に使われるホワイトオークをふんだんに使うなど様々な工夫がなされたのであります。その結果、ホールのその卓越した”響”は、海外からの多くの演奏家からも高い評価を受けたようで、演奏家の皆さんからは、異口同音に「東京で演奏するなら、またサントリーホールで演奏したい」との声が、開館直後から相次いだそうであります。 当時、「音の宝石箱」というキャッチフレーズも現れたぐらいです。
<サントリーウイスキー「響」のこと>
・この“響”について、もう一つ印象に残っていることは、佐治サンが、この“響”という言葉を早速S社の高級ウイスキーの銘柄名に採用されたことであります。しかもそのサントリーウイスキー「響」が、その後S社ウイスキーの最高級ブランドに育ったばかりでなく、2011年以降、世界の権威あるウイスキーコンペティシォンに於いて、同じサントリーウイスキーの山崎などと共に数々の賞を相次いで受賞しているのであります。佐治サンの事業家としての商魂逞しさをここにも感じるのであります。
<サントリーホールの新しいサービスとその評価>
・また当ホールは、開設当初から、音楽ホールとしては初めての、下記のような様々な新しいサービスを開始したことでも話題になりました。
① 当時、音楽ホールなどの受付嬢は「もぎり嬢」と称され、受付時に切符をちぎるだけが一般的なスタイルだったのですが、当ホールでは「レセプションニスト」という耳慣れない受け付けスタイルが取り入れられ、お客様をにこやかに迎えるだけに留まらず、必要に応じお客様を客席まで案内するようなサービスまでも行なったのであります。今、東京オリンピックに向けて話題になっている「もてなしの心」の嚆矢的試みかも知れません。しかもその彼女らは、急ごしらえの受付嬢ではなく、その数年前に既に設立されていた「(株)サントリーパブリシティサービス」というS社関連会社所属のサービス専任の女性たちだったのです。彼女たちは、日頃S社の工場見学やS社主催のイベントでのサービスを行うサービス専任の集団だったのです。当時、ホールの入り口で「いらっしゃいませ」と迎えられることも当ホールの話題の一つとなったのです。
② また、当ホールでは、開館以来、開幕前や休憩時間にビールやワインなどを楽しめるサービスも取り入れました。そのため、ホールが音楽だけの場ではなく、社交の場にもなったのです。そのためか、来場の女性たちのおしゃれ度も格段にアップしたとの話も聞きました。
③ 更に、サントリー自体が国際的な事業活動を積極的に行うようになって以来、海外の事業関係者の間では、東京にS社の音楽ホールや美術館があること自体が、S社の大きな魅力になっているようであります。今では、S社の新波社長も、海外関係者来日の折には、必ず当ホールや美術館に案内するような流れをつくっておられるそうであります。メセナ活動にはそれなりのコストがかかっているのは事実ですが、その一方で、国際化という現下の局面では、それらメセナ活動自体が、S社の国際的活動を大いに助ける力にもなっているようであります。(坂本幸雄 H29.12.22記)
サントリーホール雑感…M藤田光郎2017.12.20