Amazonルポライターの目線2008-06-07転載

黒潮丸がレビューを書きました 2008-06-07 ルポライターの目線

これで私は彼の航海記を3つのメデイアで読んだことになる。

1.ヨット雑誌「KAZI」に2年にわたって連載された「グランドバンクス42で地中海クルーズ」

2.ルポライター足立氏による単行本「船で暮らす地中海」

3.朋友郡山史朗君が主宰?する小僧コムの看板コラム「稲次船長の地中海航海記」 である。

ちなみに彼のボートの艇名は「ハイドランジャー号」

それぞれについて軽い感想を述べる。

1.雑誌連載

個人の航海者にとって、特に日本の航海者にとって地中海クルーズは夢である。

海域の大きさ、海域の地形、海域の気象・海象はマイボートのサイズに適し、そして何よりも歴史の集積が圧倒的に航海者の心を唆る。

そこには太平洋クルーズとは全く違うものがあるであろう。

大いに期待して連載を読んだ。

モータークルーザー(エンジンのみで推進する。時速約11ノット−20Km、ハイドランジャーの場合。)とセーリングクルーザー(セールとエンジンを併用する。時速約7ノット−13Km。燃料が切れても自航出来る。)とは走り方がまったく違い、航海に対する姿勢も思想も異なってくるのであるが、正直言って彼の最初の頃の航海記は私にはあまり面白くなかった。

自分も航海者として、航海記は自分の航海のための参考書として読むのであるが、例えば最も知りたい海象の記述が少なかった。ボート乗りとヨット乗りの違いである。

配慮すべきこと、記録すべきことにも欠落が多く、不満を感じた。

当然である。彼はこの頃まったくのビギナーだったのだ。

しかし巡る港、泊地での出来事、多くの交遊は私にとっても夢の世界であった。

2.単行本

足立倫行はよほど稲次船長の生き方に惚れ込んだものとみえる。地中海まで何度も足を運んでは航海を共にしている。

サラリーマンを終えて、マイボートで世界を航海して回る男の姿、これは書き甲斐がある。これは多くの人々の心を捉えて、本も売れるだろうと思ったのだろう。

そして彼の取材、彼の価値観で本をまとめた。

航海部分だけでなく、稲次の生い立ち、三井物産での仕事、稲次を取り巻く人々などの記述が多い。いや、むしろそちらが主体かもしれない。

そうだろう。足立は船を知らず、航海を知らない。ただ珍しく、感嘆し、面白がっているだけである。

ただ、稲次のリタイア後の生き方に憧れてこの本を読む人にとっては、これが同じ目線なのだ。この書き方で正解なのだ。

国内でドサ回りの営業をしていた私にとっては、商社マンの仕事の実際は初めて知ることが多かった。彼が大変な努力家であることも知った。

3.SNSのコラム

これはここ2−3年に書いたものだろう。初期の航海記とはまったく違っている。内容もあちこちで知合ったボート・オーナー仲間、泊地での人間関係などの記述が主体になる。

船乗り仲間の交遊も、いきなり東洋からやってきた変なヤツと、毎年ラリーに参加する日本の紳士とは質が変わってくるのである。尊敬し、尊敬される人間同士の付き合いがここにはある。

彼の人間観察はぐっと深まり、筆も伸びる。一番面白い。皆さん、小僧コムにどうぞ。

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