Q羽島賢一:母校に巣くう怪獣達(2018.5.19)2022.6.25 Home

2022.6.25


如水會々報6月号に一橋大学入学式の一連の記事が掲載されています。


中野聡学長の祝辞のタイトルは「神獣たちが君たちを見守ります」となっています。


文中、「最後になりますが、新入生の皆さんには是非、教えておかなければならないことがあります。


私たち教職員一同とともに、この国立キャンパスでは、たくさんの神獣(人によっては、妖怪とも呼ぶかもしれない不思議動物たち)が、皆さんの学生生活を見守ってくれています。


・・・中略・・・兼松講堂を出たら、今度は是非キャンパスをめぐって伊東忠太の不思議動物を楽しんでください。」との記述があるが詳細は語られていない。


羽島は以前、33 PC netを去来川君とともにお世話をしていたことがあった。


その時代に投稿した記事と、それに関連する雑誌記事を添付してお届けします。


どんな神獣があるかご覧になれます。

母 校 に 巣 く う 怪 獣 達

「建築探偵東奔西走」藤森照信(文)・増田彰久(写真)...朝日文庫を読んで面白い記事を見つけました、要点のみご紹介します。母校訪問の際、怪獣探しをされては如何ですか。

何匹見つけられますでしょうか。上を見つつも足元にもご注意を。

山口百恵さんが新居に選んだ国立には二つの宝がある。一つは、駅前の馬鹿みたいな大通り。大正14年堤康次郎が持ち前の強引さで作ってしまったこの大通りは、道幅が43メートル、延長1.5キロメートルもある。並木の歩道が見事だから、「ここは日本か」って誰でも思うほどだ。

この街の大通りと並ぶもう一つの宝はもちろん一橋大学。正しくは、一橋大学のキャンパス。

(母校を訪問した際、「大学は建物にあらず」と言ったのはシュームペーターでしたか)大学に入るにはすごく勉強しないと難しいが、キャンパスには誰だって入れる。

中心に池があり、池のほとりには芝生や植え込みが広がり、ところどころにベンチがあって、その向こうをグルリッと石の洋館が取り囲んでいる。大げさにいうと、ヨーロッパ中世の修道院の中庭ともいえなくもない。

しかし、このキャンパスを散歩する際注意しなければならないのは、そこかしこに巣くっている不気味な怪獣についてだ。

怪獣は、昭和2年、設計者の伊東忠太がロマネスク様式を採用したことに由来する。

ロマネスク様式は、ヨーロッパの中世の闇の中に花開いた建築スタイルで、キリスト教会や修道院なんかに使われているが、どうも中世のキリスト教世界は奇怪な想像力に満ち溢れていたらしく、やたらとヘンな動物を産み落としては、建物にくっつけた。

その名残で、ロマネスク様式の一橋キャンパスには怪獣がうようよ隠れている。

ざっと一回りしただけでも、次のような種類が見つかった。

17種99匹におよぶこうゆうやつらを眺めていると、ライオンや鳥の類はまあいいとして、軒の上からじっと下をうかがうトカゲ顔のオオカミなんかは大人でも気味悪いから、はたして、散歩中の乳母車の中の赤ん坊が引き付けを起こしたりしないもんか心配になる。

下を通る時は、百恵さん注意してくださいよ。

以上

2011.06.18 羽 島 賢 一

追記

賢明な諸兄が想像力を駆使しても、私の拙い文章ではイメージが浮かんでこないかもしれません。幸いなことに、日経BP社から プレモダン建築巡礼(明治・大正・昭和の名建築50」 が発行され、その中に 「怪獣たちのいるところ─ 一橋大学兼松講堂(昭和 2年)」 が掲載されています。( 2018.4.23 発行 2,592 円)幸いなことに、日経アーキテクチュア誌から当該部分に加え、未掲載の写真を含めアップロードされています。引用し、抜粋して、以下に紹介をいたします。

プレモダン建築巡礼 (日経アーキテクチュア 2018.4.23 発行)より抜粋

怪獣たちのいるところ─一橋大学兼松講堂 (昭和 2 年)建築版「ビックリマン・シール」に込めた伊東忠太の思い 磯 達雄=ライター

今回は「建築」という言葉を日本に普及させた建築家、伊東忠太の設計で昭和 2 年(1927年)に竣工した一橋大学兼松講堂。建物内外におびただしい数の空想動物が埋め込まれたこの建築、1980 年代後半に爆発的ブームを巻き起こした「ビックリマン・シール」を思い出させます。

所在地=東京都国立市中 2-1 設計=伊東忠太 竣工=1927 年(昭和 2 年) 交通=JR 国立駅から徒歩 6 分 (写真:磯 達雄)明治 19 年(1886 年)に設立された造家学会は、明治 30 年に建築学会へと変わる。この名称変更を提案したのが伊東忠太である。翌年には東京帝国大学の造家学科(現在の東京大学工学部建築学科)も建築学科に改称。以後「アーキテクチュア」の訳語として「建築」という言葉が定着する。それを広めた張本人が伊東というわけだ。 伊東は日本で最初の建築史家である。東京帝大で辰野金吾のもと建築を学ぶと、大学院では本格的な日本建築史の研究に進み、博士論文として「法隆寺建築論」を執筆。そして法隆寺の膨らんだ柱が遠くギリシャから伝わったものであるとの仮説を検証すべく、アジアからヨーロッパまでを横断する調査旅行に出掛ける。しかしそれを確かめることはかなわず、代わりに中国で3雲崗石窟(うんこうせっくつ)(5 世紀の石窟寺院)を発見したりもする。 他方で伊東は、建築家でもあった。平安神宮(1895 年)、明治神宮(1920 年)などの神社建築のほか、日本初の私立博物館である大倉集古館(1927 年)や珍しいインド風の寺院、築地本願寺(1934年)など、多くの建物で設計を手掛けている。 特徴としてよく知られているのが、奇怪な動物の像を建物に取り付けること。

震災記念堂(1930 年、現・東京都慰霊堂)、湯島聖堂(1935 年)、築地本願寺などにそうした動物が見られる。なかでもその数と種類が最も多いのが、今回、取り上げる一橋大学(旧・東京商科大学)の兼松講堂だ。

(イラスト:宮沢 洋)

由来も不明な怪獣たち

建物を見ていこう。ファサードは切妻形の立面に、大きく 3 連の半円アーチが上下に重なり、その中に窓と玄関が収まる。壁にはメダリオン(円形の装飾レリーフ)が付き、そ4こには既に動物がいる。玄関まわりの柱頭にも、装飾の中に何匹もの動物の顔が並ぶ。

内部に入ると、ホールのプロセニアム(舞台の額縁)もきれいな半円を描いている。半円アーチはロマネスク様式の特徴で、素朴で平明な空間の印象は、これによるところが大きい。そして、そこかしこで目に付く、不思議な姿をした動物たち。アーチの下、階段の手すり、照明の器具など、付けられそうなところにはすべてそれがあるといってもいい。

動物の装飾は、これもロマネスク様式に見られる特徴だ。例えば東京・神田にある丸石ビルディング(設計:山下寿郎建築事務所、1931 年)もロマネスク様式の建物で、これにも多くの動物像が付く。ただし、こちらにいるのはライオン、フクロウ、ヒツジなどの実在する動物たち。対して兼松講堂に見られるのは、その多くが龍、獅子、鳳凰といった空想上の動物たちである。

A:交差ボールトが架かる玄関ポーチ B:正面玄関のアーチを支える柱頭の装飾。海の怪獣か?

C:2階のロビーでアーチを支える怪獣 D:2 階のホワイエ E:舞台のプロセニアム(額縁)も半円アーチF:プロセニアムを支える柱頭には十二支の彫り物 G:ホール内部の側面にいるのはコウモリ?

H:地下にある階段の手すり。獅子が吐き出している (写真:磯 達雄)

それだけではない。名前も由来もよく分からない不思議な顔かたちをしたものもある。そして圧倒的な数と種類。一体これは何をもくろんだのだろう。

断片から浮かぶ壮大な物語

おびただしい数の動物像を見て歩きながら、思い出したのがビックリマン・シールだった。これはロッテのチョコレート菓子のオマケで、シールのオモテ面には悪魔や天使などのオリジナル・キャラクターが一体ずつ描かれている。これが 1980 年代後半、子どもたちに爆発的ブームを巻き起こした。オマケ付き食品の大ヒットとしては、1970 年代前半の仮面ライダー・スナックなどの前例もあったが、それらとビックリマン・チョコレートは根本的に異なる、と評論家の大塚英志は言う。仮面ライダーのような、元になるマンガやアニメの原作が存在しなかったからである。それならどうして、子どもたちはビックリマンに熱狂したのか。ビックリマン・シールの裏面には、キャラクターについての短い解説が記されている。1 枚だけでは分からないが、数多く集めていくうちに、悪魔たちと天使たちが戦う壮大なストーリー、言い換えれば裏設定が浮かび上がってくる、という仕掛けだ。「〈大きな物語〉の大系を手に入れるために、その微分化された情報のかけらである〈シール〉を購入していたわけである。したがって、製造元の菓子メーカーが子供たちに〈売って〉いたのは、チョコレートでもなければシールでもない。〈大きな物語〉そのものなのである」(大塚英志著「物語消費論」) 伊東忠太は、建築においてビックリマン的な楽しみ方を先取りしていたのではなかろうか。彼が建築史で構想したのは、ギリシャのパルテノンと日本の法隆寺といった、時代も場所もばらばらな建物をつないで、大きな物語を紡ぎ出すことだった。そして建築の設計においても、ひとつずつの動物像を捉え6るだけでは分からない、それらの間を想像で補完することによって初めて見えてくる大きな物語が、実は仮定されていたとも考えられる。

(イラスト:宮沢 洋)

それを読み解くには、伊東忠太と同じ妄想力がいるのかもしれないけれど。

(文中敬称略)

本書に未掲載のオマケ写真をどうぞ!

正面のアーチの内部には鳳凰、獅子、龍のメダリオンが付く(写真:磯 達雄)

正面玄関のアーチを支える柱頭の装飾(写真:磯 達雄)

側面の壁の装飾(写真:日経アーキテクチュア)

側面の壁の装飾(写真:日経アーキテクチュア)

2階ロビーのアーチを支える怪物(写真:日経アーキテクチュア)

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