『伊集院静「琥珀の夢:小説 鳥井信治郎 上下」』

2017年11月25日

P 戸松孝夫

当該小説に関するQ坂本、Q森ご両氏の紹介文を読ませて頂き、考えたことを記します。

著者は「鳥居信治郎のような生き方は悪くないなと若い人に感じてほしい」と語っているとのことで、「事業家としての逞しい生き方や素晴らしい人間性など」本書から学ぶところが多くありそうだが、現役を退いて20年の僕が今さら新しい生き方に挑戦するなどはあり得ないから、本書を読んでも数々の教訓から得るものはあまりないのではなかろうか。またこの年齢になって新たに、“日本産業発展史”を勉強する元気もないが、管理人(森兄)のコメントのように「在京の孫たちに読ませたい」との気持ちは共有できる。

今回紹介文を読んでいて思ったことは、もし40年前に本書を読んでいたらどうだったろうかということ。

① 鳥居氏同様、僕も好奇心は強かったが、勇気はなかったから:「誰もやってへんことやさかい、やるんだすわ」「失敗を恐れず挑みなさい」には付いてゆけなかっただろう。僕は生涯単なるサラリーマンで満足しており、自分で事業を始めようとの意欲は全くなかった。従って「七つの短い言葉」にも感動を覚えることは多くはなかったように思われる。

② サントリー社発展の原動力たる「やってみなはれ」との経営理念は、僕の勤務先では40年前はまだご法度だったように記憶している。しかしこの頃から、日本の多くの企業が、このような積極的な経営指針を取り入れて世の変化に対応してきたが、20世紀末になっても旧態依然として古い経営哲学に拘っていた大手企業が何社か潰れたのは、我々ビジネスマンの記憶に新しいところである

③ 僕は元来、J・M・ケインズが企業家精神のなかで最も重要なものとして挙げた”アニマル・スピリッツ“に欠けており、また将来の収益を拡大しようとの”熱き思い“を持つこともなかったから、「不確定な心理」に基づく行動をとることはしなかっただろう。

④ 「“近江商人の三方よし”をその商いの基本に据えよ」との商社マンとしての基本的な教育を受けて、心底からこの理念を実行してきたが、「自分の商いを通じて、終始世の中を明るく幸せにすることを目指す」という自分とは程遠い理想的な経営者像には関心が湧かなかったと思う。

上記のような次第で、当紹介文を読んで、本著書上・下巻を買ってみようとの気持ちは起きなかったが、下記3点については、好奇心から全文を読んでみたいと思う。

① 親の遺産を全部はたいて高価な一等船室での船旅に挑戦し、ウイスキーとの運命の出会いをした場面には多大な興味がある。英国紳士に喰らいつき彼等の姿を真似しながらウイスキーを飲む習慣を自分のものにしたプロセスは、異文化の習得に挑戦していた若き日の自分と重なるような感じもする。また今はクルージングと称して完全なレジャーになっているが、当時は唯一の外国へ移動する手段だった船旅の様子を詳しく知りたい。

②洋酒をただの商品ではなく、「文化」として捉え、日本で作ってみることに挑戦したセンスは素晴らしい。僕も酒は文化と考え、これまで世界各地で地元の酒を飲んできた。この中で最も印象的だったのは、今やテロ国家として有名な中東の小国シリヤのアラクと称する酒である。ナツメヤシを原料とする強い蒸溜酒で、見た目は焼酎と同じ透明だが、水を一滴でも落すと忽ち濁って白濁色になる。面白いので2本ばかり買って持ち帰り、一本は今も大事に保管しているが、この先僕の命も長くないだろうから、死ぬ前に飲んでしまおうと思っているので、「酒を文化と考え、アラクの開旋・試飲に興味のある方」は、我が家にお出で願いたい。酒にだらしない親父を反面教師として息子たちは二人とも酒には一切手を出さないから、シリヤから渡来の珍しいボトルを残しておいてもゴミで終わる運命だ。

③ 鳥居氏が若い頃は大八車を引いて駆け回っていたというのは、日本の古い経営者の立身出世物語によく出てくる場面である。最近の事業家では殆ど聞かない話だが、僕の親父も社会に出たころは、こういう苦しい経験をしたようだった。それを息子に具体的に話すことはなかったが、ただ「若い時は苦労しなくてはいけない」との抽象的なお説教はよく聞かされた。

以上

*****************************(コメント) 上原 利夫 P *2017.11.25 23:37**********

森さん 上原です。

戸松さんの感想文を拝見して、興味深く拝読しました。

一橋大学卒業の企業サラリーマン出身者に共通するものがあると感じますが、出身高校や出身県にも「共通の…らしさ」がありました。ちなみに、坂本幸雄さんは、鹿児島県・鶴丸高校の出身、郡山史郎さんは鹿児島県・ラサール高校の出身、戸松孝夫さんは東京都・都立大付属高校出身です。

現在の一橋の学生は東京都出身者が増え、地方色が薄くなっているのは問題です。しかし、帰国子女が増えてきたのはダイバーシティの観点からプラスでしょうか。

*************************************************以上***************

シリアのアラック(アラック・ラヤン)のボトル

wiki:アラクアラビア語: عرق‎、ヘブライ語: ערק‎)は、中近東、特にイラクシリアを中心とし、エジプトスーダンのような北アフリカ地方などでも伝統的につくられてきた蒸留酒。アラクはイスラエルパレスチナにおいても入手可能である。

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