坂本幸雄2017.11.14
(如水会報2015年5月号掲載)
・この度、恙なく傘寿を迎えることができました。この僥倖に加えて、今までに私が戴いた珠玉の恵みは、素晴らしい二人の賢人・賢兄との出会いです。それぞれに経営者・学者としての偉大さだけでなく、それ以上に豊かな見識と人間性に大きな感銘を受けたそのお一人は、勤務していたサントリーの名経営者として会社の飛躍的な発展のみならず、今もサントリーホールやサントリー美術館などで光彩を放っている数々の社会貢献活動にもご尽力され、私自身四十年間の勤務を通じて驥尾に付してその薫陶を戴いた故佐治敬三氏であります。もうお一人は、生涯に亘って友情溢れる交流をして戴き、本学改革にも大きな足跡を残された故阿部謹也元学長であります。傘寿とは、これら幾重もの幸運と恵みの“傘”に庇護されての祝寿かな!、との思い。只々感謝するばかりであります。
・会社の仕事を終えた後に取り組んだ、如水会大阪支部長としての喫緊の財政赤字解消の課題。またその頃続発していた日本企業の不祥事に触発され、その問題の根源的問題の究明とそのあるべき対応を研究したい、との思いで入学した大阪大学大学院での「日本におけるコーポレート・ガバナンスの問題点と今後の課題」という修士論文執筆(四百字原稿用紙換算約五百枚)。これら二つの課題を何とか終えての七十歳代からの時間は、将に心機一転の新天地を拓くゆとりの時間となりました。その時に感じたことは、「健康にも恵まれた折角のこの豊かな時間だ。残り火のごとき夢であっても、それが夢であるならばその夢の実現に充てよう」との強い思いでありました。心に蘇ったのは昭和三十年代初め、母校のオーケストラでの貴重な体験。具体的には、第二バイオリンのパートで演奏したベートーベンの第五や第八交響曲などの震えるほどの感動体験であります。その時に体感した「アンサンブルで楽しむ音楽への止み難い憧憬」は、わが青春を彩る熱き感動のひとコマとして、心の奥底に炬火の如く燃え続けていたのであります。
・時は流れ、動から静への七十歳代。思い至ったのは若き日のあのオーケストラでのアンサンブルの感動に些かでも近づきたいとの願いから、吹奏楽器では比較的にマスターし易いといわれるアルト・サックスによるバンド結成の夢でした。思い立ったが吉日。七十三歳の手習いで始めたアルト・サックス。苦節数年、二つのレッスン・スクールでジャズとクラシックを同時特訓。周りは先生も生徒も親子ほどの年齢差のある若い男女。それでも一昨年(2013年)、若い仲間の皆さんに誘われて男女七名で宿願のサックスバンドを結成しました。今、そんな皆さんの熱気と元気を戴きながら、懸命に練習に励んでおります。その甲斐あってか、発表会やライブ・ハウスでの競演会などで合奏するジャズやポップスの響きに、未熟ながらも「老いのトキメキ」を体感しています。
・人間は、誰もがアリの如き“働き心”とキリギリスの如き“遊び心”を併せ持ち、それぞれの人生のステージの状況に応じ、その双方にどの程度のウエイトを置くべきか考えながら生きることを常としているのではなかろうか、と思います。老齢の今は、アリの働き心の桎梏から解き放たれ、伸びやかな気分でキリギリスの遊び心に専心しています。
・私にはサックスもジャズも今まで馴染みのない世界でしたが、それだけに、遅かりし只今の体験は、デイレッタントの身には全てが未知との遭遇ともいうべき感動体験の連続であります。またバンドの演奏で感受するアンサンブルの楽しさは、この老骨にも一層の練習意欲を呼び起こし、それがまた、日々に刻む通奏低音の如き心休まる生活のリズムともなっています。
・そして今思うのは、老いてなお“心ときめく“このキリギリスのハーモニーが今暫し持続でき、やがて辿る終焉への道程にささやかな彩りを添えるメモリーになれば、との願いです。(サントリー(株)元役員、如水会大阪支部 元支部長(以上)
・なお、文中にある「小生たちのサックス・バンド」ついて興味あれば、「Youtube」に「クリケッツ7」とインプットするとその映像が見られます。
(2013年ごろのやや不鮮明な映像で中央黒い帽子が小生です)
以上 Qクラス坂本幸雄 H29.11.14記