Q坂本 幸雄 2017.11.23
Qクラス森さんが『「琥珀の夢」伊集院静インタビュー』という記事を投稿されました。「琥珀の夢」伊集院静インタビュー...Q森 正之2017.11.23
S社出身の小生としては、大変うれしく思います。
実は、小生も、鳥井信治郎翁に対する敬愛と尊崇の意を込めて、先日、下記の拙文をS社OBのHPに投稿しました。
森さんのご厚意に対するお礼をも含め、その投稿文を本ネットにも掲載させていただきます。明治・大正という厳しい時代を逞しく生き抜いた一事業家への小生の寸評としてお読みいただければ、と思います。
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『伊集院静「琥珀の夢:小説 鳥井信治郎 上下」』の新聞広告を見ての感想(当広告はH29.11.16掲載の日経下5段広告)
<はじめに>
・先日の11月16日、単行本「琥珀の夢」の新聞広告が、出版元:集英社の広告として日経紙に掲載されました。
・この広告紙面には、①広告面中央に標記広告文『・・』が大書され、②その左下には、「たちまち4刷 12万部突破!」との説明付きで「琥珀の夢上下二巻」の写真が、③その広告面右下には、著者自身による解説:「“やってみなはれ”は失敗を恐れず挑みなさいということだ。どんなちいさなことでもやり続ければ、やがて青い大きな空が見え、やさしい風に出逢う。鳥井信治郎が示した日本人の生き方だ。伊集院静」というコメントが書かれていました。
・更に、上記3点配置の広告紙面の隙間には、著者自身がこの小説の中で紡ぎ語っておられた七つの短い言葉が書かれていました。私はそれを読んで、この七つの言葉が、多くの読者に、まるで夜空に光輝く七つの綺羅星の如き輝きをもって、小説の懐かしの名場面を、それぞれに想起・追憶させたのではなかろうか、と思いました。
<七つの言葉>
・その七つの言葉とは、下記の片言隻句の短い言葉であります。
①松下幸之助が“商いの師”として生涯愛した男。
②日本初の本格国産ウイスキー造りに命を捧げたサントリー創業者・鳥井信治郎の挑戦!
③売り手や、買い手だけやのうて、周りの皆がようなるのがええ商売だす」
④「わてにはよう見える。あの子らが商品となって、いろんな所で日本人を喜ばせとる姿が 見えるんや。
⑤誰もやってへんことやさかい、やるんだすわ」
⑥「五年、十年耐えた分の、商いの辛抱は実らせなあかん。これからがわてらの商いの正念場や。一年の辛抱が、一年を超える商いになるはずや」
⑦ここで投げ出してしもうたら博労町の職人の名が泣いてまうで・・・。ほれやってみなはれ。必ずでけるよって」
感想:
・私は、この七つの短い言葉を読んだだけでも、ある種の感動を覚えたのであります。
何故かと言えば、それは、鳥井信治郎翁(以下翁と記す)がわれらS社の偉大なる創始者であるばかりでなく、それ以上に、何よりも、翁が大正・昭和という、誠に厳しい時代のなかにあって、「琥珀の夢」の実現に向けて勇気凛々その類稀なる経営者としての道を究められた人であり、「琥珀の夢」は正にその生涯を見事に活写した小説であったからであります。更に私は、翁の事業家としてのその生涯を、“日本産業発展史”という観点から評価してみても、それは、紛れもなく、大正・昭和の経営界に光彩を放つ快事であるばかりでなく、これからも更に、末永く語り継がれるべき数々の教訓に充ちた素晴らしい物語である、とも考えたのであります。
<この七つの言葉が意味するもの>
・この七つの言葉から教えられたことは下記のことであります。
・①からは、翁が、日本の経営の神様と呼ばれているあの松下幸之助氏からも、“商いの師”と仰がれるほどに事業家としての才覚・見識・力量・指導力を兼ね備えておられたこと。
・②からは、西洋伝来の商品:ウイスキーを何とか日本に根付かせようとのパイオニア・スピリッツの持ち主であること。
・③からは、“近江商人の三方よし”をその商いの基本に据え、自分の商いを通じて、終始「世の中を明るく幸せにすること」を目指しておられたこと。
・④からは、長年熟成させてようやく“まろやかな味わいに育っていくウイスキー”を、まるで我が子のように愛おしく思っておられた、その商品への愛着心。
・⑤からは、“未踏の世界だからこそ”との挑戦意欲。
・⑥からは、商売への飽くなき野心・血気。なお、この⑥の言葉の神髄は、20世紀初頭に数々の経済学の名著を著わしている“J・M・ケインズ”が、企業家精神のなかで最も重要なものとして挙げた”アニマル・スピリッツ“そのものであると、私は思ったのであります。ケインズが言う”アニマル・スピリッツ“とは、一般的に言って、事業家が行う投資の多くは、安全性を重視して、過去の経験則などによる合理的な計算に基づいて行われるのが常でありますが、その一方で、将来の収益を拡大しようとの”熱き思い“を持つ人の場合には、必ずしも合理的には説明できない「不確定な心理」に基づいてその投資が行われる場合もある、との考え方であります。ケインズは、これを動物的勘に例えて”アニマル・スピリッツ“と呼んだのです。翁の場合は、紛れもなくこの「不確定な心理」に基づくウイスキーへの投資でありました。
・そして最後の⑦からは、自分が若い時から学んできた上記①~⑥までの全ての経験則を集大成され、「やってみなはれ」という、今もS社発展の原動力となっている、自らの経営理念にまでそれを高められたのであります。
<感動のさざ波>
・「琥珀の夢」は発売1ケ月足らずに既に12万部売れている、とあります。この事実は、新聞小説で“琥珀の夢”を読まれた人々の多くが、翁の事業家としてのその逞しい生き方や素晴らしい人間性などを改めてこの単行本で再確認したいと思っておられることの証左でありましょう。更にこのことから、私は、それら多くの人々の心のなかには、ひょっとして“感動のさざ波”さえも巻き起こっているのではなかろうか、とも考えたのであります。
・私もこの単行本上下2巻を発売直後に買いました。勿論その動機は、同じく感動の再確認であります。が、もう一つには、いずれの日にか、子供や孫たちに、じいちゃんが働いていた会社のことを知ってもらいたい、との気持ちもありました。
(坂本幸雄 H29.11.17 記)