アンケート記事 -日本人留学生の減少理由について-

Post date: Jan 05, 2013 5:59:0 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ Jan 2013, Vol. 55, No. 1

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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新年あけましておめでとうございます。昨年末、日本人留学生の減

少理由についてカガクシャネットで行ったアンケート結果を発表し

たいと思います。協力していただいたメンバー、スタッフの皆様あ

りがとうございました。

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『近年、海外留学する日本人学生が減少傾向にある理由はなぜだと

思いますか?』

という問いに対し、カガクシャネットの留学経験者18名、未経験者

11名に別け、ランキング形式でまとめてみました。(アンケートの

自由解答の結果をスタッフが項目ごとに分類しました。なお、1名

の回答でも複数の項目に該当する場合はそれぞれ1票とカウントして

いるため、回答者数と票数が異なっています。)

留学経験者の「留学生の減少理由」

1位:就職活動の問題(4票)

1位:必要性の問題(4票)

3位:学力の問題(2票)

3位:社会認知の問題(2票)

3位:お金の問題(2票)

6位:少子化(1票)

留学未経験者の「留学生の減少理由」

1位:お金の問題(5票)

1位:社会認知の問題(5票)

3位:必要性の問題(4票)

4位:目的意識の問題(2票)

5位:学力の問題(1票)

留学経験者と未経験者の一番の違いは、就職活動とお金に関する項目

のようです。実際に留学して就職活動をしてみるといろいろな困難に

遭遇し、1位にランクインしているようですが、未経験者は減少理由

のランキングには登場すらしていません。また実際に留学している人

は、すでに金銭的な問題を乗り越えている、もしくは乗り越えるすべ

を知っているため、未経験者とお金に関する項目の順位が違うのかも

しれません。詳しくは、メリット・デメリットの結果で就職とお金に

関して考察しています。留学未経験者の一位である社会認知に関して

は、「留学する選択肢を知らない」「支援が少ない」「周りの反対」

「日本の社会制度が留学の価値を理解していない」など日本で留学を

後押しし、受け入れるシステムが不足している意見が多く聞かれまし

た。最後に未経験者からは、向上心や挑戦心の欠如が留学者数に影響

しているという目的意識に関する意見もありました。

反対に留学経験者と未経験者の共通理由である、必要性の問題。

「分野によっては日本が世界トップレベルのため専門知識のために留

学する必要性が無い」「日本で働きたい」「国内の生活に満足してい

る」という、日本のアカデミアが発展・成長しているからこその意見

も聞かれました。学力の問題では、「中国人やインド人の方がGREや

TOEFLの点が高い」「途上国からの留学生に押されて一流校に入りにく

くなり、その結果海外留学の魅力が低下した(海外の二流より日本の一

流)」など学生の実力不足を問う意見もありました。

理由を細かく見ていくために、留学のメリットとデメリットの結果を

ご紹介。

留学経験者の「留学のメリット」

1位:異文化理解力の向上(4票)

1位:人脈の形成(4票)

1位:言語力の向上(4票)

4位:適応力の向上(3票)

4位:学術的メリット(3票)

6位:財政的メリット(1票)

留学未経験者の「留学のメリット」

1位:異文化理解力の向上(3票)

1位:学術的メリット(3票)

3位:言語力の向上(2票)

3位:適応力の向上(2票)

3位:経験そのもの(2票)

6位:人脈の形成(1票)

留学経験者と未経験者の一番の違いは、人脈の形成。世界中に人的ネッ

トワークができることが、経験者に特徴的なメリットのようです。人脈

は就職や共同研究に役立つのもたしかですが、留学経験者がいかに留学

中にいろんな人たちに出会い、大きな影響を与えられたかが伺えます。

おもしろいのが、デメリットとしてあげられているお金がメリットだと

いう経験者の意見が存在すること。たしかに学部やMasterのプログラム

では助成金が得られず、膨大な学費や生活費を自分で払わざる終えない

場合もありますが、PhDプログラム(一部のMasterやBachelor)ではTAや

RAといった助成金(給料)をもらえれる場合も多く、その金額は学費と

生活費をすべてカバーするのが普通です。日本に比べ「豊富な財政援助」

もメリットの一つになりうるのです。

逆に両者に共通している点は、異文化理解力の向上。これは人脈の形成の

要素もあり、異なる文化を理解して行動できる適応能力にも似ていますが、

さまざまなバックグランウンドを持つ人たち、研究スタイル、価値観、多

様な常識を学ぶことで「人生の幅が広がる」「日本を客観的に見れる」

「視野が広がる」など、異なる文化と触れ合う経験でしか得られない何か

があるのは、留学経験の有無に関わらずメリットとされているようです。

もちろん、英語を話さないと生きていけない環境下に毎日おかれると言語

能力、適応能力は向上します。学術面でも分野によっては、海外に世界ト

ップのプログラムが多く存在し、「日本では学べないこと」がたくさん存

在します。

最後にデメリットをご紹介。

留学経験者の「留学のデメリット」

1位:就職時のデメリット(10票)

2位:お金のデメリット(3票)

2位:プレイベートのデメリット(3票)

留学未経験者の「留学のデメリット」

1位:お金のデメリット(4票)

2位:就職時のデメリット(3票)

3位:心理的不安(2票)

4位:プライベートのデメリット(1票)

4位:デメリットはない(1票)

留学経験者と未経験者の一番の違いは、就職とお金の項目の順位が反転し

ていることです。これは最初の留学者数減少理由のランキングにも反映さ

れているように、経験者ほど就職時にデメリットを感じているようです。

その理由は、「時間を合わせるのが難しい(主に日本国内の企業の就職セ

ミナーやインターン)」「日本はコネベースの採用や系列からの採用も多

い」「留学生が、海外での就職の場合、永住権、ビザの問題で、現地採用

が容易でない一方で、日本企業への就職活動において、日本企業が海外留

学経験を正当に評価できていないこと。」「日本国内でのコネクションが

なくなる」など、実際に「日本での就職に不利」と解答した経験者が2名

いるほど、日本での社会復帰の難しさは経験者の間ではぐんを抜く意見の

ようです。これから留学するものにとっては留学費用、学費、生活費の不

安が大きいのも頷けます。

逆に共通している点では、プライベートのデメリット。家族、友人、恋人

となかなか会えなくなるのは当然であり、友達の結婚式をFacebookでしか

確認できなくなるなんてこともしょっちゅうです。

<考察>

このアンケートを通して思ったことは、スタートとエンドポイントのギャ

ップです。たとえ日本人学生を大量に海外に送り出せたとしても、その後の

受け皿がないかぎり、そんなリスキーな橋を渡ろうと思う人が減っても不思

議ではありません。世界中のPhD取得者数に比べ、その受け皿となる就職先が

極端に少ないのです。これは日本に限ったことではないですが、このPhD取得

者数と受け皿のギャップは日本が最も深刻であるというNature記事(2011年)

があるほどです(http://www.nature.com/news/2011/110420/full/472276a.html)。

逆に中国やインドなどは、海外から帰国するPhD取得者の国内需要が日本に比

べ豊富にあることもPhD取得者数が増加している 理由の一つとされています。

スタートする人の数を増やすためには、エンドポイントを増やす必要があると

思います。分野によっても違いますが、目的のPhDプログラムがアカデミア(大

学教授など)の人間を育成するための機関であれば、普通に過ごしていたら企

業就職に必要なスキルは身につきません。特に日本での企業就職が目的なら、

どのようなスキル、コネクション、研究が日本企業から求められているのか留

学当初から意識する必要があるように思います。アカデミアに残ることが目的

でも、セカンドキャリアにも応用できるスキルセットをPhDの間に取得すること

で、エンドポイントを増やすことは利巧かもしれません。

人脈形成はメリットに上がっていますが、アメリカでの就職では、コネクショ

ンは非常に重要となっています。例えば、employee referral と呼ばれる、従

業員(学校の卒業生など)を使ってレジュメを提出するという方法があります。

これは大きい企業であればあるほど重要です。何百通ものレジュメを毎日受け

取っている企業が全てのオンラインで提出されたレジュメを見ることは不可能

です。ソフトを使ってキーワードに引っかかるレジュメのみを抽出していたり

します。そこで employee referral が役に立ちます。従業員に自分のことを推

薦してもらう、そうすれば少なくともレジュメは見てもらえるのです(インタ

ビューを受けれるかどうかはマッチング、空きポジションの有無など複数の要

因による)。アメリカでの企業就職を目指すならネットワーク作りを意識して

学校生活を送るというのも重要ではないでしょうか。

留学のデメリットはたしかに存在しますが、その分計り知れないメリットが存

在することもまた事実です。日本の留学生に対する社会認知をすぐに変えるこ

とは難しいかもしれませんが、より多くの留学生がそれぞれの分野で、それぞ

れのエンドポイントを構築し、社会にその活躍を示すことで、留学してみたい

と思う若者が増えると信じています。

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編集者自己紹介

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鈴木 太一

2009年 日本大学 生物資源科学部 動物資源化学科 卒業

2009-2011年 The University of Arizona,

Ecology and Evolutionary Biology (Masters)

2011 年- 現在The University of Arizona, Ecology and

Evolutionary Biology, Ph.D. student

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発行責任者: 石井 洋平

編集責任者: 鈴木 太一

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