アメリカ理系大学院留学を実現させるためのノウハウ~留学のメリット・デメリット~

Post date: Jan 30, 2012 8:12:1 PM

執筆者: executive (11:04 am)

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

_/

_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/September 2010, Vol. 53, No. 21

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

_/

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

前回に続き、編集を担当させていただく青木敏洋です。

今回の記事も、「理系大学院留学-アメリカで目指す研究者への道」からの

抜粋で、留学のメリット・デメリットについてカガクシャ・ネットメンバー

のアンケートの結果をもとに述べています(本中にアンケートの結果の詳細

あり)

確かにデメリットもゼロではない大学院留学ですが、英語によるコミュニケ

ーション力の取得を初め、長期的に見て様々なメリットがあります。この

グローバルな社会では研究者も企業の技術者も日本国内だけでなく、海外で

仕事をすることも多くなってきています。アメリカで企業研究者として働い

いることからそのことを痛感します。

大学院留学を考えておられる方、興味のある方にとって何らかの参考になれ

ば幸いです。

また、この本に興味のある方は是非↓のリンクをご覧ください。

http://kagakusha.net/alc/

ご意見などございましたら、カガクシャ・ネットホームページ経

由、Eメールでもご連絡をお待ちしております。今後配信して欲し

い内容や、その他の要望などもお願いします。

http://kagakusha.net/

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アメリカ理系大学院留学を実現させるためのノウハウ

~留学のメリット・デメリット~

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

カガクシャ・ネットのメンバー23名へのアンケート、「アメリカの大学院へ

進学してよかったこと」、「日本の大学院の方が優れていると感じた点」、

の結果を踏まえながら、アメリカの大学院留学のメリットとデメリットにつ

いて考えましょう。

〈メリット〉

コースワークや関門試験のほか、研究に関連するものからキャリアパスに関

するセミナーなどを通じて、自分の研究のみではない、幅広い素養を身に付

けることができる。

特にPh.D. 課程の場合は、財政援助(授業料免除、給料、健康保険など)が

充実しており、経済面の心配はあまりしなくてよい。

英語でのコミュニケーション能力(英会話のみならず、科学・技術のプレゼ

ンテーションをする力、論文を読む力、論文を書く力、他の研究者たちとディ

スカッションする力など)が身に付けられる。

世界各国から集まった、優秀かつユニークな留学生たちと交流することで、

アメリカのみならず、世界中にネットワークを広げることができる。

〈デメリット〉

大学院の1~2年目は授業で忙しく、またTAなどにも時間を取られる。

Ph.D.を取得する場合、日本の修士・博士課程に進学した場合に比べて、卒業

するのに時間が掛かる可能性もある。

日本の大学院よりも授業料が高いため、財政援助が受けられない場合、高額な

出費になる可能性がある。

Ph.D. 課程において、成績が悪い場合やQualifying Examに合格できない

場合など、退学させられるリスクがある。

日本とのコネクションが薄れがちになるため、日本での就職はやや不利に

なる場合もある。

メリットの中でも、英語でのコミュニケーション能力の獲得は、留学の大き

な成果になります。英語力は、現在のグローバル社会において、企業、教育機

関、国立研究所など、卒業後どこで働くにしても非常に重要なスキルです。研

究成果を学会や論文で発表する場合はもちろんのこと、他国の研究者、技術者、

ビジネスマンとディスカッションをしたり、交渉をしたり、取引をしたりと、

さまざまな場面で必要とされます。デメリットを挙げるとすれば、英語で新し

く修得した事柄は、日本語の専門用語でどう表現するのかがわかりづらいこと

です。しかし、日本語での発表練習を繰り返すことで、克服できることでしょ

う。

また、留学経験者が口を揃えて言うことに、数多くの留学生が集まるアメリ

カで学ぶことで、世界中から集まって来る知的で興味深い人たちと交流できる

ことがあります。特に大学院の場合、優秀な人材でなければ入学が難しいため、

その傾向が顕著でしょう。

アメリカの大学院の特徴であるハードな授業や試験は、さまざまな観点から

物事を分析する力を身に付けられると同時に、その充実度がゆえに、授業の予

習・復習に多くの時間を費やさざるを得ないのも事実です。これをメリットと

考えるかデメリットと考えるかは、一つのことを深く掘り下げたいのか、自分

の専門を持ちつつも幅広い視野も持ちたいのか、どちらを重視するかによりま

す。

豊富な財政援助は、大学院留学を後押しする要素にもなりますが、逆に財政

援助がもらえない修士課程などの場合は、かなり高額な出費につながる可能性

があります。日本の国立大学の場合*1、入学金と授業料標準額を合わせた初年

度納付金は、817,800円、私立大学の理・工・農学専攻の場合*2、修士課程で

の初年度納付平均金額は1,152,849円、博士課程では1,084,200円となっていま

す。一方、アメリカの公立大学の平均授業料は6,586ドル(約66万円)ですが、

私立大学では25,143ドル(約251万円)となっています*3。また、アメリカの

大学の授業料は、近年、年率5%前後の勢いで上昇し続けているため、将来的

にはさらに高騰が見込まれます。そのため、修士課程のみ希望する場合は、日

本の大学院の方が、経済的な負担は少なくなるかもしれません。また、授業料

免除+生活費を支給される場合も、給与をもらっているからこそ、その対価と

して、退学のプレッシャーにもさらされます。

留学することで、日本とのコネクションはどうしても薄れがちになってしま

います。しかし、国際学会に参加する日本からの研究者は多いですし、就職面

でも、日英バイリンガルのための就職フェアなども海外で開催されています。

また、それ以上に、苦楽を共にした世界中から集まった学生との絆は非常に深

いものとなり、さらには就職時にも役立ちます。

このように、各項目を比較すると、同じポイントでも、メリットとデメリッ

トのどちらにもなり得ることがわかります。自分自身の基準や価値判断をもと

に、ゆっくりと検討してください。そして、結論として大学院留学を目指すの

であれば、前向きな姿勢を貫くことで、最初はデメリットに思えても、それを

最終的にメリットにすることは可能です。

*1:出典:文部科学省・平成21年度国立大学の授業料、入学料及び検定料の

調査結果について

*2:出典:文部科学省・私立大学等の平成20年度入学者に係る学生納付金等

調査結果について

*3:出典:College Board: Trends in College Pricing 2008

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

自己紹介

-----------------------------------

青木敏洋

熊本大学工学部卒業(1998年)、熊本大学博士前期課程修了(2000年)。

米国アリゾナ州立大学材料科学・工学Ph.D.課程修了(2003年)。

アリゾナ州立大学、ジョン・M・カウリー高分解能電子顕微鏡センターでの

ポスドクを経て、現在、JEOL USA, Inc.勤務。2009年より、米国リーハイ大学

にて客員研究員を兼務。ボストン郊外在住、仕事でアメリカ大陸を飛び回る。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

編集後記

-----------------------------------

先週は仕事でテキサス工科大学に出張していました。月曜日にキャンパスにつ

くと、芝生のあちこちに所狭しとテントが張ってありました。たくさんの学生

たちがキャンパスでキャンプしているのです。理由をお客さんに聞くとその週

の土曜日に宿敵、テキサス大学オースティン校とフットボールの初対戦がある

らしく、それに向けて準備??をしているとのことでした。アメリカでは大学

対抗のスポーツ特にフットボールはプロ並みの人気で、学生はもちろんのこと、

地元の住民までもが熱狂的に応援をします。フットボールの試合前に、観戦に

来た人たちが駐車場でバーベキュー・一杯やってから試合を見に行くことは普

にあることですが、この一週間近く前からキャンパスにキャンプしてというの

はテキサス工科大ならではの伝統だそうです。この小さな町ではフットボール

が唯一の楽しみ・息抜きという学生も多く、この伝統を守っているようです。

また、キャンパスのどこかにスキャナーがあって学生証を多くスキャンすると

ゲームの時に良い席に座れるとか。これも学生たちがキャンプをする理由でも

あるらしいです。ともあれ、アメリカにおける大学対抗のスポーツへの熱狂ぶ

りには目を見張るものがありますし、文化とも言えます。米国では秋になると

このように毎週、宿敵同士の大学が全国あちこちでフットボールの試合を繰り

広げています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━

カガクシャ・ネットワーク http://kagakusha.net/

(上記サイトで無料ユーザー登録後、バックナンバー閲覧可)

発行責任者: 杉井 重紀

編集責任者: 青木 敏洋

メールマガジンの登録と解除:

http://www.mag2.com/m/0000220966.html

ご連絡はこのメルマガに「返信」または以下のページから:

http://kagakusha.net/Mailform/mail.html

友人・お知り合いへの転送は自由ですが、無断転載は禁じます。

転載ご希望の際は必ずご連絡ください。

━━━━━━━━━━━━━━━━━