【海外サイエンス・実況中継】学生代表として携わったカリキュラム構成委員会(後)
Post date: Jan 30, 2012 7:24:20 PM
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ June 2008, Vol. 35, No. 2
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
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先週に引き続き、タフツ大学の今村さんが、カリキュラム構成(C&D)委員
として経験した内容を紹介してくれます。前回は、講義評価の確認と講義の改
善に関してでした。今週は、残りの、博士課程の統一試験の改善と、留学生へ
の配慮に関してのエッセイです。どうぞお楽しみ下さい。
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留学本では教えてくれない海外大学院のホント~実際の体験から
『学生代表として携わったカリキュラム構成委員会』
今村 文昭
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こんにちは、タフツ大学栄養学大学院大学の今村文昭です。前回に引き続き、
留学本では教えてくれないであろう体験として、Curriculum & Development
(C&D) Committee という、カリキュラムの構成委員会に1年間所属した経
験を、述べさせて頂きたいと思います。
前回は講義の評価に関することを紹介しました。今回は、
2.博士課程の統一試験の改善
3.留学生への配慮
について、紹介したいと思います。
2.博士課程の統一試験の改善
多くの場合、北米の博士課程では、Comprehensive Exam, あるいは Qualify
Exam, Qualification Exam と呼ばれる試験が行われます。その試験に受かる
ことで、学生は Ph.D. Candidate(博士候補生)として研究を行うこととなり
ます。博士課程の学生にとって、カリキュラム上最大の壁であり、失敗は退学
を意味することにもなるため、精根尽き果てる試験と言えるでしょう。
あまりに厳しいので、教授陣も学生をサポートする意味で、厳正で平等な試験
を行うのに敏感になっています。それは、博士の学生をサポートする仕組みの
一つと考えてよいでしょう。
それまでのカリキュラムで、学生は試験を受けるために十分な教育を終え、さ
らにその試験後、研究を行う知識や経験が備わっていなくてはいけません。ラ
ボローテーションでの経験、グラントを書く技術、口頭で議論する技術など、
そうした技量を高める機会が、カリキュラムに反映されているかどうか、実際
の試験において的確かつ平等に試されているか、そうした事柄の検討をC&D
では行います。実際に試験を終えた学生からの聴き取り調査を踏まえて、C&
D委員では、非常に厳しくも、学生が不合理と思わずに受験を覚悟できる、そ
してなおかつ質の高い試験を行えるよう、改善を進めているのです。
私の所属機関の以前までの Qualify Exam は、グラントの執筆と口答試験が同
一日に実施され、Ph.D. の学生に課される負担が1日に集中してしまうこと、
1人の Ph.D. の学生を担当する試験監督3人への負担も大きいことが問題視
されており、2部構成にするための会議が掛けられています。その課程で、す
でに試験を通った Ph.D. 候補生の意見を聴くというタスクが、C&Dの学生
委員には課せられました。
北米の博士課程では、数多くの Department があるのですが、ところどころに
よってその Qualify Exam のシステムが違っています。私の参加したC&Dで
は、他の大学院プログラムの試験形式の調査を行い、より良い形式にするよう
に議論を進めています。委員会がグループとして、学校外のことについても独
自調査を行うところも、C&Dの特徴と言えるでしょう。
3.留学生への配慮
これは私が C&D に所属したことで、教授陣が目を付けたことの一つでした。
留学生がカリキュラムなどに対して意見を持っており、留学生同士で意見を交
換し合って対処してしまうということを、教授たちは知っています。英語によ
る執筆や口頭発表の機会など、留学生にとって十分かどうか、またコミュニケー
ションの難による問題が無いかなど、C&Dでは、そうした点を検討する機会
も作りました。
私も良かれと思い、留学生からの意見を優先するようにしました。それまでの
C&Dには、留学生の参加は少なかっただろうと考えたからです。自分がカリ
キュラムの委員に所属するということは、自分の意見を直に委員会に伝えるこ
とができるということに他なりません。その意識が働いてか、留学生のことの
みならず、自分の所属する疫学の学科、その学科の関係のある講義内容の検討
などに、議論の焦点が動いたようなところもありました。
以上のように、私の所属する大学院では、学生と教授陣が協力し合い、カリキュ
ラムの質の向上を図っています。教育と研究が効率良くリンクして機能するよ
う、また無意味な講義が実施され、学生への負担が無いよう、委員会が機能し
ています。私にとって、そうした委員会での意見を聴き、意見をすることがで
きたことは、とても価値のあることでした。
また、教授陣は、研究第一とする中で教育に携わっています。そうした状況で
すので、教授にとって教育に貢献するということは負担となります。しかしな
がら、教育に貢献するということは、良い学生を育て、その学生に後に研究に
貢献してもらうことができます。C&Dはそうした可能性を模索する上でも良
いシステムといえるでしょう。ラボ・ローテーションと講義との兼ね合いを効
率よくしようという議論はまさにそのためと言えます。従って、C&Dは研究
を行う教授陣のためでもあるのです。C&Dは、学生が講義で学んだことを研
究に応用できるよう、また、教授が教育に効率よく貢献し、学生の受ける教育
を理解した上で、学生を研究室に招き入れることができるように働いている、
良いシステムと言えるでしょう。
余談ですが、私がC&Dに所属していた際の議題の1つに、アラブ首長国連邦
の大学と共同で行う E-Learning(ネットを利用した遠隔地教育)のカリキュ
ラムの整備がありました。こうした体制は1人の教授ではなく、数人体制で時
間を掛けて臨んでいくのは明白です。あまり議論に参加できませんでしたが、
そうした先駆的な教育体制が、整っていく様子を見ることができたのは価値の
ある経験でした。
カリキュラム構成のための委員会だけではなく、入学審査の委員会もあり、そ
こにも学生の枠が設けられています。こうしたシステムを設けている大学院は、
私の所属しているところだけではなく、北米の大学院では一般的なことと思い
ます。そうした委員に所属するのは、留学生にとっては少し憚られることかも
しれませんが、積極的に踏み込んでみるに値する機会かと思います。教育機関
の背景を知る良い機会ですし、教授の違った一面を見ることもできますし、有
意義であることに間違いはありません。もしも、学生の皆さんでそうした機会
がご自身の横をすり抜けそうになったら、ぜひぐいぐいっと手繰り寄せてくだ
さいね。
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自己紹介
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今村文昭
上智大学理工学部化学科卒(学士)
コロンビア大学医学部栄養学科卒(修士)
現在タフツ大学フリードマン栄養学科学政策大学院大学栄養疫学博士課程在籍
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編集後記
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C&Dがあることで、学生たちと教授たちの距離も近いのかなと思います。何
か学生の愚痴が聞こえれば、「C&Dの代表の教授に相談するといいよ」とい
うように告げることもできますし。日米問わず、教育される側、教育する側の
意見が交換される環境というのは良いのでしょうね。
(今村)
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