7/07 【海外サイエンス・実況中継】アンケートから見る!学部/大学院教育における日米の違い(後編)

Post date: Jul 07, 2013 12:11:35 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ July 2013, Vol. 61, No. 1

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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- From editors --

今週のメルマガでは前回に続き、学部/大学院教育における日米の違いについて、

カガクシャ・ネットのメンバーを対象に行ったアンケートをもとに迫ります。

前回のメルマガでは、学部/大学院の教育課程について特徴を分析しました。

2部構成の後編である今週は、教育課程に大きな影響を与えている、日米の

大学経営の特色を明らかにします!

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【 Question 3 】

日米の大学経営を比べて、教育上大事な違いがあると思うことはなんですか?

1位:教員、TAへの給料(10票)

2位:教員のリクルーティング(8票)

3位:研究への投資(6票)

4位:宣伝/広告への投資(4票)

5位:歳入に占める学費の割合(3票)

5位:その他(3票)

7位:施設への投資(2票)

8位:教員と生徒の比率(1票) (複数回答可)

日米の大学経営上、一番の違いは教員、TAへの給料でした。「日本に比べ、ウハ

ウハである(アメリカ教員)」、「獲得した研究費の大部分は人件費として教員や

TA・RAへの給料となる」など、アメリカの教員の給料が日本に比べ高いことが

挙げられています。

教育上のポジティブな効果では、アルバイト的な日本の大学院生のTAと異なり

「研究において大きな職業意識と責任感が芽生える」、「研究を通じた経済的な

自立=研究者としてのやり甲斐」、自らの研究費から自らの給料が支払うアメ

リカの大学院は「スター教授が生まれやすい土壌である 」、などの点で直接的な

経済的効果だけでなく、特に大学院生の研究意識の向上にもつながっているよう

です。逆にネガティブな効果としては、「良い教授がたくさんいる結果として、

学費の高騰が抑えきれない」などが挙がっています。

教員のリクルーティングが給与に続き、経営上の特色の第2位に挙っています。

アメリカの大学院では「教員候補との会話やセミナーが学生に公開」、「教員の

採用には時間もお金もかける」、「外部の研究者を好んでリクルート」など、

教員を確保したいという意欲の違いが指摘されています。その証拠の一つに、

最近では優秀な教員候補がいる場合、その配偶者も博士号取得者であれば、同じ

大学内でポジションを提供(夫婦そろって同時採用)をするよう努めることは

特筆に値するでしょう。優秀な教員候補は複数校から声がかかることが多いので

大学側も優秀な人材を獲得することに必死なのです。また、一度雇用した教員でも、

数年ごとに研究業績に関する査定があり、採用された教員側は終身在職権(Tenure)を

とるまで安心できません。

研究への投資では、上記の競争型の教員採用や研究室システムがその違いを

物語っています。アメリカの研究室システムでは、日本のように一つの講座内に

教授、准教授、助教という複数の教官がいる訳ではなく、研究予算があって

ポジション(faculty member)がとれれば、独立したラボがもてます。さらに

研究や指導の効率を上げるため、ラボマネージャーという指導専門の役職やテクニ

シャンという雑用専門の役職を置いたり、学部生という労働力を単位と引き換えに

雇ったりと、研究の生産性に重点を置いていることがわかります。一つの研究室が、

まるで小さな会社のようなシステムをとれるのは、 そういった人材を積極的に

採用し、その人材が外部から巨額の研究費をもってくることで労働力を支払う

ことができるためでしょう。特にR 1大学と呼ばれる研究重視の大学ではこの循環

そのものが研究の投資につながっているのかもしれません。

宣伝/広告への投資は、アメリカの大学院は特色かもしれません。「アメリカの

大学には世界中から優秀な学生・教員が集まる」、「日本の大学には日本語や日本

独自の環境が障壁となって、必ずしも優秀な学生・教員が集まるとは思えない」、

「研究成果が日本では日本語主体なので宣伝が弱い」など、アメリカは世界中から

優秀な学生を集め、多様性と生産性を確保することに力を入れています。他にも

大学をブランドとして、企業とコラボレーションして、大学スポーツグッズや

大学グッズを充実させています(日本でも有名大学は大学ブランドを売り出して

います)。地域密着型のイベント(セミナー、お祭り、古本市など)も毎週の

ように行っています。大学の研究成果や魅力を学術業界や地元社会に還元する

ことも大学経営上大事な要素なのかもしれません。

こうしてみると、日本の高等教育を改善する上で米国の高等教育制度から多くの

学ぶべき点があるように思います。米国大学の特色である1.短期間で高度な

専門性と自主性を養う充実したコースワークと奨学制度と、2.教員の質を教育・

研究の両面で高水準に保つ競争的制度は、学生にとって魅力的だからこそ、世界中

から多様な人種、年齢、背景をもつ学生を惹きつけているのではないでしょうか。

今や博士号をとっても就職難の時代だからこそ、国際的に通用する質の高い学位を

取得できるアメリカの大学は価値のあるキャリアパスの一つだと信じています。

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この記事の前編(学部・大学院課程の特徴)は以下のリンクからご覧いただけます。

http://www.kagakusha.net/e-mag/2013-2/623-higer-edu-diff-usjp1

アンケートにご協力くださったメンバーの皆さま、ありがとうございました。

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