【海外サイエンス・実況中継】留学への投資がその後の人生にみあうか~前編~
Post date: Jan 30, 2012 7:52:58 PM
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ June 2009, Vol. 47, No. 2
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
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皆さん、こんにちは。4月の編集を担当させていただく青木敏洋です。
まずはお知らせですが、以前から何度かメールマガジンでも予告して
おりましたが、カガクシャネットの多くのメンバーが、昨年より全精
力をあげて執筆した本が、ついにアルク社より3月31日に発売開始
となりました。
タイトルは「理系大学院留学:アメリカで実現する研究者への道」。
この本には執筆・インタビューにかかわった36人の大学院留学経験者
およびアメリカの大学で教鞭をとる方々の経験に基づいた成功のノウ
ハウが満載です。
「我々が留学をした当時、こういう本があったら良かったのに!」と
思えるような書籍に仕上がりました。
この本が多くの方々の成功の一助となることを願ってやみません。
この本についての詳細についてはカガクシャ・ネットの以下のページ
をご覧ください。
今回と次回のメールマガジンでは「留学の目的を明確にするチェック
ポイント」として「留学への投資がその後の人生に見合うかどうか」に
ついて検証してみようと思います。これは留学を考える人が一度は抱く
疑問ではないかと思います。
なお、記事の一部は上記の本でも紹介されています。
それではお楽しみください。
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留学の目的を明確にするチェックポイント
留学への投資がその後の人生にみあうか~前編~
青木敏洋
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留学への投資がその後の人生に見合うかどうかは、留学した本人の考え方やキ
ャリアパス次第と言えます。そこで、大学院留学のメリット・デメリットと、
それらの将来のキャリアに対する影響を、まとめて分析してみましょう。
メリット
1.コースワークや関門試験の他、研究に関連するものからキャリアパスに関
するセミナーなどを通じて、自分の研究のみではない、幅広い素養を身につけ
ることができる。
2.Ph.D. 課程の場合は、財政援助(授業料免除、給料、健康保険など)が
豊富であり、経済面の心配はあまりない。
3.英語でのコミュニケーション能力(英会話のみならず、科学・技術のプレ
ゼンテーションをする力、論文を読む力、論文を書く力、他の研究者たちとデ
ィスカッションする力など)が身につけられる。
4.世界各国から集まった、優秀かつユニークな留学生たちと交流することで、
アメリカのみならず、世界中にネットワークを広げることができる。
デメリット
1.1~2年目は授業で忙しく、また TA などにも時間を取られる。Ph.D. を
取得する場合、日本の修士・博士課程に進学した場合に比べて、卒業するのに
時間がかかる可能性もある。
2.成績が悪い場合や関門試験(Qualifying Exam)に合格できない場合など、
落第するリスクがある。
3.財政援助が受けられない場合、高額な出費になる可能性がある。
4. 日本とのコネクションが薄れがちになるため、日本での就職はやや不利
になるかもしれない。
これらの中でいくつかのキーポイントについてもう少し考えてみたいと思いま
す。
財政援助:
アメリカの大学院へ留学した場合のメリットは、数字で計れるものもあれば、
そうでないものもあります。確実に数字で計れるものとして、財政援助があげ
られます。
日本で修士・博士課程と進学した場合、多くの学生は、授業料と生活費は自費
となるでしょう。国公立大なら授業料がおおよそ53.5万円、入学金を合わ
せると初年度の費用は81.7万円。私立ならば授業料78.3万円で入学金
プラス施設使用料で初年度おおよそ115.2万円となります。博士課程は国
立大学・私立大学共に授業料+入学金などで初年度108.4万円(*1)。
したがって修士・博士課程それぞれにかかる費用は
修士課程:国立大学135.2万円、私立206.2万円
博士課程:国立大学215.4万円、私立275.9万円
となり、博士号取得まで大学に納める費用は国立・私立大学で以下の通りです。
国立:351.2万円
私立:482.1万円
また、日本学生支援機構(旧日本育英会)などからのローンを、修士課程の2年
間で月に8万円、そして博士課程の3年間で13万円のお金を借りたとします。
修士+博士のローンによる返済しなければならない借金は
修士2年で192万円
博士までの5年で660万円
となります。
大学院留学して財政援助がもらえた場合、授業料全額を指導教官あるいは学科
が支給してくれますので授業料に対する出費はゼロ。さらに年間15000~
22000ドル程度の返済不要のサポートがあり、両親に経済的な負担を掛ける
ことなく勉学を続けられ、また、卒業後に借金を抱える必要もありません。これ
は卒業後のキャリアに大きな影響を与えるのではないでしょうか。
仮に1年目から財政援助をもらえない場合でも、良い成績を修めれば2学期目、
あるいは2年目以降から、財政援助をもらえることは少なくありません。そのた
め、1年目の出費を考慮しても、日本で修士・博士と進学した場合よりも、経済
的な負担は少ないでしょう。
その一方で、修士課程などで財政援助がいっさい出ない場合、高騰するアメリカの
学費はデメリットになります。2008-2009年のデータでは、アメリカの
公立大学の平均授業料は6586ドル(単純に1ドル=100円換算で約65万
円)、私立大学では25143ドル(約250万円)となっています(*2)。
なお、アメリカの大学の授業料は、年率5%前後の勢いで上昇しているため、将
来的にはさらに高騰が見込まれます。そのため、修士課程のみ希望する場合は、
日本の大学院の方が、経済的な負担は少なくなるかもしれません。
卒業率:
日本の理系大学院博士課程に進学した場合、特別な場合を除いては、ほぼ確実に
博士号を取得することができます。一方、アメリカの大学院では落第の可能性も
ありますので、確かにリスクは伴います。Council of Graduate
Schoolsの調査(*3)によれば、工学、生命科学、物理学系の Ph.D.
プログラムの卒業率は56~65%となっており、実に 博士課程課程入学者の
35~44%が卒業できないことになります。海外で生活して、英語での授業、
試験、研究をしながら生き残っていけるのか、という不安は、留学を考える人が
一度は抱くものかもしれません。
次回のメルマガでは 卒業後の就職のことについてご紹介します。
*1)http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/1259330.htm
*2)College Board: Trends in College Pricing 2008 より引用。
*3)http://www.phdcompletion.org/information/Executive_Summary_Demographics_Book_II.pdf
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自己紹介
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青木 敏洋
熊本大学工学部卒業(2000年)。熊本大学大学院博士前期課程修了(2000年)。
米国アリゾナ州立大学材料科学・工学学際プログラム博士課程修了(2003年)。
ジョン・M・カウリー高分解能電子顕微鏡センターでの博士研究員を経て、
現在はJEOL USA, Inc.に勤務。これまでに米国の様々な大学、国立研究機関、
ハイテク企業に世界最新鋭の電子顕微鏡を納入・顧客の研究サポートなどの
プロジェクトに参画。2009年秋より米国リーハイ大学材料科学・工学科の客員
研究員を兼務。
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編集後記
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先週まで20日ほどテキサスのサン・アントニオに出張しておりました。毎日、
25℃くらいの陽気な天気でしたが、仕事を終えて、ボストン空港に降り立っ
たときには4℃。テキサスの気候に体が慣れてしまっていたので寒さがみにし
みました。そんなボストンも今日から気温が20℃くらいまで上がり、春の陽
気となりました。アメリカと言う国は大きく、日本とはかなり違います。この
文化も国の大きさも言葉も異なるアメリカという国にしばらく住み、勉強をし
たり、研究をすることによって得られる経験は経済的なメリット以上に貴重で
プラスになってもマイナスになることはないと信じます。
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