【海外サイエンス・実況中継】アメリカにおける博士号取得後のキャリア・オプション(前)

Post date: Jan 30, 2012 7:27:47 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ August 2008, Vol. 37, No. 2, Part 1

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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今回は、布施さんに「留学本では教えてくれない海外大学院のホント~実際の

体験から」の第二弾を書いてもらいました。今年度のメルマガのテーマには、

もう一つ、「Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには~様々なケースから学

ぶこと」がありますが、執筆メンバーの中には、現役の大学院生やまだ卒業し

たての方もいるため、キャリアに関してのエッセイは難しい場合があります。

今週のエッセイでは、去る5月に博士課程を修了したばかりの布施さんに、ア

メリカの大学院卒業後のオプションについて紹介してもらいます。

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留学本では教えてくれない海外大学院のホント~実際の体験から

アメリカにおける博士号取得後のキャリア・オプション(前)

布施 紳一郎

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日米の大学院博士課程には、カリキュラムの点で多々異なる点があることは、

留学本などで盛んに取り上げられています。一方、大学院修了後の進路におい

ても違いがあることは、あまり話題に挙がることがありません。

卒業後の進路として、企業就職とアカデミアの選択肢があることは、日米に共

通することです。アメリカにおいても、バイオ系の場合、多くの学生がアカデ

ミアの進路を選びます。しかしながら、アカデミア以外の道を選ぶ学生の割合

も多く、職種もバラエティに富んでいます。

今回は、アメリカで友人たちと就職活動をした経験をもとに、アメリカ国内に

おける博士課程修了後のキャリア・オプションに絞って書きたいと思います。

日本での企業就職に関しても選択肢として考えていたため、もし機会があれば

いずれ書かせて頂きたいと思います。

●アカデミアの道

アカデミアの進路としては、主に研究職(Research position)と教職(Teach

ing position)があります。アカデミアを選ぶ学生のほとんどは、卒業後、ま

ずポスドク(ポストドクトラル・フェロー)のポジションを得ます。数年間、

ポスドクとして経験を積んだ後に、次の職に応募するのが通常です。

教職を希望する学生の中には、講義に重点を置いたティーチング・ポスドクと

いうポジションを得る人もいます。このようなポジションは、主に小さなリベ

ラル・アーツ・カレッジ(教養大学)に設定されています。中には、卒業後直

ぐに教職を得る人もいますが、このようなケースは稀であると思います(編集

者注:工学系の場合、ポスドクを経ずに教職を得るケースは、少なくありませ

ん)。

ポスドク先としては、アメリカではほとんどの学生が、別の大学・別の研究室

へと移ります。多くの人は、博士課程とは異なるテーマ・分野を選びます。大

学の研究者として独立するためには、より多様な知識を有し、より多くの研究

者と接し、より多くの技術を取得することが一般的に有利であるからです。ポ

スドクとして、数年間経験と業績を積んだ後に、大学や研究機関にてアシスタ

ント・プロフェッサー職に応募します。アシスタント・プロフェッサーは、既

に独立した研究者(PI: Principal investigator と呼ばれます)として、自

分の研究室を運営することになります。この進路の詳細に関しては、既にその

道に進まれ活躍されている先輩方が書かれているので、私は省略させて頂きま

す。

●企業研究者の道

医学・生物系の博士課程を修了した学生の一部は、製薬会社やバイオテック企

業の研究職に進みます。アメリカでは、ファイザー(Pfizer)、メルク

(Merck)などの大手製薬企業の研究職から、ジェネンテック(Genentech)や

アムジェン(Amgen)、バイオジェン-アイデック(Biogen-Idec)など、成熟

しつつあるバイオテック企業、立ち上げ直後のバイオテック企業など、様々な

就職口が存在します。ボストン周辺、シリコンバレー、ニュージャージー周辺、

サンディエゴや、ノースカロライナ州リサーチトライアングルなど、全米各地

で製薬・バイオテック専門の就職フォーラムが行われており、企業側も優秀な

人材を獲得しようと積極的です。

企業研究職は、アカデミアに進むのと比べて、給料などの待遇の良さが大きな

メリットです。また、行っている研究が、直接医薬品として市場に出て行く可

能性に魅力を感じる人も多いでしょう。逆に、職が不安定であること、アカデ

ミアに比べて自由度が低いこと(やりたい研究ができない)、などのデメリッ

トも存在します。しかしながら、企業によっては基礎研究を非常に重んじ、ア

カデミアから一流の研究者を引き抜き、非常にレベルの高い研究を続けている

企業も存在します。ジェネンテック、アムジェン、などが例として挙げられま

す。

博士号取得後の製薬企業への就職ルートとして、(1)修了直後、(2)企業

ポスドクを経て、(3)アカデミック・ポスドク経験後、(4)PI としての

独立後、の主に4つのルートがあります。一般的には、3つ目のルート、ポス

ドク経験後の企業就職が最も盛んです。ただ最近では、企業でポスドクを経験

した後、同企業や別企業に就職するケースも見かけます。少数派ですが、企業

ポスドクの後にアカデミアに戻る研究者もいるそうです。

日本では年齢が高いほど不利であることが多い、という話を聞いたことがあり

ますが、アメリカでは、主に経験、実績、周囲(主に指導教官)の評価、コミュ

ニケーション能力、適応力(その環境にフィットするか)などが重視されます。

そのため、博士課程修了直後の学生よりは、技術的にも理論的にも成熟したポ

スドクを採用しよう、という姿勢は納得ができます。さらに、アメリカではコ

ネクションも非常に重要です。どのような候補が最適かというのは述べにくい

のですが、当然ながら、優秀で経験・業績豊富な人材が有利であることは間違

いありません。

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自己紹介

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布施 紳一郎

慶応義塾大学理工学部、東京大学院医科学修士、米国ダートマス大学院博士課程修了

(2008年、免疫学)。大学院修了後、ボストンに拠点を置く早期ステージベンチャーキ

ャピタルであるPureTech Venturesのアソシエイトとして、Vedanta Biosciences、

Mandara Sciencesの起業に関わる。2012年よりヘルスケア戦略コンサルティングファーム

であるCampbell Allianceのシニアコンサルタントとして製薬・バイオテック企業の戦略

アドバイザリーを手がける。コンサルティング業に加え、起業家、VCアソシエイトを対象

としたNPOであるStartup Leadership Programの2012年ボストンフェロー、

現ヴァイス・プレジデントとして運営を手がける。

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編集後記

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先週の杉井さんとの会合では、これからのカガクシャネットの活動内容を中心

に、非常に実り多いディスカッションができました。先日もお伝えした通り、

ネット上のみの活動から、オフラインでの物理的な活動にも力を入れていきた

いと考えています。来春頃には、少し大きなお知らせが出せるよう、メンバー

一同頑張っていきたいと思います。(山本)

【注】次号の配信は翌々週の8月30日になります。ご了承下さい。

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