【海外サイエンス・実況中継】日本とアメリカ、大学院生に対する見方・学生の意識の違いとは?

Post date: Jan 30, 2012 7:50:0 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ February 2010, Vol. 53, No. 6

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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二月を担当させていただきます、中山由実です。

「大学院留学を実現するためのノウハウ」の一環として、今回は日本とアメリカ

での大学院生の社会的位置づけ、大学院生自身の意識についての考察です。

なお、この文章は、3月25日発刊予定の「理系大学院留学を実現する方法 (仮)」

に掲載の予定です。この本は、アメリカの大学院留学を目指す方々が、実際の

出願プロセスから大学院生活までをリアルにイメージできれば、という目的

で経験者によって執筆されています。少しでも皆様の参考になれば幸いです。

この文章に関して、ご意見などございましたら、カガクシャ・ネットホーム

ページ経由でも、Eメールでもご連絡をお待ちしております。

今後配信して欲しい内容や、その他の要望など大歓迎です。

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EMAIL:yumi.nakayama [AT] mssm.edu

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ここが違う!日米理系大学院・徹底比較

大学院生に対する見方・学生の意識

中山由実

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12月号に掲載されたアメリカの大学院生のバックグラウンドの違いにも関連し

ますが、大学院生の社会的位置づけや大学院生自身の意識も、日本とアメリカ

では大きく異なります。システムの違いも関連してきますので、前回の、

アメリカの大学院のカリキュラムも参照していただくとよりわかり易いかと

思います。

まず、日本の大学院は、基本的に大学に所属し、入学審査の過程やカリキュラ

ムは大学で統一されていることが一般的です。日本の大学院では、アメリカの

大学院のようにコースワーク(授業・宿題)に時間をとられることはあまりな

く、自分の研究テーマを深く掘り下げ、徹底的に研究に打ち込むことができま

す。これは利点であると同時に、幅広い視点から問題を見る能力を鍛える機会

が少ないという欠点にもなりえます。

また、日本では学部課程から大学院へ直接進学する学生が多いために、大学院

生の位置づけは大学生の延長と考えられがちです。学部時に研究した内容を

もっと深く追求するため、同じ研究室に留まって研究を続ける大学院生も多く

います。よって、大学生、大学院生とも学生であり社会人ではない、という点

では周囲からの見方に大きな差はないようです。

大学院生自身も、あくまで「学生」として扱われる以上、勉強や研究が第一で、

研究さえしていればよいという意識になりがちです。実際、日本の大学院生で、

経済的に独立し家庭を持っている人は稀で、大学生と同じような生活をしている

人が多くいます。というのも、日本学術振興会や奨学金実施団体からの給与や

援助を除き、大学または研究室から給与がもらえる確率は非常に低い上に、実験

に忙しくアルバイトもできない状況にあるからです。

これに対し、アメリカの大学院は、それぞれの学部・学科が独立していることが

ほとんどです。そのため、入試選抜方法から、授業を含めたプログラムの内容、

卒業まで、同じ大学内であっても、学部・学科によって多種多様です。

日本の大学院との大きな違いは、土台となる知識を身に付け、幅広く物事を

考えるためのコースワークですが、最初の1~2年間は、授業に時間をとられ

すぎて、研究がなかなか進まないこともあります。

プログラムによっては、TA(Teaching Assistant)として一定期間以上働く

ことや、実際に学部生に授業を教えることが義務付けられていることも多く

あります。そして、ほとんどの場合は TA や RA(Research Assistant)と

して働くことで、学費が免除され、労働の対価として給与がもらえます(*1)。

給与は決して多くはありませんが、平均して月に15万~25万ほどで、援助なし

で暮らしていけるくらいでしょう。

また、家族を持っている大学院生もたくさんいます。これは、一度大学

を離れて働いてから大学院に戻る人も多いためで、一般的に大学院生は経済的

にも社会的にも自立している、という位置づけになります。

アメリカでは同じ大学や研究機関に続けて長期間所属することは、望ましくないと

されています。外の世界や、他の研究機関を経験した上で、自分の進むべき道を

見定めるべきだ、とされているからです。12月号でも紹介されているように、

学生の背景は様々で、出願の際にもレジュメに複数の研究機関や大学に在籍した

経験や様々な職務経験があると有利であるといえます。数年働いてから大学院に

戻った場合、大学院で学ぶことの目的が非常にはっきりしており、学位をどう

生かすか、将来に繋げるかをすでに念頭においている人が多いと言えます。

近年、日本では、博士課程修了者の就職難が問題になっています。この問題の

解決には、社会のシステムだけでなく、大学院生自身の意識、大学院生に対する

社会の見方の改善も必要だと言えるでしょう。

意識の違いの生まれる因子として、アメリカの大学院では、研究に関するセミナー

の他に、今後のキャリアの見定め方、それに向かって現段階でどのような準備を

すべきかなどの、研究以外のセミナーやミーティングも数多く行われることが

挙げられます。これは大学院生に限らず、ポスドク(Postdoctoral Fellow

の略称)や学部生にも役立つ情報や知識が得られる上、様々な人が気軽に参加

できます。研究室で実験をしているだけでは出会わない人と交流することができ、

非常に有意義です。

このように、アメリカでは研究を進めつつも、今後に向けての準備もバランスよく

同時に進めるべきである、と言う意識を大学院生に持たせるシステムが確立して

います。こうした機会には、学生やポスドクだけでなく、教授陣もキャリアに

関するセミナーなどに参加し、知識を前向きに吸収しています。

日本でも近年、限られた機関のみですが、このようなセミナーが増えています。

政府の促進(一例として、文部科学省のイノベーション創出若手研究人材養成

プログラム)があり、大学院や私企業がその機会に由来する援助を受け、

大学院教育の変革を掲げています。そうしたプログラムへの期待は大きく、種々の

プログラムが、今後、大学院生の在り方に影響を与えることでしょう。しかし、

日本の大学院教育の教育学や社会学は、まだ産声を上げたばかりです。

理工系の大学院教育を修了した人材が、人材育成のプロフェッショナルとなる

ケースは稀でしょう。産学協同や教育環境の改革が必要とされる中で、

大学院課程において大学院生の意識を多方面にでも育むことができる日本の

環境整備はこれからです。

*1:所属研究室やプログラムによって、予算の出所や対象となる人数が

異なることがあるので、財政援助の有無は、入学前にしっかり確認する必要が

あります。プログラムの予算や、研究室のTraining Grantがローテーション

中の学生をサポートするために使える場合は半年から一年まで、ラボに所属

しなくても問題ありません。ただし、Training Grantはアメリカ国立衛生

研究所(NIH)という国の機関から出るため、アメリカの市民権を持つ学生の

支援が中心になります。

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自己紹介

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中山 由実

東京大学農学部獣医学課程卒。その後、University of Wisconsin-Madisonにて

Ph.D取得。現在はMount Sinai School of Medicineにてポスドクとして修行中

です。ポスドク二年目に突入し、もう「新米」ではいられなくなってしまいま

した。

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編集後記

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DCエリアで記録的な積雪がありましたね。NYエリアは気温は低かったものの、

雪はほとんど降りませんでした。寒い日ほど空が快晴で気持ちいいですが、家の

中からみている場合のみ、に限りますね!皆様も暖かくしてください。

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