【海外サイエンス・実況中継】注目される研究分野・研究者と求められる人材 ~人工知能・ロボット工学~‏

Post date: Jan 30, 2012 8:9:11 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ June 2010, Vol. 53, No. 15

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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6月の編集を担当させていただくメリーランド大学の小葦泰治です。

カガクシャネット著/山本智徳監修

理系大学院留学 アメリカで実現する研究者への道 好評発売中

http://kagakusha.net/alc/

またこちらのサイトでは、本書の案内ならびに、本書では掲載でき

なかったインタビューの完全版。また研究者情報など詳しい情報が

満載です。どうかご覧いただければ幸いです。

今回は、前回に引き続き、情報科学の分野の

「注目される研究分野・研究者と求められる人材」 について紹介

したいと思います。

Kagakusha.net メンバーで、Carnegie Mellon University Ph.D.

Program 在籍の嶋英樹さんが執筆してくださった内容です。

上記の書籍より、メルマガ用に医学分野への応用の追加を含め一部

を編集して、お送りさせていただきます。

またご意見、ご感想などございましたら、カガクシャ・ネットホー

ムページ経由でも、E メールでもご連絡をお待ちしております。

今後配信して欲しい内容や、その他の要望など大歓迎です。

http://kagakusha.net/modules/contact/

EMAIL:toashi [AT] rx.umaryland.edu

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注目される研究分野・研究者と求められる人材

~情報科学(Computer Science)~

嶋 英樹

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情報科学(Computer Science, Information Science)

とは、一言でいうとコンピューター関連の分野です。

数学に近い分野(情報圧縮や暗号理論)からコンピューター自体に

ついての分野(ハードウェア、OS、プログラミング言語、ソフトウ

ェア工学、データベース)、コンピューターを使って諸問題を解決

する分野(情報検索、ロボット工学)など、対象テーマは幅広いです。

20 世紀後半に誕生した歴史の浅い分野にも関わらず、コンピュー

ターの進化の速さに支えられて、目覚しい成長を遂げてきました。

注目される研究分野

◆人工知能(Artificial Intelligence)

機械学習と応用研究

コンピューターの進化によって、今までできなかったような

大量の計算がすばやくできるようになりました。そこで90年代

ころから盛んになってきた研究分野が「機械学習(Machine

Learning)」です。

例えば郵便局の住所振り分けなどで実際に使われているような、

手書き文字を読み取って何が書いてあるか認識する課題があった

ときに、そのような課題を解けるプログラムをデータなしで書く

のはほぼ不可能です。

そういうときに力を発揮し、大量のデータから「学習」により解

かせるような応用統計理論やそれを高速処理できるプログラムの

実装をする分野が機械学習なのです。

ほかにも身近なところでは、スパムフィルターや、クレジット

カードの使用履歴からの不正利用検出、指紋認証、かな漢字変換

など、私たちはいろいろなところで機械学習のお世話になってい

ます。

これからますます電子化する情報が増えるにつれ、電子カルテか

ら病気の兆候が見つかりやすくなったり、自社製品の評判を自動

的にインターネットのあらゆるところから見つけてきて改良につ

なげたり、大量の売り上げデータから効率よく売り上げを伸ばす

法則を自動的に見つけたりと、いろいろなものが機械学習により

便利になっていくことが期待されています。

人工知能の定義

これらの機械学習やその応用研究は、ある意味「人工知能」と

いえます。人工知能という用語を聞くと、どんな研究を連想され

るでしょうか。

映画「2001年宇宙の旅」に出てくるような人間と会話するロボッ

トでしょうか。今の研究者で人間のような知能を目指すという研究

をしている人はごく少数だと思います。

AAAI(アメリカ人工知能学会)*1、Stanford大学のAI研究所*2、MIT

の CSAIL(コンピュータ科学・人工知能研究所)*3のように古くから

ある組織は、歴史的経緯で名前が残っているところもあります。

しかしコンピューターがすることをすべて人工知能と定義すると、

あまりに範疇が広くなり、一般の人からも誤解されやすいため、最

近は人工知能という言葉を以前ほどは使いません。

CMUの機械学習学科が2006年に創設されたとき、人工知能学科とい

う名前にしなかったのはこのような経緯があると聞きました。

◆ロボット工学(Robotics)

高性能なコンピューターが小さくなったことで、それをロボット

に組み込んでいろいろなことができるようになりました。

ロボットというと、ホンダのアシモ*4のような人型ロボットを想像す

るかもしれませんが、実際にはコンピューターが人の代わりに動かす

装置を、広い意味でロボットと呼びます。

自動車型ロボット(Autonomous Robot Vehicle)

例えば自動車の自動走行は、目覚しい成果が出ている研究分野です。

過去にDARPA(米国防高等研究計画局)*5が主催する無人走行自動

車の大会がありました。

無人ですから、自動車には誰も乗っておらず、運転するのは車に積ま

れた数台のコンピューターです。

ステレオカメラという立体が把握できるカメラを駆使し、走行しなが

ら道路上の白線、前方車、前方のコース形状、標識などをリアルタイ

ムで認識し、タイミングよくカーブでハンドルを切り、ストップサイ

ンで停車し、他の車と接触しないように走らなくてはなりません。画

像認識や機械学習を中心にあらゆる先端技術が要求される非常に難し

いタスクです。

2004 年の第1回大会では、どの車両もスタート直後にリタイアとなり

ました。しかし2005年の第2回大会ではThrun教授*6 率いるStanford大

学が212キロのオフロードコースを7時間の走破で優勝し、2007年の第

3回大会では Whittaker教授*7率いるCMUのチームが96キロの市街コー

スを4時間強で制覇・優勝しており、めまぐるしい研究成果が見られま

した。

市街コースにおける画像認識は単調な風景のオフロードコースとは段

違いに難しく、また、カリフォルニア州の道路交通法に相当する交通

ルールに遵守した運転が求められました。

地上での無人自動車の大会の成功を受け、舞台を宇宙に変えたのが

「Google Lunar X PRIZE*8」です。

最初に月面無人探索に成功したロボットに20億円相当の賞金が贈ら

れるという非常にスケールの大きい大会ですが、今のところまだミッ

ションに成功したチームはないので、課題達成が期待されています。

強化学習(Reinforcement Learning)によるロボット開発

自動走行をするのは自動車型ロボットだけではありません。Stanford

大学のNg教授*9らは、コンピュータ将棋の訓練にも使われる強化

学習という種類の機械学習を用い、ラジコンヘリコプターに強化学

習を施すことによって、ラジコンの達人でないと操作できないような

アクロバティックな動きをさせることに成功しています。

実際の飛び方を誰かが教えたわけではなく、自分で学習しているの

ですから賢いです。同様の手法を使い、Cornell大学のLipson教授*10ら

はヒトデ型ロボットに歩き方を学習させています。

私たちは無意識に歩けるのでたいしたことはないと思うかもしれま

せんが、足を動かしてバランスをとりながら前進するというのは、

実際は非常に高度で複雑な動作なのです。

さらにこのロボットが優れているのは、足の部品を外してやると、

その足をかばうような歩き方が習得できるところです。

ほかにも、日本で需要がありそうな介護ロボット、アメリカの広大

な庭や畑を自動管理するロボットなど、ロボット工学では面白い研

究が日々行われています。

◇医学分野への応用

人工知能/機械学習は、医学分野での応用されています。Technical

University of DenmarkのLund教授*10たちは、2003年に、免疫系

で司令塔として働く、各MHC分子がT細胞にどのような抗原(アミノ

酸が10-20つながったもの)を提示するかを学習させ、未知の抗原に

ついて予測する手法を開発しました。

また1987年にボストン大学のCarpenter、Grossberg両教授*11は機

械学習に基づいたAdaptive Resonance Theory (ART)を開発されました。

これは計算機化学の分野では、スーパーコンピューターで計算された

タンパク質の立体構造を、分類する際など幅広くにも利用されています。

研究者情報

*1:Association for the Advancement of Artificial Intelligence, http://www.aaai.org

*2:Stanford Artificial Intelligence Laboratory, http://ai.stanford.edu

*3: MIT Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory, http://www.csail.mit.edu

*4:Honda, Asimo, http://www.honda.co.jp/ASIMO/

*5:Defense Advanced Research Projects Agency, http://www.darpa.mil

*6: Sebastian Thrun, Stanford Univ., Computer Science and Electrical Engineering

*7:William "Red" Whittaker, Carnegie Mellon Univ., Robotics Institute

*8:Google Lunar X PRIZE, http://www.googlelunarxprize.org/

*9:Andrew Ng, Stanford Univ., Computer Science Department

*10:Ole Lund Technical University of Denmark

*11:Gail Carpenter & Stephen Grossberg, Boston University

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自己紹介

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小葦泰治

関西大学工学部生物工学科卒。

京都大学大学院生命科学研究科中退後、

Mount Sinai School of Medicine of New York Universityへ進学し、

Ph.D. 取得(2008年)。

現在、メリーランド大学薬学部

Computer-Aided Drug Design センター研究員。

2010 年6月現在、世界第4位のスーパーコンピューター

Kraken (1 秒間に831兆7000億回の計算が可能)などを用い、

創薬ならびに、実験では解析の難しい、タンパク質の原子レ

ベルでの構造と機能の関わりを調べ、数多くの病気に関連し

た生理学的な現象のより一層の理解につながるよう、研究に

取り組んでいます。

あと科学技術政策、 イノベーション(新たな社会的価値の創

出)、外交、国際協力分野にも興味があります。

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編集後記

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日常業務の大半が、スパコンを使ったり、創薬開発支援用の

アルゴリズム開発のため、あらためて科学技術の進展の恩恵

を自らも受けているなぁと思いました。

次回も同様に、情報科学分野から、超並列分散(Parallel

and Distributed Computing、)量子コンピューター

(Quantum Computer)・DNAコンピューター(DNAComputer)

を紹介したいと思います。ご期待ください。

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発行責任者: 杉井 重紀

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