11/6【海外サイエンス・実況中継】アリゾナ大学 進化生態学 PhDプログラム紹介

Post date: Jan 30, 2012 8:30:28 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ Nov. 2011, Vol. 53, No. 45

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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こんにちは。今月のメルマガを担当させていただきますミシガン大学の宮田です。

今回はアリゾナ大学の鈴木さんに進化生態学のPhDプログラムについて紹介して

いただきます。お楽しみ下さい。

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アリゾナ大学(UofA)進化生態学、PhDプログラム紹介

鈴木 太一

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砂漠の街、アリゾナ州ツーソンにあるアリゾナ大学(UofA)の進化生態学博士

課程に在籍している、鈴木太一です。日本で学士号、アリゾナ大学で修士号を

取得し、同アリゾナ大学で博士過程に移り、ネズミをつかって進化遺伝学者

になることを目指しています。自分の留学生活を紹介することを通して、自分

と同じような夢をもつ仲間の役に立てればと思います。

アメリカの南西に位置するアリゾナ州は、いろいろな意味で「アツイ」です。

夏場は日中40度を越え乾燥してます。しかし朝晩は過ごしやすく、特に冬場も

20度を越え「snow bird:渡り鳥」と呼ばれる人たちが寒さをしのぐためにアリ

ゾナにやってくるほどです。世界遺産に登録されているグランドキャニオン

をはじめ、今年初めに安室奈美恵と田村淳(ロンブー)が訪れパワースポット

として話題になったセドナなど、大自然の観光地として有名です。

アリゾナ大学のあるツーソンという街は、砂漠の真ん中につくられたため、車

で20分も走ればサボテンが広がる手付かずの自然が楽しめます。街の周りは山

に囲まれ、頂上近くでは雪も降るためスキーリフトまであります。この環境の

多様性は、自然科学を学ぶにはもってこいです。

実際、世界で初めて進化生態学科が創設されたのが、アリゾナ大学です。

2010年には全米9位(U.S. Education Rankingsより)にランクインされ、遺伝子

など分子レベルから、環境変動など地球レベルまで、幅広く学ぶことができる

学科です。教授・助教授33人、ポスドク23人、大学院生62人が在籍し、毎年ばら

つきはありますが平均10人ほど新しい大学院生が毎年PhDプログラムに入学します

(入学者数は増加傾向にあります)。

おもしろいことに教授・准教授も毎年平均して1人以上採用されており、アメリカ

経済とは逆行し活気があるようです。学生の男女比はおおよそ半々です。

プログラムは2年間のMasterプログラムと5年間のPhDプログラム(2年目終了時点

で自動的に修士号が授与される)に分かれています。

自分はMasterプログラムに入学し、PhDプログラムの3年目から編入するという形

をとりました(入学時、英語力が足りなかったため)。この編入は条件さえ満た

せばそれほど難しいことではありません。以下はPhDプログラムについて紹介します。

入学した1年目は、2つの必修科目と3つのローテーションを行います。ローテー

ションとは6-7週間、異なる研究室で小プロジェクトを行い、新たな技術を身に

つけたり、新たな分野に興味を持つ機会を設けるためにつくれているものです。

メインとなる教授がいることにこしたことないですが、ローテーションを通じて

研究室を移るということも珍しくありません。また同期には学部時代は物理専攻

で、大学院から生物学を学んでいるなんて人も存在します。大学院に入ってから

方向性を決めることができるようつくられているんです。3年目までに筆記と口頭

試験を通り、必要単位数、2学期分のTA(Teaching Assistant)、4学期のセミナー

発表を行ったら、博士論文を発表し、最終審査を通れば、めでたく博士号取得です。

平均卒業年数は、5年半から6年という数字を耳にします。

次に、ここがすごい!と思う自分の学科の特徴をいくつか紹介します。

・毎週ある学科の豪華セミナー。毎週月曜日は、学外から招いた研究者のセミナー

があります。基本、学生が投票で好きな研究者を世界中から招くことができます。

驚くのは教授や学生の出席率です。生態学、遺伝学、分子生物学、数理モデルと

あらゆる分野の教授や学生が最先端の科学を議論する場が毎週あることは非常に

恵まれていると思います。毎週火曜日は学生や教授が研究の発表をするセミナー

があります。これは研究の中間発表の場に近いですが、月曜のセミナーと同様に

あらゆる分野の人から指摘やアイディアの提供してもらえる場です。

・5年間保障の奨学金。PhDプログラムに入学した人には全員、5年間のTAが約束

されます。TAとは授業を教えたり手伝うことで、授業料免除(留学生:約11,000

ドル/学期)と最低限暮らしていける給料(約1600ドル/月)がもらえます。

Masterプログラムで入学するとTAは期待できませんが運次第で可能です。TA取得

の留学生の条件として、入学時のTOEFLのスコアの他に、T-BESTというスピーキン

グテストに受かる必要があります。内容はTOEFLのスピーキングセクションと似て

いて、ヘッドフォンをつけて画面に流れる授業風景を英語で説明したりします。

多くの学生は学外の奨学金制度を活用しているのでTAは保険のような感覚です。

・最新施設が充実。バイオスフィア2と呼ばれる、研究施設をアリゾナ大学が所有

しています。その昔、海や森や畑がある巨大なガラス張りの施設の中で、2年間8人

の研究者が自給自足する実験が行われた施設です。温度、湿度、雨量、地面の傾斜

まで人工的に調節できるので、現在は研究・観光施設として使われています。

例えば、うちの学科でも熱帯雨林や地球温暖化に関わる研究が行われています。

またBIO5と呼ばれる施設では、遺伝子の配列を読む(DNAシークエンス)やその情報

処理を行うスパーコンピューターがあり、最先端の技術や脳みそが詰まってます。

直接学科と関係なくても、生物学を学ぶ上で文句のない環境が揃っています。

・質の高い授業。これはアメリカ大学の授業、教育システム、全般に言えることかも

しれませんが、日本に比べて質が高いと思います。日本のように一学期に10も20も

授業をとるなんて考えられません。学部生でも一学期せいぜい5,6の科目が限度です。

それは1つの授業で課題や宿題がたくさん出るからです。授業はすべてレベル分けさ

れており、大学院レベルの授業になると、他大学の教授やポスドクまで受けにきます。

学部レベルの授業だからと言って出席だけとって過去問解いて単位が取れるなんて

授業はほとんどありません(むしろ宿題が多く大変です)。浅く広く教えようとする

一般的な日本の大学の授業とは違い、深く広く教えるアメリカ大学の授業には一番

感動しました。

最後に、

気づけば、自分の学科や留学の魅力だけを宣伝している形になりましたが、現実は

そう甘くありません。「アメリカの大学・大学院は入るのは簡単だが出るのが大変」

とはまさにその通りで(自分は入ることすら苦労しましたが)、大学院初めての学期

は授業・研究に死ぬ思いをしました。英語が第二言語の留学生はそれだけでもハンデ

を背負ってるわけですから、生き残るには人の何倍も頑張る必要があります。特に

進化生態学の分野は、一昔前とは違い、たとえ頑張って博士号を取得したとしても、

就職先がなかなか見つからないことが普通です。有名学術雑誌Nature、今年4月の記事

では、博士号の数と就職先の数の比率から見て、日本がこの問題について最も深刻

であるという結論をだしています。だから大学院に行くメリットがないのか?という

と、そうではないと思います。それなりの覚悟を決めろということです。将来に希望

が持てず、何がやりたいのかわからなくて苦しんでる人は五万といます。

でももし何か学びたいものを見つけたのなら、海外大学院留学は一つの選択です。

一般的に、自然科学の分野ではアメリカの大学院プログラムが日本のものより優れて

いることが一つの理由ですが、もう一つは、世界中の人と出会い、自分の大好きなこと

についておもいっきり話し合えるというのは一番の魅力ではないかと思っています。

世界中から、いろいろな年齢の人が、それぞれの夢をもって、アメリカの大学院に

出願してきます。自国の奨学金を勝ち取ってきたロシア人、超エリートな天才韓国人、

新しい技術を開発して会社に還元したいという日本人、社会福祉の教授になりたいと

いうフランス人、家族とアメリカで暮らすんだというインド人、自国の水不足を救う

ために来たアフリカ人。こんな人たちと競うわけですから、オリンピックで金メダル

を取るようなもので、海外で博士号をとり活躍することは、簡単であるわけがないです。

でもそんな彼らから学べることはたくさんあります。留学を通して、自分の学術分野の

知識が広がるだけでなく、人生の視野が広がることは一生の財産になります。それだけ

でも、海外大学院に挑戦する価値はあると自分は強く信じています。

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編集者自己紹介

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宮田 能成

2003年 東京大学農学部卒

2004-2006年 Univ. of South Florida, Dept. of Chemistry, Research Scholar

2007年 東京大学大学院 農学生命科学研究科 修士課程修了

2007-現在 University of Michigan, Chemical Biology Doctoral Program

2011年5-8月 University of Michigan, Office of Technology Transfer, Business Development Consultant Intern

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編集後記

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ミシガンは今、紅葉シーズンです。もう少しで長い冬がやってきます。冬場でも気温が

20度を越えるなんてうらやましい限り、私も冬場はアリゾナで過ごしたいです。

来年以降はポスドクとしてミシガンに残ることになったので、当分は寒い冬に耐えな

ければいけませんが・・・。(宮田)

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発行責任者: 山本 智徳

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