【海外サイエンス・実況中継】ロボットが手術したり介護する時代が来る ~ ロボット工学

Post date: Jan 09, 2012 5:11:13 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ March 2007 Vol 5 No 1

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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研究の最前線をお伝えする第5弾。今週はロボット工学を研究している山本

さんのエッセイです。医療ロボットを作り出すために必要な概念の「ハプティ

クス」技術についても、分かりやすく説明しています。山本さんは「THE

PATH ~ アメリカ工学系大学院留学記」(http://www.thepath.jp/)

のウェブページ作者でもあります。留学に関する出願準備や留学生活などの

情報が充実していて、理系の大学院を目指す人たちにおすすめのサイトです。

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今日のエキスパートな質問(答えは下にあります)

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1.遠隔医療用ロボットの最重要課題は何でしょうか?

2.ハプティクスとはどういう意味?その技術は、身近な例では、どんな

ものに使われているか?

3.遠隔操作ロボットに、ハプティック技術を実装することの課題とは?

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ロボットに手術されたり介護される時代が来る? ~ ロボット工学

山本智徳

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1. ロボット工学

アメリカでロボット工学を勉強していると言うと、「ロボットなら日本じゃ

ないの?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。2005年愛知万博で最高峰

のロボット技術が集結していたのは記憶に新しいですし、日本では数多くの

ロボットコンテストが開催されており、最近では小学校で実施するところも

あるようです。また、もうお馴染みとなったホンダのASIMOやソニーのAIBO

(既に2006年3月に生産終了)など、人間型ロボットやエンターテイメント

分野では、日本は飛び抜けています。総合力では間違いなく日本はトップ

クラスです。

一口にロボットと言っても多種多様です。大別すると移動型ロボットと操作

型ロボットになりますが、より細かく見てみると、先に挙げたエンターテイ

メントロボットや人間との共存を目指す家庭用ロボット、自動車の組み立て

などに用いられる産業用ロボット、人間の操縦なしで動く自律型の移動ロボッ

ト、昔ながらの義手や義足に取って代わるインテリジェント義手・義足まで、

様々です。

そんな数多くのロボット工学の中で近年注目を集めている分野に、医療ロボッ

トや医用ロボティクスと呼ばれる研究領域があります。比較的新しい分野で

はありますが、高齢化・少子化が社会問題になっている日本にとって、ロボッ

トが医療・福祉の場で担う役割は確実に大きくなっていくでしょう。現に

日本ロボット工業会によれば、医療・福祉ロボットの需要は2005年には292

億円ですが、2010年には4倍以上の1,204億円にまでなると予測されています。

ロボットの医療への応用は、遠隔操作<注1>を使った手術の概念が1970年代

前半に提唱されています。医療の現場にロボットを持ち込むことで、精度の

高い手術が実現され、低侵襲化(傷口を小さくすることで、患者の身体に

かかる負担を少なくする治療)が可能になります。遠隔操作システムを使う

メリットは、患者が遠く離れた場所にいても手術できる点や、ロボットの

?動きを拡大・縮小できること、また操作者の手ぶれなどを抑制できる点が?

挙げられます。

残念ながら、この医療ロボットの分野において、日本は欧米諸国に遅れを

取っています。その要因として、新しい技術に対する法律が整っていない

場合、前例がないことに対しての認可が慎重になり、その結果、法成立まで

に長期間を要することが挙げられます。また、日本の医師の技術レベルが高

いがゆえ、ロボットを使った手術への抵抗感もあるようです。そのため、既

に数万に及ぶ症例において、医療ロボットの代表格であるダ・ビンチ<注2>

が世界で使用されている一方、日本では未だ厚生労働省から医療用具として

の許可が出ていないという現状です。

アメリカにおいて医用ロボティクスに携わるメリットは、企業との共同研究

と各分野間の敷居が低い点が挙げられます。近年、日本でも産学連携といっ

た企業と大学の知の共有や、様々な分野間のコラボレーションが盛んになっ

てきましたが、この点ではアメリカは非常に進んでいると思います。もとも

と大学発ベンチャーが非常に多いですし、学科や専攻にとらわれず、必要に

応じて様々な研究者と共同研究します。ジョンズ・ホプキンス大学は医学で

非常に有名なのですが、実際に私の所属する研究室(Haptic Exploration

Lab)で提案した手法を医師に実験してもらったり、逆に病院の施設を利用

させてもらい、我々が実験することも多々あります。

現在、先に挙げた遠隔医療ロボットの最重要課題は、正確な力のフィード

バックを操作者に返すことです。現状では、術者にとって非常に重要な手応

え感がほぼ欠如しており、モニタを通した視覚情報のみに頼っています。

実験レベルでは力フィードバックの実装に成功していますが、正確な力

フィードバックが実装されているものはまだありません。Haptics Lab

では、精度の高い力フィードバックを遠隔操作ロボットに実装し、操作者が

ロボットを操作しているのではなく、実際に患者を手術しているような手応

え感を作り出すことを目標にしています。これらは、次に紹介するハプティ

クスという概念に繋がっていきます。

<注1> 遠隔操作ロボット

遠隔操作ロボットの代表例に、マスタ・スレーブと呼ばれる二対のロボット

から成り、操作者がマスタ・ロボットを使って離れた場所にあるスレーブ・

ロボットを制御するシステムがあります。第二次世界大戦直後、アメリカで

放射線物質を扱うための遠隔操作ロボットが開発されたのに始まり、今日で

も原子炉や災害現場、宇宙や深海など、人間にとって危険なところや作業を

するのが困難な場所での作業を可能にする遠隔操作ロボットの開発が進めら

れています。

<注2>ダ・ビンチ (The da Vinci Surgical System)

カリフォルニア州にあるIntuitive Surgical社が開発した遠隔操作

タイプ手術支援ロボットの名称。2000年にFDA(アメリカの食品医薬品局)

より認可を受け、2006年末現在、世界で550台以上のダ・ビンチが稼動

しています。内視鏡的手術が可能な症例にはすべて使用でき、一般外科手術

以外にも様々な手術が可能です。

2. ハプティクス (Haptics)

多くの方にとって、ハプティクスという言葉は馴染みがないと思います。

私もいまの研究室に所属するまで知りませんでした。ギリシャ語のhaptesthai

という単語を語源とし、英語で説明すると anything relating to the

sense of touch, 日本語だと力覚や触覚を意味する言葉です。つまり、

硬いものや柔らかい物体を押したときに感じる反力や、ツルツル・ザラザラ

した物体の表面を触ったときの手触り感などをハプティクスと呼びます。

以前からこの分野に関連した研究はありましたが、1990年代からハプティ

クスという言葉の台頭とともに急成長してきた分野です。

既にハプティック技術が実装された身近な商品として、ゲーム機のコントロー

ラやジョイスティックが挙げられます。ゲームをしている最中にブルブルと

した振動を感じたら、それがハプティクスの一例です。また、携帯電話の

バイブレーションもハプティック技術です。ポケットやバッグに入れて呼び

出し音が聞こえづらい場合、もしくはマナーモードにしていても着信したの

がわかるのは、我々が振動を感じるためです。

機械を通じて人間に力覚・触覚を伝えることが多いため、大きくはロボット

工学の一つに分類されることが多いですが、人間の感覚に関する事柄なので、

?心理学や脳神経学の研究者もいます。様々な複合分野への応用が期待されて?

います。

医療分野では、先に挙げた遠隔操作ロボットの例のほか、手術シミュレータ

への応用もあります。例えば研修医がある術式を学ぶ場合、一連の作業は

教科書やビデオから学べますが、実際にどんな手応え感が得られるのかは

わからないでしょう。シミュレータにハプティック技術を実装することで、

操作者は直接手術する際と同様の力のフィードバックを期待でき、視覚・

力覚を通してまさに手術の予行演習をすることができます。もちろんこの

ようなシミュレータができれば、医療分野のみならず、日本の伝統工業の

ような熟練を要する作業の習得にも役立つでしょう。

生物学の分野ですと、マイクロ・ナノマニピュレーションへの実装が期待

されています。生物細胞のように対象物が極めて微小な場合、人間が直接

操作することは難しいため、マイクロ・ナノメートル単位<注3>の高精度

で制御できる操作機器(マニピュレータ)を用います。このマニピュレータ

に、マイクロ・ナノニュートン(ニュートンは力の単位)レベルで計測でき

るセンサを取り付け、現状の視覚のみではなく、力のフィードバックを拡大

して操作者に伝えることで、任意の物質を細胞に注入したり細胞操作をする

作業の正確性・成功率を高めることができます。

触覚に関してはどんなものがあるでしょうか?オンラインショッピングを

するとき、色やデザイン以外にも、どんな触り心地なのかも気になるでしょ

う。しかし残念ながら、写真や紹介文からではその正確な手触り感は伝わり

づらいと思います。そんなとき、インターネットを介して生地の手触り感を

再現できる機器(インターフェース)があったらどうでしょう?そのインター

フェースを通して、あたかも本物の布地に触れているような感覚が得られ、

より希望に近い商品をオンラインでも買うことができます。

このようにハプティクスは様々な可能性を秘めている分野です。私の所属

する Haptics Labで取り組んでいるメインテーマは、先にも述べましたが、

遠隔操作ロボットに、再現性の高いハプティック技術を実装することです。

これを難しくしている一番大きな要因は、ロボットの安定性です。力のフィー

ドバックを加えることで、ロボットシステムの安定性を保つことが非常に

難しくなります。手術に使用するロボットですから、ロボットが暴走したり、

制御不能な状態に陥ることは絶対に許されません。また、高精度のセンサは

高価なため商品化の大きな壁となったり、センサから得られたデータには

ノイズが混入するため、大量のデータからリアルタイムでノイズだけを除去

する必要があります。これらの課題を解決し、一日も早く、より安全で質の

高い医療ロボットを世の中に提供できれば、と思います。

<注3>マイクロ・ナノメートル

1マイクロメートルは1ミリメートルの1000分の1。1ナノメートルは

1マイクロメートルのさらに1000分の1。

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自己紹介

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山本智徳

1998年都立日比谷高校卒業。一浪後、東京工業大学第5類入学。2003年に

東工大制御システム工学科を卒業。今度は院浪生活を経て、2004年9月より

メリーランド州ボルチモアにあるジョンズ・ホプキンス大学機械工学科

博士課程に在籍。

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今日のポイント(エキスパートな質問の答えです)

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1. 精度の高い力のフィードバックを、ロボットを操作している者に返す

こと。 実際に患者を手術しているような手応え感を作り出すことが目標。

2.語源はギリシャ語で、力覚や触覚を意味することば。ゲーム機のコント

ローラや、 携帯電話のバイブレーションなどにも使われている。

3.ロボットの安定性を保つことが難しい、高精度のセンサは非常に高価、

センサから得られる大量のデータからノイズを除去する必要があること、

など。

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編集後記

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私の住むメリーランド州ボルチモアも、最近ようやく暖かくなってきました。

ボルチモアからアメリカの首都・ワシントンDCまでは車で1時間弱なのです

が、DCでは毎年4月上旬に桜まつりが開かれます。ポトマック河畔の桜並木は、

日本とはまた異なった趣のある桜の木が並び、非常に綺麗で見応えがあります。

基本的にアメリカでは屋外での飲酒が禁止されているため、日本のような

お花見はできませんが、その分純粋に桜を楽しむことができます。そうは

言っても、やはり日本の桜・お花見も恋しいものです。偶然、3月末に日本

で開催される学会に参加する予定なので、3年ぶりの『お花見』を堪能できれば

と思います。

(山本)

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