【海外サイエンス・実況中継】企業編(前編)

Post date: Jan 30, 2012 7:25:37 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ July 2008, Vol. 36, No. 1, Part 1

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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「Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには~様々なケースから学ぶこと」第

6回は、現在企業で活躍されているAさんに紹介してもらいます。Aさん

の研究分野、大学院留学の動機に関してのエッセイは、過去ログをご覧下さい

(無料のユーザー登録が必要です)。

●ミクロな世界で活躍している新技術 ~ ナノテクノロジー

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=29

●大学院留学:給料がもらえる院生とフレキシブルな就職口

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=30

博士号取得後には、大学職員として残ることが多いと思われがちですが、例え

ばアメリカ(特に工学専攻)の場合、企業や民間研究所への就職という道を選

ぶ人は少なくありません。今回のエッセイでは、Aさんが、なぜ理系博士号

取得者は企業就職の道を選ぶのか、一度企業で働いた後になぜ大学へ戻って博

士号を取得するのか、そして身近な企業に勤める博士号取得者の例を紹介して

くれます。

今回のエッセイと関連して、企業就職に興味を持っている方々に朗報です。日

本で唯一の、大学院生・院修了者を対象とした就職支援の活動をしている、

(株) D・F・S 様より、以下のお知らせをいただきました。

(株) D・F・S は渋谷にて大学院生および知的生産人材(ポストドクター・大

学院卒者)に特化して人材紹介と採用支援事業を行っている会社です。

D・F・S のこの事業は、大学院生をはじめとする知的生産人材に特化している

点で日本唯一であり、朝日新聞朝刊2面、読売新聞、AERA などの各誌に取り

上げられ、大学院生はもちろんポストドクターや大学関係者や企業関係者の方

々など全国からご好評いただいております。

D・F・S のサービスは大きく分けて以下にまとめられ、すべて無料でご利用い

ただけます。

1.DFS-HR :知的生産人材の企業紹介サービス

http://www.d-f-s.biz

2.アカリク WEB:大学院生、知的生産人材専用の就職情報サイトの運営

http://www.acaric.jp

3.アカリク:大学院生と企業を結ぶフリーペーパーの発行

http://www.acaric.jp/modules/freepaper/index.php?content_id=8

4.アカリクカレッジ:大学院生、知的生産人材のための就職セミナーや企業

交流会の開催

http://ameblo.jp/dfs-hr/entry-10038931218.html

D・F・S の人材紹介サービス DFS-HR では、大学院生および知的生産人材がも

つ能力を以下に定義づけし、紹介の際はその能力を2つ以上有する方に対して

プレミアムな求人案件を紹介しています。

・データ分析能力(シミュレーションモデル構築、C などのコンピュータ言語、

統計解析力など)

・対人折衝能力

・汎用能力 (語学能力、数的処理能力、物理学基礎知識などの汎用性の高い

能力)

・企画・行動力(プロジェクトマネージメント)

・企業が必要とする専門能力

留学生/海外研究員の皆様の場合は、実際に留学というチャレンジをされ語学

力も高まっている点で「企画・行動力と単純処理能力」が身についていること

から、DFS-HR(企業紹介サービス)が無料でご利用いただけます。企業紹介を

行う際は、Skype での遠隔地面談などのフォロー体制も整っています。ぜひご

登録お願いいたします。尚、ご登録の際はアンケートで「カガクシャネット」

で知ったとお伝えください。

登録はこちら:

http://www.d-f-s.biz(企業紹介サービス)

http://www.acaric.jp(アカリクWEB)

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Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには~様々なケースから学ぶこと

企業編 (前編)

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まずは簡単に自己紹介をします。日本にて学部、そして修士課程を修了し、ア

メリカの大学院にて Materials Science and Engineering(材料科学・工学)

Ph.D. を取得しました。

この間に、ナノテクノロジーのキーツールの一つである、透過電子顕微鏡法

(TEM) を学びました。その後、9ヶ月のポスドクとして TEM を用いてナノテク

ノロジー関連の研究をしましたが、これまで学んだことを産業界で活かしてみ

たいと思うようになり、日系のナノテク関連会社のアメリカ法人に入社。現在、

Applications Specialist として仕事をしています。

早いもので、今の会社に入って3年半の月日が経ちました。私の会社では TEM

をはじめ、様々なナノテク・科学研究機器を取り扱っていることから、入社以

来、アメリカの大学、国立研究所、病院をはじめ、様々な企業で活躍する

Ph.D. 取得者の方々とお仕事をさせていただく機会がありました。仕事を通じ、

アメリカにおいて Ph.D. 取得者が、大学・国立研究所のみならず、政府、企

業、ベンチャーなど様々な分野で活躍していると、改めて実感させられました。

一緒に仕事をさせていただいた方々の話、および自分自身の経験を踏まえて、

Ph.D. 取得後のキャリア、特に企業編ということで、なぜ理系 Ph.D. が企業

に就職するのか、一度就職した人がなぜ Ph.D. を取りに大学へ戻ってくるの

か、そして実際に就職した Ph.D. たちはどのように企業で活躍しているのか

について、少々私見を述べさせていただこうと思います。

1.なぜ理系 Ph.D. が企業に就職するのか?

日本で博士号を目指す人たちの多くは、大学研究者を目指しているかと思いま

す。実際に、日本人の方に Ph.D. 取得後、会社で働いているという話をする

と、それはもったいない、大学に戻る気はないのですか?とよく聞かれます。

一方、アメリカでは、理系の Ph.D. 取得者のうち45%以上(平成15年日本政府

調べ)が、多くのプライベートセクター(企業、病院、ベンチャーなど)で活

躍しているようです。現在ならば、もっと割合が高いかもしれません。以下の

リンクをご参照ください。

http://www.nistep.go.jp/achiev/abs/jpn/mat103j/pdf/mat103aj.pdf

その理由として、アメリカ企業が、理系(工学・サイエンス)Ph.D. 取得者を

積極的に高給で雇い入れる、ということがあります。日米の企業の Ph.D. 取

得者雇用に対する違いが、如実に出ていると言えます。私の分野に比較的近い、

アメリカ物理学会の2003-2004年の調べによると、物理の学位をとった人たち

の初任給平均は、Bachelor(学士): $34,000-$54,000、Master(修士):

$42,000ドル-$70,000、Ph.D.(博士): $68,000-90,000 となっています。こ

れは5年前のデータですから、現在は10%ほど上昇しているかもしれません(ま

たこれは全国平均なので、場所によって給料が多少異なります)。しかし、

Master や Ph.D. を取ることによって、待遇に大きな差が出ることが明らかで

す。これはアメリカ物理学会の調べですが、他の理系分野でも同様の傾向が見

られるはずです。データは以下のリンクをご参照ください。

http://www.aip.org/statistics/trends/reports/emp.pdf

企業就職の理由は、もちろんお金がすべてではないでしょう。この点について

は、後でまた述べますが、Master や Ph.D. の学位を持っていることで、若く

してチャレンジングかつ重要な仕事を任されたり、画期的な研究をする機会を

与えられたりします。

このように、アメリカでは企業への就職というのは、理系 Ph.D. にとって経

済的にも仕事内容でも魅力的であると言えます。

2.一度企業に就職した人が大学院に戻るのはなぜか?

このような人たちは、キャリアアップのために戻ってくるのです。最新の知識・

技術を身につけることで、自分の価値・技術を向上することができますし、ア

メリカでは Ph.D. や Master などの学位が資格として考えられます。会社を

辞めてフルタイムの大学院生として戻る人もいますし、企業のサポートを受け

てパートタイムの大学院生として戻る人もいます。後者の場合、企業が授業料

を負担してくれるのが一般的です。したがって、企業で重要なポジションにつ

く、あるいはあるレベル以上に出世するには、Ph.D. や Master の学位が要求

されることがよくあります。また、転職の多いアメリカでは、プロフェッショ

ナルな職業経験に加えて、Master や Ph.D. を持っていることで、自分を他の

候補者から差別化することもできます。

また給料にも大きく影響してきます。またお金の話になってしまうのですが、

物理学会による統計では、企業で働く35-44歳の学会メンバーの平均給料は、

Bachelor: $72,000、Master: $92,000、Ph.D.: $104,000 となっています。

もちろん場所によって生活費が大きく異なるため給料は異なりますが、例えば

私の住んでいるニューイングランドでは、この年齢層の Ph.D. の平均給料は

$84,000-$131,000 と幅があります。

私の在籍した大学院プログラム(アリゾナ州フェニックスの郊外に位置する)

には、近隣の企業である Intel や Motorola から、Master や Ph.D. を取り

に来ている人たちが何人もいました。私が履修したある半導体薄膜の授業では、

40人の受講者のうち30人以上が、企業技術者だったこともあります。このよう

に大学院に戻り、Ph.D. を取ることでキャリアにかなりプラスになると言えま

す。

3.企業で働く Ph.D. 実例

それでは、実際に Ph.D. を持つ人たちが企業でどのような仕事をしているの

でしょう。いくつかの例を挙げながらお話をしたいと思います。Ph.D. を取ら

れてすでに長年活躍されたシニアの例を、まず挙げたいと思います。

●H社に勤める企業研究者Yさんの例

Yさんは50代前半の女性で、私と同様の材料科学の Ph.D. を取得されていま

す。彼女は IBM の R&D (Research and Development, 研究開発) の材料部門

で、ハードドライブ関連の材料の研究を長年され、現在の超高容量化に貢献さ

れました(彼女の所属する部門は IBM から現在のH社に人材ごと売却され

た)。ハードドライブの容量は、IBM が Giant Magnetoresistance (GMR) を

磁気ヘッドに応用すると飛躍的に向上しました。その開発に携わったというの

は、非常に羨ましい気がします。彼女の現在のポジションは、シニアリサーチ

リードというタイトルで上級管理職ではないですが、社内では役員同様に尊敬

される位置にいると、彼女のマネージャーから聞きました。15人ほどのチーム

を率いてかなり活発に研究・開発を行っておられ、学会で招待講演をしたり、

とても活き活きとされています。彼女は今の会社に入社してから一度も研究開

発を離れず、ひたすら研究肌を歩いてこられ、研究者として非常に成功されて

います。彼女の専門知識には驚かされます。また実験、そしてデータ解析に関

しても妥協を許さない真摯な姿勢にはプロフェッショナリズムを感じます。

●Yさんの同僚でH社の材料科学部門長Gさんの例

GさんはYさん同様に50代の女性ですが、Yさんのマネージャーに当たり、H

社の材料部門に所属する100人以上の人たちのマネージメントをしています。

彼女は化学工学の Ph.D. を持っておられ、工学・科学の知識を活かすだけの

Ph.D. 保持者だけでなく、エンジニアやテクニシャンを技術的にサポート・管

理しながらチームの方向付けを行っておられます。GさんはYさんとは異なり、

実際の研究はもうしていません(昔はしていたが、研究を直接する立場から管

理する方にまわった)。しかし、データの解析・理解には長けています。この

ように Ph.D. 取得者が研究・開発部門や管理者、あるいは重役になることは

よくあります。Gさんはこの中でもかなり出世した例です。GさんとYさんの

チームワークを見ていると、本当に感心させられます。

Gさんは Ph.D. を持っているものの、直接的な研究・開発から離れて管理職

への道に進んだ典型的な例で、Yさんはあくまでも研究開発にこだわって研究

職を上り詰めた例です。Gさんは話をすると、とても気さくで人あたりがやわ

らかく、人の話を聞くのも上手く、非常に部下からの信頼も厚いのが分かりま

す。管理者に向いているタイプだと思いました。一方、Yさんはもちろんとて

もよい方なのですが、研究者タイプだと思います。それぞれが得意な道を歩ん

だのだなと、彼らと仕事をさせていただいて感じました。

(編集者注:次号では、もう一人のシニアの例と、中堅・エントリーレベルの

例、そしてエッセイのまとめへと繋がります。乞うご期待下さい!)

今回のエッセイへのご意見は、こちらへどうぞ。

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=93

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編集後記

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最近、CNNを見ると大統領選の話題ばかりです。現在、アメリカはサブプライ

ムの問題、ガソリンの高騰など景気後退がかなり深刻となっています。新しい

大統領に対する期待は非常に大きいと感じます。一日も早く新しい風が吹いて

くれることを望みます。(筆者)

7/11にアップル社から iPhone 3G が発売されましたね。学生の私でも手が届

きそうな、予想以上に安い販売価格にとても魅了されましたが、昨年秋に携帯

電話を機種変更した際、2年契約のオプションを選んでしまったため、あと1

年ちょっとはお預けになりそうです。。(山本)

【お詫びと訂正】

前回と前々回のバックナンバーの振り方が間違っていました。正しくは、

- 1. Multidimentional View: Vol. 36, No. 1 -> Vol. 35, No. 2, Part 1)

- 2. Multidisciplinary View: Vol. 36, No. 2 -> Vol. 35, No. 2, Part 2)

です。失礼致しました。

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発行者: 山本智徳

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