【海外サイエンス・実況中継・特別号】 大学院留学:専攻分野を変えて好きなテーマを選ぶのにもってこいのアメリカ

Post date: Jan 09, 2012 5:33:2 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ December 2007 Vol 26 No 1

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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今回は、なぜアメリカの大学院を選んだか、の特別号をお送りします。今週

は、今年の9月に「数学」と「哲学」について紹介された武田さんが、執筆

してくれました。武田さんは、大学時代は機械工学科に所属していたそうで

すが、アメリカでの修士時代に哲学を専攻しているうちに、数学に興味を持ち、

博士課程のプログラムに移ってからは、数学を専攻されました。その経緯と、

理由とは?

(杉井)

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なぜ日本でなくアメリカの大学院を選んだのか?

武田 秀一郎

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現在、私は数学を専攻しているのですが、アメリカに来た当初は哲学を専攻

していました。そんな訳で、私がアメリカに来た動機や経緯などは、多くの

サイエンス系の大学院留学生とは異なると思いますが、興味があれば読んで

みてください。

私がアメリカの大学院を選んだ大きな理由は二つあります。一つ目は、

「専攻分野を変更したかった」から。二つ目は、「はじめに自分の研究テー

マを決める」のではなく、「いろいろな分野のことを勉強しながら、徐々に

自分の分野を絞りこめる環境が欲しかった」からです。

もちろんそれ以外にも、「アメリカに来たかったから」とか「英語がもっと

できるようになりたかったから」とか「昔から何となくあこがれていたから」

とか、多くの留学生にあてはまるような小さな理由はいくつかありますが、

基本的には、上にあげた二つが主な理由です。そして、この二つは大きく

リンクしていますが、それについて書いてみたいと思います。

私は、日本の大学で学部の4年間を過ごしましたが、日本にいるときは機械

工学を専攻していました。日本の大学では皆さんもご存知のように、基本的

に大学を受験する際に、専攻分野を決めなければいけません。しかし、大学

受験当時、高校生であった私には、大学でどのようなことが勉強できるかと

か、自分にはどのような分野のことが適しているのかなど、たいして分かる

わけもなく、なんとなくといった感覚で機械工学科を受験し、某私立大学に

入学しました。

しかし、大学に入学してから、色々なきっかけなどもあり、哲学と呼ばれる

学問に興味を持つようになりました。始めのうちは、その分野の本を趣味

程度に読みあさる、といった感じでしたが、そのうち徐々にのめりこんでい

き、本格的に勉強してみたいと思うようになりました。しかし、ここで、

日本の大学制度が大きな壁となったのでした。

日本の大学制度では、ご存知のように、専攻分野の変更はきわめて困難。

さらに、当時すでに大学2年の終わりぐらいに差しかかっていた私には、

大学を辞めて再び受験しなおすなど、なおさら困難に感じました。

そこで、はじめに考えたことは、日本の大学院で哲学科を受験することで

した。で、いろいろと日本の大学院入試情報を調べ始めました。当時はイン

ターネットが現在ほど発達しておらず、かなり手探りで調べた感じだったの

ですが、だいたい分かったことは、「大学院に入るには、まず確固たる具体

的な研究テーマを決めなければならない」といったことでした。

ですが、何しろ機械工学から哲学という、ほとんど180度の進路変更であ

るうえに、哲学を素人感覚で勉強し始めたばかりの私には、そんなことまで

決めるのは不可能に思えました。それに、そもそもそんな風に「はじめに

テーマを絞り込む」のではなく、「少しずつ色々な勉強をしながら、徐々に

自分の分野を絞り込める」ような環境が欲しいと考えていました。

そして、色々調べた末、これら全ての問題を一気に解決できるのが「アメリ

カの大学院に行く」こでした。ですが、学部での専攻が機械工学で、大学

レベルの哲学の授業など基本的に履修してなかった、というか履修できな

かった私には、いわゆるPh.Dプログラムに進むことは困難に思えました。

そこで、選んだのが、アメリカのそれほど有名でもない大学のマスターの

プログラム(修士課程)に入学する、という道でした。

アメリカのごく一般的な、博士課程を有さない修士だけの大学院であれば

推薦状なども必要なく、かなり簡単に入学できる場合もあり、とりわけ哲学

のようにそれほど人気があるわけでもない専攻であれば、なおさらです。

そして、私はカリフォルニアにある、サンフランシスコ州立大学の哲学科の

修士課程に見事(?)入学できました。

ですが、多くの(特にサイエンス系)のPh.Dプログラムとは異なり、気前の

いい学費免除だとか、財政援助などのようなものは一切なく、全て自腹を

切る必要がありました。そこで、私の場合、日本の学部時代、深夜のバイト

や肉体労働などで貯めたお金と、やはり学部時代にもらっていた育英会の

奨学金をためた貯金などを、徐々に食いつぶして留学生活を送ることになっ

たのです。

さらに、アメリカに来た当初は、ただ哲学を勉強してみたいという、純粋な

学術的好奇心だけしか持っておらず、その後のプランなども特にありません

でした。「まぁ、貯金が底をついたら日本に帰るのかなぁ~」ぐらいの感覚

でした。

ですが、哲学の修士を取る過程で、いくつかの偶然も重なり、数学という学

問に出会い、また、数学科でTAの仕事が得られ経済的な問題が解決された、

という理由もあり、結局サンフランシスコ州立大学に4年間も在籍し、哲学

と数学の二つの分野で修士号を習得することになりました。

ちなみに、その後は、ペンシルバニア大学のPh.Dプログラムに進み5年間

でPh.Dを習得し、一年間UCSDでポスドクの(ような)ポジションを経験し、

気がついたらアメリカで10年間過ごしました。そして、今年はイスラエル

でポスドクをしています。

単純に計算すると、私の場合4年間遅れたことになります。そして現在では、

哲学からは離れ、数学の研究および教育に、全力投球の毎日を送っています。

哲学科で学んだことなど、直接的には全く関係のない生活を送っており、

たま~に自分の本棚に飾ってある哲学科時代に使った教科書などを眺めて、

昔を懐かしむ、といった程度です。

ですが、今振り返ると、サンフランシスコでの4年間は私にとっては「学部

のやり直し」のようなものであり、今までの人生の中で、最も重要な時期で

あったように思います。そして、この時代があったからこそ、ここまでやっ

てこれたと確信しています。

さて、私がアメリカに来て、その後10年間を過ごしたいきさつはそんな感じ

ですが、改めて思うことは、アメリカの大学・大学院の裾野の広さと柔軟さ

です。日本人は「まず始めにやりたいことを決めて」とか「確固たる目的を

持たなかれば駄目だ」などとよく口にしますが、私はそのような考え方には

強く反対します。そんなことを考えなくても、もう少し気楽に「なんとなく

こんな分野の勉強がしてみたい」とか「色々なことをやりながら徐々に自分

の道を決めていく」といったスタンスで十分だと思います。そして、そのよ

うなスタンスを受け入れ、柔軟に自分の道を決められるような環境を提供し

てくれた、アメリカの大学制度にはとても感謝しています。

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自己紹介

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武田 秀一郎

日本の某大学の機械工学科を卒業した後、専攻分野を工学から哲学に変える

ため渡米。サンフランシスコ州立大学で哲学修士を習得。主に分析哲学を

学ぶが、その間に、数学の世界と運命的な出会いをし、同大学で数学修士も

習得。その後、2006年春にペンシルバニア大学でPh.D.(数学)を習得。

同年の秋から一年間UCSDでポスドクをしたのち、2007年の9月からは、

イスラエルでポスドク生活を送る。

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編集後記

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今、ブログを書いています。

http://grothendieck-jr.blogspot.com/

で読めます。かなり個人的でいい加減なブログですが、イスラエルの生活や

数学者の日常が何となくわかるかも。

(武田)

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