【海外サイエンス・実況中継】University of California, Riversideのプログラム紹介

Post date: May 18, 2012 5:57:11 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ December 2010, Vol. 53, No. 27

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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引き続き、12月の担当をさせていただく、メリーランド大学の中山由実です。

今年最後の配信になります。来年も、どうぞカガクシャネットをよろしく

お願いいたします。皆様、よいお年をお迎えください!

今回は、前回と同じく、University of California, Riverside (UCR),

Department of Chemical and Environmental Engineering (CEE) 所属の

Ph.D.コースの4年生中尾俊介さんが、プログラム紹介に続き、

大気環境化学の論文紹介を執筆してくださいました。

環境科学、特に大気環境は本当に地球規模の研究で、すべての要因を

考慮しなければならない、複雑な、しかしやりがいのある分野だな

と改めて感じました。化学、有機化学反応からしばし離れていた私には

新鮮な研究分野でした。

メルマガについて、ご意見などございましたら、カガク

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待ちしております。今後配信して欲しい内容や、その他

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http://kagakusha.net/alc/ につきましても、手に取り

ご覧になっていただければ幸いです。どうかよろしく

お願い申し上げます。

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UC Riverside,

Chemical and Environmental Engineeringのプログラム紹介(後半)

大気環境化学の論文紹介

中尾 俊介

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こんにちは、University of California, Riverside (UCR),

Department of Chemical and Environmental Engineering (CEE) 所属

の中尾俊介です。

今回は最近大気化学の特にエアロゾル(空気中の小さな粒子)の分野で

注目されているイソプレンの論文について、

その背景をメインに簡単に紹介したいと思います。

大気化学とは、大気中で起こる化学反応についての学問ですが、

私はエアロゾルといわれる大気中の粒子、特に有機物の反応によって生成する

微小な粒子(直径数十ナノメートルから数百ナノメートル)に注目しています。

大気中の有機物が酸化されることで揮発性が下がり、気体だったものが粒子

となります。このような粒子の気候への影響が、地球温暖化予測の

最も不確かな点の一つですので、多くの研究者が取り組んでいます。

エアロゾルの気候への影響は、直接効果と間接効果に分類されます。

直接効果とは粒子そのものが直接太陽光を散乱・吸収することによる効果で、

間接効果とは粒子が雲の核となり雲の寿命、太陽光の反射率、降水パターン

を変えるなど間接的に気候に影響を及ぼす効果のことです。

とくにこの間接効果の理解が遅れていて、エアロゾルの生成過程や変質過程

およびその気候への影響を理解する事が重要なテーマとなっています。

またエアロゾルは人体の健康に悪影響を及ぼし、

視程障害(遠くが霞んで見えなくなる事)を引き起こす事からも、

生成過程の理解が求められています。

エアロゾルの約3〜7割程度は有機物からなりますが、

これらは数百、数千もの有機物の反応に由来していてあまりに複雑なため、

その由来や生成過程についての疑問が山積しています。

しかし、近年この有機物の数%もしくはそれ以上がイソプレンという

たった一つの炭化水素の反応に由来する可能性が出てきました。

イソプレンは5つの炭素からなり2つの二重結合を持つ炭化水素です。

イソプレンは地球上で年間約5億トンもの膨大な量が主に植物から

排出されており、メタンを除く炭化水素の中で圧倒的に排出量の多い物質です。

イソプレンは小さな分子で揮発性が高いので、

酸化されても粒子は生成しないだろうと考えられ、イソプレンからの

エアロゾル生成は無視されていました。

しかし、近年、小さな分子が二つ、三つと繋がり大きな分子を作る

いわゆるオリゴマー化が粒子上で起こっているのではないかと

考えられるようになり、イソプレンからのエアロゾル生成も

注目されるようになりました。

イソプレンからのエアロゾル生成の割合は小さいですが、

イソプレンそのものの排出量が非常に多いため、掛け算をすれば

とても無視できない量であることが示唆されています。

イソプレンからのエアロゾル生成をより詳しく評価するためには、

化学反応のメカニズムを理解する必要があり、

多くの研究者が取り組んでいます。

そこで、昨年カリフォルニア工科大学(Caltech)の研究グループが

Science誌に出した論文に代表される一連の研究は、イソプレンの

反応メカニズムの理解を進める上でインパクトの大きいものでした。

Paulot et al., Science 325, 730-733 (2009).

大気中の窒素酸化物(NOx)の濃度によってエアロゾルの生成量が

変わってくる事についてはここ5〜6年で徐々に理解が進んできました。

また粒子の酸性度もエアロゾルの生成量に影響する可能性があります。

Caltechのグループは、NOx濃度の低い条件、高い条件での反応メカニズムを

調べ、新しい重要な中間生成物を見つけ、NOxの影響、酸性度の影響について

議論しています。

イソプレンそのものは植物由来ですが、NOx濃度や粒子の酸性度は

人為的な要因が大きく寄与します。

人間活動の大気環境への影響を考える上でこうした研究は

非常に重要となります。またこうした反応メカニズムの理解は、

構造の似た他の物質にも当てはめられて役立てられていきます。

このように、自然起源・人為起源の物質の反応は、

別々に起こるのでなく相互作用を及ぼします。

今回挙げたイソプレン以外にも様々な反応についての理解が

近年目覚しく進んでいます。

こうした研究成果が、いずれ何らかの形で気候変動モデルに

組み込まれたり、都市レベルでの大気汚染対策に役立てられたりなどして

各国の政策決定に影響を与えていくので、

将来の楽しみな、やりがいのある分野だと思います。

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執筆者自己紹介

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中尾 俊介

慶應義塾大学理工学部応用化学科卒業(2007年)

University of California, Riverside

Chemical and Environmental Engineering, Ph.D.課程

専門分野:大気化学・エアロゾル化学

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編集者自己紹介

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中山 由実

東京大学農学部獣医学課程修了。2008年、University of Wisconsin-Madisonにて

Ph.D取得。その後、Mt. Sinai Medical Centerにてポスドク、ボスの移動に伴い、

2010年10月よりUniversity of Maryland-Baltimoreでポスドクをしています。

現在の研究分野は移植免疫です。

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編集後記

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アメリカではクリスマスはサンクスギビングに次ぐ大移動期間ですね。

実は今までこの時期に国内を移動したことはほとんどなかったのですが、

今年はまさにクリスマス時期に移動することになりました。

空港をスムーズに通り抜けられるように祈っています。

アメリカでも日本でも、あわただしい時期かと思いますが、

皆さま、安全で楽しい時をお過ごしくださいね!

中山 由実

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