【海外サイエンス・実況中継】企業編(後)

Post date: Jan 30, 2012 7:26:15 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ July 2008, Vol. 36, No. 1, Part 2

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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前号に引き続き、博士号取得後のキャリアを成功させるための秘訣を、Aさ

んに紹介してもらいます。前編の内容を簡潔にまとめると、なぜ理系博士号取

得者は企業就職の道を選ぶのか、一度企業で働いた後になぜ大学へ戻って博士

号を取得するのか、そして身近な企業に勤める博士号シニアの例を挙げてもら

いました。今回のエッセイでは、もう一人のシニアの例、そして博士号取得者

でも中堅・エントリー層にもスポットを当て、最後に企業で成功するための鍵

をまとめてくれました。

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Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには~様々なケースから学ぶこと

企業編 (後)

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3.企業で働く Ph.D. 実例(続き)

●私の会社の副社長Mさんの例

50代後半の彼は、材料科学の Ph.D. をとられた後に会社勤めをしたり、ベン

チャー企業を起こしたりと、面白いバックグラウンドを持っておられます。20

年前に今の会社にヘッドハンティングされて、電子顕微鏡部門のアプリケーショ

ンマネージャーと呼ばれる仕事につきました。

彼の役割は、会社の装置に興味を持っているお客さんと、かなり突っ込んだテ

クニカルな話・ディスカッションをしたり、実際に装置を使ってデモンストレー

ションをすることでした。いわば、半研究者・半セールスマンのようなポジショ

ンでした。彼はとても話が上手く、お客さんを接待するのが得意です。彼のワ

イン・お酒全般に関する知識には本当に驚かされました。それに加えて、サイ

エンス・技術に関する知識も非常に豊富だったので、お客さんの尊敬・信頼も

得て、これまで多くの装置を売ってきました。その功績から、40代半ばですで

に電子顕微鏡のプロダクトマネージャー、その後、プロダクトマネージャー兼

副社長に昇進されました。彼はこの仕事以外にも若い頃に投資をして、とても

豪華なヴィクトリアン調の自宅に加え、アパートを数件ほど所有・経営してお

り、いつ引退しても一生お金には困らないような状況です。でも彼は、仕事が

楽しいので続けているそうです。彼に言わせると、仕事で美味しいワインを飲

むのは最高だとか。

そんな彼が今度、急に引退することになりました。引退のパーティの席で彼と

話す機会があり、彼の成功の秘訣は何か尋ねてみました。彼は、人生と仕事を

楽しむことだとおっしゃいました。そして私に「真のリーダー」を目指しなさ

い、とアドバイスを下さいました。つまり、チームの力を最大限に引き出せる

ようにチームを導ける人になる努力をしなさい、と言われました。彼は本当に

気さくな方ですが、生まれもったカリスマを持っている人でした。彼によると

カリスマとリーダーシップは別物で、リーダーシップは本人の努力により身に

つけることができるそうです。

彼とこれまで一緒に仕事をすることを通じて、Ph.D. 取得者がプライベートセ

クター(企業、病院、ベンチャーなど)で成功するには、科学的な専門知識だ

けではなく、Interpersonal Skills あるいは People's Skills と呼ばれる、

人間関係の技術を身につける必要があると実感しました。ワインをはじめ、ス

ポーツその他様々なことに詳しく、お客さんと話していても話題に事欠かない

のが素晴らしいと思います。そして、彼がアドバイスをしてくださったように、

「真のリーダー」を目指すことは大切だと思いました。

次に、中堅・エントリーレベルの Ph.D. の例を挙げたいと思います。

●I社に勤めるグループリーダーのJさんの例

Jさんは応用物理の Ph.D. を持つ40代前半の企業技術者です。Jさんの勤め

るI社は全世界に展開しており、世界各地に工場があります。彼の所属する部

門では、製造ラインで起きた不良、あるいは商品として客先に出た製品で不良

として戻ってきたものを、解析・原因特定します。24時間稼働している工場で

は、Time is Money であり、不良が出た場合は、すぐにでもなぜか?の答えが

要求されます。彼は実際にデータ取りもしますし、自分のグループに所属する

エンジニアやテクニ シャンを指導して、自分の欲しいデータを取れるように

します。そして得られたデータを解析して、実際に他の部門に解析結果を報告

します。彼は、世界的に展開しているI社の不良解析グループのトップであり、

他の工場のエンジニアを指導したり、どういう解析装置を購入するかをアドバ

イスしたりする立場にあります。彼のように、製造部門のプロセスエンジニア

やプロセスマネージャーなどの技術系管理職として、活躍する Ph.D. が多数

いるようです。

彼に言わせると、I社で生き残って行く鍵は、第一にチームプレーヤーである

こと、そして第二に発想の転換・早い頭の回転だそうです。特に彼の働いてい

る半導体産業では Time is Money なので、正しい答えをすばやく見つけ出し、

問題を解決できる人たちが要求されるのです。

●私自身の例

恐縮ですが、エントリーレベルの例として自分を挙げてみようと思います。日

系の会社のアメリカ法人にて、アプリケーションスペシャリストという肩書き

で働いています。研究をするポジションではなく、主にお客さんの研究をサポー

トするのが仕事で、実際お客さんに代わってデータを取ったりします。論文に

名前を入れてくれるお客さんもたまにはいますが。

入社して3年半が経ち、自分のポジションもようやく確立されてきましたが、

入社した当時は新しくできたポジションで、私のマネージャーもどう使ってよ

いのか分からない、という感じでした。というのも、私の所属するこのアメリ

カ法人には200人くらいの従業員がいて、そのうちの20人くらいは Ph.D. 保持

者なのですが、私の所属するサービス部門では、私が初&唯一の Ph.D. 保持

者だったのです。期待が大きいものの、上司たちもどのような仕事を任せよう

か、思案しているようでした。そして入社して2ヶ月くらいの頃に、新しい装

置を 購入してくださったお客さんのところに出向いていき、最新の装置のテ

スト・結果のレポート、お客さんへの講義、トレーニングを任されたことがあ

りました。このアサイメントの最終目標は、装置納入完了のサインをお客さん

からもらうことでした。客先に出向き、お客さんと仕事をしていたときに、会

社に入ってどれくらいになるのかと尋ねられて、「2ヶ月です」と答えたら、

冗談だと思われたことがありました。私が任された仕事は、これまで勤続10年

以上の精鋭エンジニアが行っていた仕事だったからです。私も正直、このよう

な大切な仕事を、入社間もない社員一人に任せる会社に驚きを覚えました。で

もこれは単なる始まりでした。次から次に、こんな仕事を・・・と思うような

ことを任せられ、息をつく間もなくがむしゃらに働いて、時間が過ぎて行きま

した。

アメリカではリストラは日常茶飯事、私の会社でも入社して半年で評価を受け、

それで評価が悪いと首になるというシステムです。無事に評価をクリアして、

1年が過ぎた頃から少し余裕ができ、もっと会社に貢献するには何ができるだ

ろうと、考えられるようになりました。入社して3年半が過ぎ、これまでの仕

事もそれなりに評価してもらえ、生き残りのためにがむしゃらに何でもやると

いう状況から、短期的・長期的なビジョンを持ったプロジェクトを立ち上げた

り、管理したり、お客さんのトレーニング、研究サポートに加えて同僚達のト

レーニング・教育(エンジニアたちに理論的な事やさらに理論をどのように実

践に役立てるかを教える)も任されるようになってきました。出張が多いのが

玉に瑕ですが、非常にやりがいのある仕事を任されていると感じます。

4.最後に

このコラムでお話した「Ph.D. 後のキャリアを成功させるには 企業編」

を以下簡単にまとめると、チームワークを大切にし、尊敬を持っ

てお客様や同僚・上司と接すること(決して人を見下したような態度を取らな

いこと)、つまり People's skill を見につけること、常に専門性や技術を高

めることで、プロフェッショナリズムを高めていくこと、幅広い知識を身につ

ける、発想の転換・早い頭の回転、そしてネットワーキング(人脈:本コラム

では議論しなかったが)などが、成功するために重要だと考えます。そして真

のリーダーを目指すことも、成功するために不可欠な要素ではないかと思いま

した。

私自身、現在の仕事を始めてから、自分の専門に加えてビジネスのこと、人間

関係のことについてたくさん学び、社会人として大きく成長することができた

と思います。しかしながら、今回こうしてコラムとして学んだことをまとめて

みると、自分が「成功」には程遠い位置にいると実感しました。道のりはまだ

遠いですが、これまで学んだことを活かしながらリーダーを目指して、努力し

ていきたいと思います。

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編集後記

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先週月曜日から2週間の予定でサウス・カロライナに出張しております。今回

の出張では2人の同僚に最新の超ハイエンドナノテクツールについて徹底的に

トレーニングすることが目的ですが、一緒に仕事をしながら自分がかなり勉強

になっていて非常に楽しんでいます。ただ、アメリカ人同僚と一緒に出張をす

るとどうしてもアメリカの食事、最初の1週間ですでに3回もステーキハウス

に行くはめになりました。同僚も含めてみなさん、本当に豪快にステーキを食

べます。今日行ったステーキハウスでは32オンス(約908グラム)のRib eyeステー

キを食べると記念Tシャツをくれる、とのことでしたが、とんでもない! 同じ

ペースで食べないように気をつけねばと思う今日この頃です。(筆者)

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