4/28 【海外サイエンス・実況中継】医学生・医師の大学院留学:医学分科会

Post date: Apr 27, 2013 2:55:47 AM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ April 2013, Vol. 58, No. 2

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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週刊医学界新聞に医学分科会メンバーの記事が掲載されました。医学生・医師の

大学院留学体験記となってます。下記リンクより全文を読むことができます。

http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03018_02

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-- From editors --

今週のメールマガジンでは、今年度から発足した医学分科会のメンバーから、

医師や医学生の大学院留学についての詳しい解説をお届けします。

留学動機、留学時期から研究室選びまで幅広い話題が実例とともに紹介されて

います。医師や医学生の方だけでなく、留学を志す多くの方にとって参考になる

記事です。ぜひお楽しみください。

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カガクシャ・ネットでも特に需要のある話題として、卒業後の進路、奨学金、大

学院選び、研究室選びがあります。これらはほぼ毎週メーリングリストでも議論

されています。さて、今年度から各専門毎の分科会が発足しました。既に医学と

航空宇宙工学の会が活動しています。分科会の試みのひとつとして、これらのメ

ジャーな疑問について一般的な回答だけでなく分野特有の側面(留学準備の際の

問題、考慮点)についても答えていきます。

今回は、医学分科会のメンバーがこれらの疑問に答えるとともに、医師や医学生

が大学院留学する際の特有の難しさ、そして実際にどのようにして対処したかに

ついても触れます。皆さんのお役にたてれば幸いです。

【医学分科会の構成】

・医学部卒後―義務研修修了直後に留学した人 8名

・臨床医として活動した後にから留学した人 1名

・他学部卒後に留学した人 1名

【なぜ大学院留学したか】

医師になれば人生安泰だ(といわれている)。わざわざ医学部まで入ったのだ。

では、なぜよりリスキーな研究者を選択、特に比較的前例の少ない博士課程への

留学などしたのか。今回の記事のポイントはここにあります。

研究に興味を持ったのは医学生の頃の講義、研究室配属、メンターとの出会いな

ど人により様々です。また、臨床と研究の橋渡しをしたいからサイエンスをきっ

ちりと学ぶために医師として大学院留学をするということも大きな理由でしょう。

いずれにせよ、目の前にあるプロフェッショナルな職業(医師)だけに満足せず、

海外でサイエンスをした経験をキャリアに役立てるために留学しています。

大学院卒業後は留学の経験を生かして研究者として活躍したり、臨床研究を促進

するなど医師に留まらない活動を目指しています。また、公衆衛生医学の研究を

通じて社会に貢献しようとされる人もいます。

ここでは、5人のメンバーの実際の声を紹介します。

―――私は学生の頃からラボに通っており、そこでメンターといえる方と出会い

ました。その人の紹介でサマープログラムに参加し、アメリカでの研究を学生の

うちから体験することができました。義務研修はせずに卒後すぐに大学院留学し

ました。非常にリスキーに見えますが、世界をリードする医学研究者になりたい

という思いと研究が好きだという気持ちが大きかったので、迷いはありませんで

した。大学院を卒業後は基礎研究を続け、トランスレーショナルな研究に結びつ

く貢献をしたいと思います。また、臨床からは完全に身が離れていますが、専攻

する研究分野が医学の知識が非常に役立つものであったため、学生の頃学んだこ

とは無駄にはなっていません。

―――当初は臨床留学を目指して勉強をしていましたが、研修医の時に現在の研

究室のボスとの偶然な出会いがあり、その後様々な幸運も手伝って5年の臨床医経

験の後にPhDコースを始める事が出来ました。臨床経験を重ねるに連れて、如何に

未だ分かっていない事が多いか日々痛感し、悩んでもいましたので、結果的には

自分にとっては研究留学をが合っていた様に思います。実際、この数年間はじっ

くりと色々な事を考える機会に恵まれました。初めての基礎研究を英語圏で行う

という二重の意味での初体験で、不安は大きかったですが、周囲の助力も得て

無事に修了した今になって振り返ってみると大変excitingな数年間でした。

―――将来は病理医になりたいとずっと思っており、別に基礎医学の研究者を

目指しているわけではないですが、病理医には臨床経験よりも、(やったこと

なかったくせに)基礎医学研究の遂行能力のほうが重要だと思ったため大学院に

行きました。留学した理由は、基礎研究の経験がなかったためローテーションを

してからラボを決めたかったこと(日本だと病理学教室に入るしかない)、海外の

病理医と知り合いたかったこと、なんとなくおもしろそうだったから、などです。

―――私は神経回路と行動の関係のより緻密な理解をしたいがため、様々な遺伝

学ツールを適用しやすいげっ歯類を用いたシステム神経科学研究をしたいと考え

ました。その観点から研究室を調べると興味のある研究室がアメリカのニューヨ

ーク大学にあり、訪問を通じてその研究室で研究を行いたいと考えました。これ

が大学院留学を決めた一番の理由です。もう一つの理由としては、アメリカの

大学院では金銭的サポートが厚い点があげられます。日本でも学振DC1などの奨学

金や一部の研究室では金銭的サポートもありますが、授業料など込み込みで考える

とアメリカの大学院の方が経済的安心感があるように思えました。また、科学の世

界で生きて行く上で必須言語となってる英語の訓練にもなると思ったのも大学院

留学を決めた一つの理由です。

―――医学部に入学したのは人が植物状態に陥るような重篤な脳の病気を治療を

したかったからです。しかし、医学を学ぶうちに、脳の神経細胞はほぼ再生する

ことがなく、現在の医学では予防やリハビリに努めるのが精一杯で、脳の損傷

部位の機能を回復させる有効な治療はないことが分かりました。そもそも脳の機

能がどのように生じるのかが分かっておらず、それを理解しなければ損傷部位の

機能を回復させることは、この先いくら経っても出来ないでしょう。そこで、

感覚入力を適切な運動出力に変換する意思決定を神経回路レベルで研究しようと

大学院進学を決めました。

【卒業後の進路】

[学部卒業後、どのような経路で大学院留学したか]

医学分科会のメンバーの中には、医学部を卒業してすぐに留学した人、義務研修

途中あるいは修了後に留学した人、現役医師の間に留学した人、理工学部を卒業

してから公衆衛生医学を学ぶためアメリカでマスターを経てPhDプログラムに進

んだ人と様々なパターンがあります。どのパスであっても、留学するという明確

な意志と努力があれば不可能ではありません。

[大学院卒業後の進路]

医学分科会のメンバーには、既に海外でPhDプログラムを修了した人もいます。

医学分科会の特徴として、医師・医学生が大学院留学する場合、日本の臨床から

離れることになります。よって、これまで多くのメンバーが医師から研究者への

キャリアパスを選択しています。彼らはアカデミアに進んだり、医師兼研究者と

して臨床研究を行うキャリアを視野にいれています。そのキャリアパスを実現す

る例としてドイツのプログラムがあげられます。ドイツではMDを持つ人に研究

と同時に臨床のプログラムをオファーする機関もあり、いろいろと条件はありま

すが日本の医師免許をもつ人でも応募可能です(アメリカの場合はUSMLEが必

要)。アメリカの場合、外国籍の人でも応募可能ながら、医師の資格がなくては

取れない若手向けのグラント(科学研究費)があります。アメリカにて医師兼研

究者としてのキャリアパスを築くのであれば、そのグラントを所得することが期

待されていると言えるでしょう。

【奨学金】

留学に際して必ずしも奨学金が要るわけではありませんが、あると合格しやすく

なります。大学が主宰する奨学金もあり、たとえばドイツのMax Plank Instituteと

大学の合同プログラムでは3年間のフェローシップがあります。メリットとしては

募集人数が多く比較的採用されやすいのと、フェローシップのほかにいろいろな

ワークショップ(scientific writing, presentation, statistics, time management)に

参加できる機会が得られることです。デメリットとしてはプログラムに参加している

研究室それぞれに1-2人まで配属されるため、選考しだいでは希望する研究室に行けない

ことが挙げられます。医学分科会メンバーには

中島国際交流財団(http://www.nakajimafound.or.jp/・5年間) や

本庄国際奨学財団 (http://www.hisf.or.jp/・3年間)を得ている人もいます。

他には平和中島財団(http://heiwanakajimazaidan.jp/)や

Howard Hughes Medical Institute(HHMI)の院生用の給付金

(http://www.hhmi.org/grants/individuals/intl_fellows.html)があります。

これは2-3年目の大学院生が応募できます。また、American Heart Association(AHA)や

旧育英会の給付型の奨学金(http://www.jasso.go.jp/scholarship/long_term_h.html)も

あります。ただし、旧育英会のものは学部でのGPAで足切りがあります。

【大学院選び】

学部の間に既に研究室に通っていた場合は、行きたい研究室を念頭に大学院を選

ぶこともあります。また、日本の学部を卒業したあと、アメリカで修士課程に入

り、その際に大学院選びをする例もあります。他には、全米の大学院の合格率を

まとめたサイト(http://www.petersons.com/ 外国人を含むのか不明)から出願校を

選ぶ方法もあります。

【ラボ選び】

日本で学部の間にラボに通っていた場合、既に行きたい分野が明確であることが

多いです。また、思いっきり分野を変えることができるのもアメリカならではの

利点です。ラボローテーションを活用して自分に合うラボを探すことが大切で

す。

【医学分科会特有の側面】

インターネットで医師の大学院留学について検索すると、まず出てくるのは「日

本人では無理」「お金がないと無理」といった否定的な意見が多いです。しか

し、我々が実現していることから、それら否定的な意見は単なる思い込みでしか

ないとわかります。

また、多忙な医師あるいはほぼ毎週試験に追われる医学生にとって、留学の準備

は大変でしょう。ここでは、実際にどのように時間を工面したかをまとめまし

た。

[医学生の場合]

高学年の病棟実習(大学により4-5年生)が始まるとほとんど時間がとれなくな

るので、それまでにストラテジーを練って行動する必要があります。実習が始ま

る前までに計画を立て、実行に移す必要があります。例えば、実習までにサマ

ープログラムに参加するなど実際に海外で研究してみることが挙げられます。

[医師の場合]

ひとたび臨床現場に出ると、まとまった時間、そして頭が冴えている空き時間を

確保する事は大変難しくなります。通勤時間や患者さんを待っている間の様なス

キマ時間や、当直明けで頭が呆けている時間を如何に活用するかが一つのポイン

トだと思います。常に何か読めるものをポケットに入れておいたり、当直明けは

読むだけだと眠くなる為、五感を総動員する様な教材 (ビデオクリップなど)を使

用する様にしました。倍速再生なども時間節約に有効です。

いかがでしたでしょうか。ご参考になれば幸いです。

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発行責任者: 石井 洋平

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