9/17【海外サイエンス・実況中継】MITのアドミッション事情: マサチューセッツ工科大学材料科学専攻紹介 第二部 工藤朗

Post date: Jan 30, 2012 8:24:0 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ June 2009, Vol. 53, No. 43

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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MITのアドミッション事情:

マサチューセッツ工科大学材料科学専攻紹介 第二部 工藤朗

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今月のメルマガを担当します松田佑介です。

前回に引き続き、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts

Institute of Technology, MIT)の材料科学専攻

(Department of Materials Science and Engineering)の

博士課程に在籍されている工藤朗さんが所属する材料科学専攻

のアドミッションと博士卒業後の進路について面白く

紹介してくださいます。

MITアドミッションの決め手は”自分の差別化”がキーワードのようです。

どうぞお楽しみください。

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MITのアドミッション事情:

マサチューセッツ工科大学材料科学専攻紹介 第二部

工藤朗

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前回を読んで下さった方ありがとうございます。

引き続き執筆担当します工藤です。今回はもう少し

具体的なMITに関する話しをしたいと思います。

1.入学者選抜

みなさんアドミッションについてはいろいろ気になるところが多いと思います。

推薦状・GPA・TOEFL・GREいろいろ言われますね。しかしいろいろ調べた結果

落ち着くところが「結局どれが一番大事とは言えない」ではないでしょうか。

実際学校別・学科別に基準が異なりますし。より良い情報をお伝えするために他

にも日本の学部卒→MIT大学院材料科学専攻(DMSE)の方がいればいいのですが、

なんとここ5年内には僕しかいません(涙)ということでそもそも主観的・・・

どうしようかと考えた末、僕の経験をふまえて以下二つをキーポイントとして

採り上げてみました。

a) 研究経験があるとよい。発表なり論文なり研究成果があるとなおよし。

b) 日本での指導教官をしっかり選ぶ。

アメリカでは卒論を書かない=研究しなくても卒業できるそうです。なので

基本的に卒論を書く日本の大学生は有利・・・かと思いきや一方でアメリカでは

学部一年生から研究室に入ることも出来ます。中には学部卒業までに一流の論文

誌に載せる強者も。皆さんも学卒をしっかり投稿論文や学会発表まで持っていけ

れば◎でしょう。MITにはUROPといって、MIT内外からの学部生がMITの教授

のもとで研究インターンをできるプログラムがあるんですよ。学部1年目から

夏休みをまるまるそこに当て込んで経験を積み、そこが気に入ってしまえば

2年目から配属。実際僕のところにも今年そういう学生が来ました。

追い抜かれないようがんばらないと。彼まだ19歳ですから。

ちなみに僕も学部1年生の頃からある研究室でバイトをしていました。

ある授業で会った先生がたまたまバイト募集中だったという幸運。

ガッチリ研究!というほどに時間を使いませんでしたが、金属工作技術が

身に付いた・真空装置や表面化学について体験しながら学んだなど、ちゃっかり

アピール。液体窒素を汲むとき取り付け口を間違えて逆噴射したのはいい思い出。

指導教官にも恵まれました。修士の間お世話になった教授が非常に良い方

でした。アメリカ東海岸の材料科学研究者の間でも知名度があり、この教授

の推薦状は間違いなく強力でした。断言。実験設備も今いるMITのグループと

遜色なく、かなり自由に研究させて頂きました。おかげで半年の間に2回も

テーマが変わったにも関わらず、MIT申請前に日本国内の学会発表アブストラ

クトを滑り込ませることができました。

どうやってこの教授のことを知ったかと言うと「英語」です。この研究室は

教授自身を含めて日本語を話せない方がほとんど。進捗発表も教授との議論も

当然英語でした。そんなわけでこの教授の授業も研究室もあまり人気がなく

(笑)、お世話になった日本人学生はまだ僕しかいません。留学を志す前から

英語は大事だと思っていた僕は英語を話す機会を探していて、授業・バイト

(さっきのとはまた別)・研究とこの教授と学部1年生の頃から縁がありました

。そこで海外ともつながりの多い優秀な教授であることを知ることができた

わけです。学卒が終わった春休みも卒業旅行なんかどこ吹く風、この研究室で

一ヶ月早く研究を始めました。教授もさぞ変わり者だと思ったことでしょう。

普通ならあまり英語を重視するような環境ではありませんでしたが、それ故に

考えを逆張りしていたらいい環境に入っていました。

以上二つについて述べました。GPAや英語力試験については自分の努力で

何とかなります。ただここ二つは「研究は4年生から」や「やりたいことを

優先して配属を決める」等といういわゆる常識に従うと損することもあります

ので、自分でアンテナを常に張っておいて下さい。

もっと大きな視点から見ると、この二つに限らず総じて大事なのは周りと

自分の差別化を意識すると言うことです。MITでも大学院進学をするのは卒業生

のうち半分もいません(2008~2010年卒)。なので申請者はだいたい成績はほとんど

A、GREは高得点、添削で磨き上げたエッセイはピカピカ、みたいな。そういう中

で自分を目立たせるには「何か」がないといけないわけです。

更に言うと素晴らしい指導教官に恵まれても、その先生があなたを推薦する時

あなたについてなにか光る物を知っていなければいい内容が書けません。

「Akira Kudoは・・・どこにでもいる普通の学生だった」なんて書かれたら

泣きます(笑)「学部生をバイトで雇う先生なんか知らない」とはじめから諦めず

、自分の学科の先生全員にメールしたら一人くらいは「やる気あるなー。

なんかやらせてやるか」とか思ってくれるかもしれませんよ。

今までなんとなくやっていたサークル活動で、思い切って部長になってリーダー

経験を積んだりしてみてはいかがでしょう。学内の卒論発表も、優秀賞等あるなら

念入りに練習してみましょう。思い切って日本からMITのUROPやハーバードの

サマースクールにアプライしてみるとか。別に誰もダメだって言ってないし。

こう書くと僕が目的達成ありきの打算的な人間に聞こえてしまうので、そこの

誤解だけはないようにお願い致します(笑)。書いた通り僕も留学を志す前から

やっていた・考えていたことに助けられています。大学院留学に限らずよく

言われることかと思いますが、人と同じことをしていたら逃してしまう機会が

多いということなのでしょう。

最後に僕のクラスメートが言っていた出願関係の話をいくつか。

「オレ研究経験全くないのに受かっちゃったんだよね。なんでだろ?」

「働いてた会社を創ったのがたまたまMIT DMSEの先生だった。そんな縁が

あってMITだけ出願したら受かった。」

「うーん、MITなら学部GPAは3.75/4.00ぐらいあった方いいんじゃない?」

「MIT以外全部落ちた(笑)」

「オレもバークレー落ちた(笑)」

‥‥‥重要な物を書き忘れていました。やっぱり運は必要ですね。

2.卒業後

入口の話をしたので出口の話もします。このような選抜をくぐり抜け、5年前後

の課程を終えたMITのPhDホルダーはどこへ行くのでしょうか。実はこれに関しては

MIT Career Officeがかなり詳細な統計を取っています。なので各自お読み下さい

・・・では話しが終わってしまいますので、特に気になるであろう職種と年収を

中心に紹介します。PhDについては2009が最新の調査結果になっています。

http://web.mit.edu/career/www/infostats/graduation.html

卒業後すぐの行き先ですが、約半分がポストドクターになっています。

ポストドクターにも大学と政府・企業の2種類がある様です。そして残り半分は

各種職業に就いていますね。Faculty positionや大学外の研究職が目立って多く

、他には技術者・コンサルタント・起業関係等があります。ちなみにFaculty

positionとは大学の教員を指していますので、ポストドクターを経ずに

直接教員になったという優秀な方を意味しているのでしょう。思ったより多い

印象を受けます。主な就業内容は圧倒的に研究開発が多いですね。

年収まで露骨に聞く辺りがアメリカです。しかしよく見ると行き先では300人以上

回答をしていたのに、年収になると183人しか回答していません。こういう話は

恥ずかしいのでしょうか。平均で初年度が$68,937+ボーナスとなっています。

上25%は$90,000以上+ボーナスもらえる様ですね。2008年度はもう少し分析が

細かいので引用すると、企業就職で平均$106.469、大学ポストドクターで平均

$44,370、政府・企業ポストドクターで平均$89,720となっています。2008と2009

の間に悪名高いリーマンショックを挟んでいるのでどこまで参考になるのかは

分かりませんが、全体的に収入がやや減、そしてポストドクターになる人が

増えた感じでしょうか。やはり不景気が効いているようです。なんたって10人

に一人は無職だアメリカ。オバマ政権頑張ってくれ。

それでも企業就職なら$80,000+ボーナスくらいにはなりそうです。

日本の博士課程卒業後と比べてどうでしょうか。ポスドク問題などいろいろと

言われていますが、僕自身に修士以上の日本での学術経験がないのでなんとも。

ただ在学中から給料をもらっているということで安心感はありますし、PhD卒を

対象としたジョブフェアもよくあります。先週はMcKinseyが来ていました。

PhDコース在籍中でもインターンシップ等の経験を積んでよし。

推測の域を出ませんが、日本の博士課程よりも余裕と自由がある気がします。

「別にPhDの研究内容で一生食ってくわけじゃねえしな」とは先輩の談。

余談になりますが、教授陣で教授職以外もやっている方が結構います。

僕の指導教官の一人は去年のサバティカルの間に会社を起ち上げました。

DMSEの教授が創設に携わった企業はGMと電気自動車開発について協力して

います。技術系コンサルティング業をやっているような方もいます。

毎年大きな結果を出しながらそれを社会に還元する姿勢も保ち続ける

MITの教授陣からは、見習うべき物が本当に多いです。

http://response.jp/article/2011/08/12/160905.html

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執筆者自己紹介

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工藤朗

2005年東北大学工学部材料科学総合学科入学

2009年東北大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻入学

2010年マサチューセッツ工科大学大学院材料科学専攻PhD課程入学

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編集者自己紹介

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松田佑介

2002年東北大学工学部機械・知能系卒業

2005年東北大学工学部工学研究科機械システムデザイン専攻修士課程修了

2003-2004年カリフォルニア大学サンディエゴ校交換留学

2005から2008年8月まで日立グローバルストレージテクノロジーズにてハード

ディスクドライブの研究開発に従事。同社退職後2008より

Stanford University Materials Science and

Engineering,Ph.D. programに在籍。

専門分野は材料工学(機械特性)および表面分析。

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編集後記

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二回にわたって筆を執らせて頂きました。少しでも皆さんのお役に立て

れば幸いです。ところで単語暗記で日本人を苦しめて来たGREですが、

大きな変更があった様ですね。今から2年前、受験を目前にして暗記の

総仕上げをしていたのが懐かしいです。工学系ならほとんど見られないと

ウワサのGRE Verbalですが、やっておいて良かったと思いますよ。

プレゼン・論文・学会で偉い教授と話すときなど、やはりBig wordsを

適切に使えるとかっこいいですよね。頭良さそうに聞こえるじゃないですか。

(工藤)

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編集後記

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工藤さんの記事楽しんでいただけたでしょうか?

”きらりと光る何か”を持つことはとても大切なことと思います。

先日あるスタンフォードの教授に「アドミッションで最も重要な要因は何か?」

と質問する機会があったのですが、「確実な法則のようなものはないよ。」

と言われました。同時に次のようなことを話してくれました。

「今では世界的に著名な教授Aは学部時代の成績は実はあまり良くなかったんだよ。

でもトップスクールの大学院に入学して、その後は君が良く知っているように

材料研究の世界的スーパースターになったでしょ。結局誰が未来の一流研究者に

なるかは成績だけではもちろん決まらないしアドミッションの時点では結局よく

わからないんだよね。」

教授Aのアプリケーションには工藤さんの言う”きらりと光るなにか”

がきっとあったのだと思います。私もきらりと光れるようもっと考えようと

思います。

(松田)

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発行責任者: 山本 智徳

編集責任者: 松田佑介

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