【海外サイエンス・実況中継】出願プロセスを始める前に知っておこう!~その1~

Post date: Jan 30, 2012 7:31:2 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ October 2008, Vol. 39, No. 1, Part 1

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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「留学本では教えてくれない海外大学院のホント~実際の体験から」の第9回

目は、YKさんに紹介してもらいます。YKさんは南カリフォルニア大学の

PhD 課程に入学され、修士号を取得されたあと休学し、現在は東京の米系投資

会社にて活躍されています。アメリカでは、ちょうど来年秋入学の大学院出願

シーズン直前ですので、YKさんのエッセイがこれから出願する方にはとても

役立つと思います。内容がまさに旬ですので、今週より5週連続でお送りした

いと思います。

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留学本では教えてくれない海外大学院のホント~実際の体験から

出願プロセスを始める前に知っておこう!~その1~

アメリカのシステムと日本のシステムを知る!

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みなさん、こんにちは。今回、留学本では教えてくれない海外大学院のホント、

および Ph.D. 取得後のキャリアをどう成功させるかに関しまして、微力なが

ら私なりの考えをお伝えさせていただこうと思い、執筆させていただいており

ます。結構な分量なので、5回に渡ってお送りします。今回のトピックは、ア

メリカの大学院システムと日本の大学院システムの違いについてです。

●日本のシステムとアメリカのシステム

社会は、ある一定の条件の下で独自のシステムを構築し、今日の発展を遂げて

きました。社会に触れる機会の少ない学生も、大学というやや閉じた社会の中

で、知らず知らずのうちにそのシステムに順応し、学生生活を送っている気が

します。

しかし文化が異なれば当然そのシステムも異なるわけで、留学とはそういった

文化的な面も理解していないと当然痛い目に遭います。これは、ポスドク留学

でも同じかと思います。どれだけ日本よりも研究が盛んだとしても、留学先の

システムが体質に合わなければ、鬱になってしまいます・・・。もちろん、逆

もまた真なり、ですが。不斉合成の技を磨きたくて日本にやってきた海外の研

究者が、日本の大学のヒエラルキーに直面して、「Ah!He is ショーグン!

ショーグン!」とか言いたくなるのもわかります。

さて、日米の具体的なシステムの違いを書こうかと思いますが、文章でゴニョ

ゴニョ書くよりも、ここは理系らしく、わかりやすいように箇条書きで挙げて

みましょう。

- Academic Position

日本: 教授、准(助)教授または講師、助教

アメリカ: Full Professor, Associate Professor, Assistant Professor

- 研究室の形態

日本: ひとつのラボに上記職が密集

アメリカ: Assistant Professor からラボを運営

- 昇進システム

日本: 准教授は教授が定年になるまでガマン、もしくは地方に・・・

アメリカ: Assistant Professor は試用期間(5年強)で結果を残せば

Associate Professor へ昇級(終身雇用権である、テニュア獲得)

- 大学院生の出身校

日本: 学部のときと同じ人がほとんど

アメリカ: 多種多様

- 新入生の平均年齢

日本: 22~23(M1)

アメリカ: 多種多様(だいたい25前後?)

- 入学金

日本:国立で約28万円

アメリカ:存在しない

- 授業料(年間)

日本:国立で50万円強

アメリカ:多種多様(平均では、公立の場合$6,000、私立では$24,000程度)

- 財政援助

日本:

修士 → 日本育英会第1種なら月8万くらい。要返済。

博士 → 学振。月18万程度。授業料半額免除。返済不要。バイト禁止。また、

一部の大学院では、博士課程の実質的な授業料免除が始まっている。

理研 → Junior Research Associate. 月18万程度。返済不要。

アメリカ:

入学から卒業まで、多くの学生に授業料全額免除&奨学金給付(ただし、必

ずしもではない)。場所にもよるが、月$1500ほど。返済不要。留学生は学外

のバイトは原則禁止。

- TA, RA

日本: 数に限りがございます、応募はお早めに。月3万円~?

アメリカ: ほぼ必須。見返りに上記の奨学金をいただく。

- ボスと酒飲み

日本: 一般に積極的(新歓コンパなど)

アメリカ: 一般に消極的

- ボスと旅行

日本: 一般に積極的(研究室旅行など)

アメリカ: 一般に消極的

- iPod を聞きながら実験

日本: 一般に怒られる

アメリカ: random modeでノッてる人をよく見かける

- Ph.D.人口 vs. アカデミックポジション

日本: 飽和

アメリカ: 非常に飽和

- 卒後の進路

日本: 一般にボスが話を掛け合ってくれる

アメリカ: 一般にボスはノータッチ

- 余った科研費

日本: 年度末にOA用品を大量購入して使い切る

アメリカ: 多種多様。RAの昇給とか。

- 学科の構成

日本: 薬学研究科、医学研究科、理学研究科、工学研究科...という具合。

アメリカ: Biochemistry, Molecular Biology, Chemistry, Neuroscience...

という具合。

- 女性教授

日本: 極めて少ない

アメリカ: 多い。専攻にもよるが、4~5割がふつう。

上記のように、日本とアメリカでは似通っているところもあれば、異なってい

る部分もあるわけですね。

学生として留学する際、やはり最も気になるのは、金銭的なことだと思います。

日本の場合、博士前期課程(修士課程)で得られる唯一の公的な奨学金は日本

育英会のみで、しかも返済が必要という制度です。仮に修士2年間これを利用

したとすると、M2修了時には190万近くの借金を抱えていることになります。

つまり、日本の場合、修士→博士の際に一種の人生の決断を迫られるわけで、

いくら研究に秀でている人でも、金銭面での個人的な折り合いがつかず、修士

卒後は就職していく人が少なくありません。

次回は、こういった潤沢な資金はどこから出てくるのかを紹介します。出願を

する上で知っておいて損はない内容ですので、乞うご期待!

今回のエッセイへのご意見は、こちらへどうぞ。

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=108

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自己紹介

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2005年京都大学薬学部卒後、同大学院医学研究科医科学修士課程に3ヶ月

のみ在籍、同年8月に南カリフォルニア大学神経科学科博士課程入学。約2年

半の間学位研究に従事するも、08年2月に修士号と共に休学、帰国。3月よ

り東京の米系投資銀行にてセルサイド・アナリストとして活躍中。

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編集後記

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今年度のノーベル賞は日本人サイエンティストの独擅場となりました。改めて

日本人の研究魂の強さを再認識させられました。国は違えど常に高い目標意識

を持って研究を続けられてる先生方にはいろいろと学ばせていただく点が多く

あります。大学院留学は研究者として成長していく観点から以上に、これらの

点を若いうちから考えさせてくれる、絶好の機会です。少しでもその一助にな

ることができれば幸いです。(YK)

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