【海外サイエンス・実況中継】注目される研究分野・研究者と求められる人材~超並列分散、量子/DNAコンピューター~‏

Post date: Jan 30, 2012 8:9:55 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ June 2010, Vol. 53, No. 16

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

_/

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6月の編集を担当させていただいております、メリーランド大学の小葦泰治です。

カガクシャネット著/山本智徳監修

理系大学院留学 アメリカで実現する研究者への道 好評発売中です。

http://kagakusha.net/alc/

またこちらのサイトでは、本書の案内ならびに、本書では掲載できな

かったインタビューの完全版。また研究者情報など詳しい情報が満載。

ご覧いただければ幸いです。

また7月末には、

留学希望者対象:

http://groups.google.com/group/interest-in-graduate-study-abroad

大学院留学中または経験者で説明会を開くことに興味がある人:

http://groups.google.com/group/graduate-study-abroad

を運営なさっている、スタンフォード大学の宮崎さんを中心に

東京大学本郷キャンパスにて、留学説明会開催が予定されています。

カガクシャネットも後援という形でサポートさせていただく予定で、

日程、場所が正式に決まり次第あらためてご連絡させていただこう

と思っています。

今回も、前回に引き続き、情報科学の分野の

「注目される研究分野・研究者と求められる人材」

について紹介したいと思います。

Kagakusha.net メンバーで、

Carnegie Mellon University Ph.D. Program在籍の嶋英樹さんが

執筆してくださった内容です。

上記の書籍より、メルマガ用に医学薬学分野への応用の追加を

含め一部を編集して、お送りさせていただきます。

またご意見、ご感想などございましたら、

カガクシャ・ネットホームページ経由でも、

E メールでもご連絡をお待ちしております。

今後配信して欲しい内容や、その他の要望など大歓迎です。

http://kagakusha.net/modules/contact/

EMAIL:toashi [AT] rx.umaryland.edu

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注目される研究分野・研究者と求められる人材

~情報科学(Computer Science)~

嶋 英樹

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情報科学とは

情報科学(Computer Science, Information Science)

とは、一言でいうとコンピューター関連の分野です。

数学に近い分野(情報圧縮や暗号理論)からコンピューター自体に

ついての分野(ハードウェア、OS、プログラミング言語、ソフトウ

ェア工学、データベース)、コンピューターを使って諸問題を解決

する分野(情報検索、ロボット工学)など、対象テーマは幅広いです。

20世紀後半に誕生した歴史の浅い分野にも関わらず、コンピュー

ターの進化の速さに支えられて、目覚しい成長を遂げてきました。

注目される研究分野

◆ 超並列分散(Parallel and Distributed Computing)

前々回のメルマガで紹介したMooreの法則に従えば、コン

ピューターの処理能力は18カ月~24カ月ごとに倍になります。

しかし、技術的な限界、理論的な限界などさまざまな障壁があり、

それを越えていかないと今までのような成長が止まることになり

ます。

複数のプロセッサコア

2003年ころから、人間でいえば頭脳にあたるCPU(プロ

セッサー)という装置に、技術面で新たな問題が現れました。これ

以上処理能力を上げると消費電力がかかりすぎて、電気代がかか

ったり、熱くなりすぎたりする、という問題です。そこで、大きな

仕事をチームで分担するように、1つのCPUに複数のプロセッ

サコアを搭載するのが2000年以降の傾向です。

最近では家庭用のパソコンでも2つのコアを積んだデュアルコア

は当たり前になってきており、企業のサーバー用コンピューター

などではさらに多くのコアを積んでいます。

コア数についての研究は、情報科学というより、やや応用物理

や計算機工学寄りです。しかし、情報科学にもかかわってくる部分

は、ソフトウェア側でどうやって効率良く複数のコアを使って、

効率良く並列処理するか、という問題です。

Javaというプログラミング言語の作者であるGosling博

士*1の講演で、「このままMooreの法則が続くと仮定する

と、20年後にはCPUのコア数は5000個になる」という冗談

半分の予測を聞きました。

並列処理はうまくプログラミングをするにはスキルが必要で、コア

数が5000個もあったら非常に処理に手間がかかります。非本質

的な部分にもかかわらずスキルがいるとなれば、プログラマーに

とってはやっかいな仕事が増えるだけです。

プログラマー側が意識しないでも、ソフトウェア側で自動的に並列

処理をしてくれる仕組みが求められているのです。

◆量子コンピューター(Quantum Computer)・

DNAコンピューター(DNAComputer)

たとえ消費電力の問題を解決したとしても、まだまだ現実的な

コストでより小さい回路を作るのは難しいといわれています。また

理論的な限界として、半導体が原子レベルの大きさになると「トン

ネル効果」と呼ばれる物理現象によって、電子が回路間をワープ

するような振る舞いをはじめ、電子回路が動かなくなることが知

られています。

コンピューターは文書、音声、映像、すべてを、デジタル、つま

り「0」と「1」の世界に落とし込みます。よって電流(電子の

流れ)で「0」と「1」をあらわす仕組みである以上、そういった

限界が出てきます。

そこで、電子のスピン方向で「0」と「1」を現そうというのが

「量子コンピューター」と呼ばれる未来のコンピューターです。

それとは別に、DNAの塩基を論理回路(デジタル計算の最小単

位)に見立てるという「DNAコンピューター」という理論もあり

ます。

どちらも実現すれば今の「電子」コンピューターでは足元にも及ば

ない、とてつもない並列計算ができるようになります。しかし実用

上の問題が山積しており、まだまだ実用には程遠いのが現状です。

ここまで1台のコンピューター内での並列化について紹介しま

した。複数のコンピューターを使った並列分散処理の研究も以前

から盛んに進められており、これからも需要が高いでしょう。

非常にたくさんの廉価なコンピューターをまとめあげることで、

1台の高価なスーパーコンピューターに匹敵する計算量を実現する

研究も注目されています。

未来について正確な予想をするのは難しいですが、近い将来、クラ

ウドコンピューティングやGoogleが発表したChrome

OSに代表されるように、パソコンは並列分散処理環境に接続する

ための箱となり、処理能力やデータは、パソコン自体にはそれほど

必要なくなってくる時代がくるかもしれません。

ここでは触れられなかった、有望で夢のあるテーマとしては、

認知科学を用いてコンピューターを賢い先生にするIntelligent

Tutoring、ゲームや映画に最先端の技術を応用する

Entertainment Technology、現実の映像に仮想の情報を

重ね合わせるAugmented Realityなどがあります。より便利で

暮らしやすい世界を目指して、情報科学のさらなる発展が求めら

れています。

◇医学薬学分野への応用

ここで紹介させていただいた超並列分散は、タンパク質、DNA、

RNA、脂質、糖鎖の分子の挙動や物理化学的性質などを予測する

のにも応用されています。*2,3 またこれらは、CHARMM、AMBER、

GROMACS、NAMD*4といった分子モデリングプログラムによって

行われています。

さらに創薬への応用に関しては、DOCK*5やAutoDock*6と

いうプログラムにより、並列処理により、数百万の薬剤様低分子を

ターゲットとなるタンパク質の特定部位に、コンピューター内で

半日程度でドッキング(結合)し、解析することも可能になって

います。

研究者情報

*1:James Gosling, Sun Microsystems

*2:Martin Karplus, Harvard University

*3:David A. Case, Rutgers University

*4:Klaus Schulten, University of Illinois at Urbana-Champaign

*5:Irwin Kuntz, University of California at San Fransisco

*6:Arthur J. Olson, The Scripps Research Institute

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自己紹介

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小葦泰治

関西大学工学部生物工学科卒。

京都大学大学院生命科学研究科中退後、

Mount Sinai School of Medicine of New York Universityへ進学し、

Ph.D.取得(2008年)。

現在、メリーランド大学薬学部、

Computer-Aided Drug Designセンター研究員。

2010年6月現在、世界第4位のスーパーコンピューター

Kraken (1 秒間に831兆7000億回の計算が可能)などを

用い、創薬ならびに、実験では解析の難しい、タンパク

質の原子レベルでの構造と機能の関わりを調べ、数多く

の病気に関連した生理学的な現象のより一層の理解につ

ながるよう、研究に取り組んでいます。

あと科学技術政策、 イノベーション(新たな社会的価値の

創出)、外交、国際協力分野にも興味があります。

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編集後記

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1.

私のいる研究室は、アメリカ人、イングランド人、ポルトガル人、

韓国人がおり、すべてワールドカップ決勝トーナメントに進出した

ということで、ものすごく盛り上がっています。残念ながら、アメ

リカ、イングランド、韓国は敗退してしまっただけに、残る日本と

ポルトガルがベスト8に進めるように、みんなで応援しています。

2.

本当に手短かでしたが、最後に触れさせていただいた超並列分散

の医学薬学分野への応用は私の専門分野でして、日本でもこのよう

な分野がアメリカ並みに盛んになって、社会に成果が還元できたら

いいのになぁと思っています。

それでは、次回(7月)は、Mount Sinai School of Medicineの

中山さんが編集を担当してくださいます。どうぞお楽しみに!

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発行責任者: 杉井 重紀

編集責任者: 小葦 泰治

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