【海外サイエンス・実況中継】中国人のアメリカ留学

Post date: Jan 30, 2012 8:14:0 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ November 2010, Vol. 53, No. 25

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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引き続き、11月を担当させていただく、メリーラ

ンド大学薬学部 の小葦泰治です。さて今回も、前回

同様、ジョンズホプキンズ大学Biomedical Engineering

Ph.D.プログラムに在籍中の宋云柯(そう うんか)

さんが、中国人に留学生が多い、理由、文化的背景、

また日本の現状、問題点、彼なりの解決法、米国の

Ph.D.に参加することで、日本では得られないメリッ

トなどを、わかりやすく要点を抑えて執筆してくださ

いました。

留学を志す方々に加えて、大学で研究、教育に関わる

方々にとっても、非常に有益な情報だと思います。

メルマガについて、ご意見などございましたら、カガク

シャネットホームページ経由、 Eメールでもご連絡をお

待ちしております。今後配信して欲しい内容や、その他

の要望などもお待ちしております。http://kagakusha.net/

私たちの最新著書、理系大学院留学(アルク社)

http://kagakusha.net/alc/ につきましても、手に取り

ご覧になっていただければ幸いです。どうかよろしく

お願い申し上げます。

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中国人のアメリカ留学

宋 云柯 (そう うんか)

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カガクシャ・ネット、メルマガ購読者の皆さま、

こんにちは。The Johns Hopkins University Department

of Biomedical Engineering 三年目の宋です。今週のメ

ルマガは「中国人のアメリカ留学」というトピック

で、私の日中米の研究や教育についての意見を、気

ままに書かせていただきました。私は北京で生まれ、

6 歳のとき日本に移り、その後日本で小、中、高、

大学の教育を受け、アメリカに留学しました。日本に

来てからも、両親から中国の文化と思想を学び、毎年

中国に帰っては、友人や親戚とよく話をし、中国のこ

とを理解しようと努力して参りました。このメルマガ

に書かせていただいたのは、経験と聞いた話に基づく

自分勝手な意見ばかりで恐縮ですが、お付き合いいた

だければと幸いです。

◆科挙の国、中国。

留学を志されている日本人の方の間には、「中国人は

死ぬほど勉強する」(または「中国人の GRE スコア

は異状に高い」)というイメージを持っている方がい

らっしゃるかもしれません。中国人の学歴・出世に対

する情熱は、何も現代だけでなく、中華の歴史を通し

て顕著に現れています。隋朝(598年)から清朝(1905

年)まで続いた科挙という官僚試験は、昔の中国国民

が、よりよい暮らしをするための唯一の手段でした。

そこで親は、子供に勉強の大切さを説き、一家の希望

として科挙を受けさせました。倍率は 3000 倍とも言

われ、受験合格者があまりのうれしさに発狂して廃人

になってしまうこともあったといいます。王朝が変わ

り、時代が変わっても、中国人の学歴・出世に対する

情熱は、「万般皆下品、惟有読書高(ただ読書のみが

尊く、それ以外は全て卑しい)」という言葉と共に

1300 年間、変わることなく受け継がれてきたのです。

◆現在の中国の受験

人口が増え続け、競争がますます激化している現在

の中国において、科挙に取って代わる難関試験は、

北京大学・清華大学の受験でしょう。中国の大学受

験は、各省の統一試験ひとつの成績ですべてが決ま

ります。例えば、清華大学は 2010 年に河南省に 72

名の合格枠を振り当てましたが、一億人の人口を誇

る河南省で上位 72 名の成績に入ることの難しさは、

いうならば、日本全国の高校三年生がもれなく参加

する全国模試で上位100位以内に入ることぐらい、

といえるでしょう。

◆アメリカ留学 ~更なる高みへ~

難関を潜り抜けてきた精鋭が大学受験後にほっと

一息つけるかというと、そうでもありません。清

朝以来、「欧米に追いつき追い越せ」の姿勢をと

り続けてきた中国人は、今でも根強い欧米へのあ

こがれを感じています。そのためか、中国のトッ

プで満足せず、世界のトップになってこそ出世だ

という考えが、中国社会では一般的に見られます。

例えば、中国の新聞の広告には受験関係のものが

異常に多いですが、内わけは留学関係と大学受験

関係が半々であるように思います。雑誌でもアメ

リカ名門大学についての記事はよく見られますし、

GREやTOEFL の練習本や留学塾の数も非常に多

く、社会全体がアメリカ留学を学業の最終目標と

して掲げているように思います。その結果、現在

世界でアメリカの Ph.D. をもっとも多く排出して

いる大学が清華大学、二位が北京大学、そして三位

にやっとアメリカの UC Berkley となっています。

つまりアメリカの大学よりも、清華大学、北京大学

の方が多くアメリカ大学院で Ph.D. を取る卒業生を

送り出しているということになります。

◆中国のサイエンス

中国経済と社会システムが成長するにつれて、Ph.D.

取得後に中国に戻る留学生はどんどん増えると考え

られます。これは中国のサイエンスおよび工業の急

激な発展を意味しており、アメリカや日本にとって

は一つの脅威となるでしょう。例えば、論文数ラン

キングでは2007年に中国が日本を追い越して世界

第二位になり、その後も急激に上がり続けています[1]。

また、Nature が発表した Science and the City とい

う記事でも、中国(特に清華大学および北京大学が

ある北京市)の論文数の異常な増加は明らかであり、

その速度は年々ましているようにも思えます [2]。

◆日本の現状

日本は Science においての世界での地位はかなり高く、

多くのよい論文を出している国です。しかし日本が少

子化・ゆとり教育による理系離れ・博士の就職難など

の問題を抱えていること、また Science に対する日本

政府のサポートが足りないことも事実です。それでは、

アメリカのような超大国や中国のような新興国に対抗

し、国際的なサイエンス社会において日本の競争力を

さらに引き上げるためには、どうすればよいのでしょ

うか。

日本は「ポスドク一万人計画」によって、博士の数を

すでにかなり増やしています。サイエンスの結果は、研

究者の数×研究者の質で決まるとして、博士の数をこれ

以上増やしにくい日本にとって、博士一人ひとりの質を

保つ、またはさらに向上させることがきわめて重要であ

るように思います。これはあくまで私の意見ですが、博

士課程で留学することは、研究者として成長するいい機

会であると思います。その理由は、

1: 世界をみることで、いい刺激をもらえること。世界

中から集まった優秀な学生や研究者と共に学ぶことで、

自分の未熟さを知ると共に、高い目標を持ちやすくなり

ます。

2: プレゼンテーションやトーク等の技術が上達するこ

と。アメリカに来て知ったことは、自分の意図をうま

く表現して読者・視聴者に伝えることは、実験でよい

結果を得ることと同じくらい重要であるということで

す。アメリカの学生や教員は表現に長けているので、

彼らから学ぶことは多いように思います。

3: 英語がよく身につくこと。グローバル化した現在の

社会で活躍するには、英語を身につけることは must です。

4: 日本を出て、新しい環境での勉強・研究生活を送る

ことで、人間としての行動力が上がること。

などが挙げられます。日本には、忍耐力、勤勉さ、独

創性などのすばらしい素養を持った学生がいっぱいい

ます。そのような方々が勇気を持って世界に出て行き、

どんどん活躍することができたら、日本のサイエンス

や工業はもっと成長するのではないかと、私は思いま

す。

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[1] With output and impact rising, China’s science surge rolls on

http://sciencewatch.com/ana/fea/08julaugFea/

[2] Science and the City

http://www.nature.com/news/specials/cities/best-cities.html

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自己紹介

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宋云柯 (そう うんか)

慶應大学理工学部生命情報学科卒業。現在、アメリカ

東海岸のJohns Hopkins University,School of Medicine,

Department of Biomedical Engineering Ph.D. 課程

に所属マイクロ流体工学、一分子蛍光検出に関する研

究に従事。

専門分野:生体工学

小葦泰治

関西大学工学部生物工学科卒。京都大学大学院生命科

学研究科修士課程中退。Mount Sinai School of Medicine

of New York University (Ph.D.)。現在、University

of Maryland School of Pharmacyにて、世界第4位のス

パコンKrakenなどを用い、創薬ならびに、実験では解

析の難しい病気関連タンパク質の原子レベルでのシミュ

レーション研究に従事。また科学技術政策にも興味があ

ります。

専門分野:生物物理、計算機化学、分子シミュレーション

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編集後記

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留学とは関係ありませんが、大学一年時、二年時から

研究室に入って何か実験を始めるのもいいかもしれま

せん。アメリカにはそういう学生が多く、みな博士課

程に入るころには経験豊富でばんばん実験ができる研

究者になっています。私も早めに研究室に入っていた

らよかったのに。。。といまさらになって思うので

した。(宋)

スーパーコンピュータの最新ランキングがこの11月

に発表されました。様々な指標(演算処理、消費電力

など)でのランキングが発表されています。演算速度

だけで見ると、中国が1、3位にそれぞれ1秒間に

それぞれ2556兆回、1271兆回の浮動小数点ができ

ます。米国は2位、日本は4位(1192兆回/秒)が最高

です。ただ省エネ部門、また別のマシーンですが、

自分たちがタンパク質のシミュレーション計算で用

いる、高速フーリエ変換では健闘していて、まだま

だ捨てたものではないと思いますが、開発にまつわ

る付随技術の開発、次世代の人財育成、応用研究の

促進、すべてにおいて世界1位になる意義は、科学

技術立国を掲げる日本にとっては、非常に大きな意

味を持つので、日本政府の関係者のみなさまには、

長期的な視野に立ち、目先のことに惑わされず、こ

れからの日本に本当に何が必要なのかを熟慮し、政

策および、予算を割り当てられることを、スパコン

を毎日利用する、現場の研究者として、強く望みます。

(小葦)

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発行責任者: 杉井 重紀

編集責任者: 小葦 泰治

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