【海外サイエンス・実況中継】 分子生物界の“ガリレオ”~ヒト遺伝子のプログラムコードの意味を推理する~ バイオインフォマティクス

Post date: Jan 09, 2012 5:32:14 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ December 2007 Vol 25 No 1

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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サイエンスの実況中継の第25回目をお送りします。今週は、ボストン大学

で博士課程に在籍している成相さんが、「バイオインフォマティクス」の紹介

について、執筆してくれました。「あれ、バイオインフォマティクスは最近、

小葦さんが紹介したんでは?」と思われた方・・・その通りです。しかし、

別の違った視点から分野を見ると、この今ホットな分野の新しい側面が見え

てくると思います。

(杉井)

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今日のエキスパートな質問(答えは下にあります)

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1. 2003年に解読されたヒトゲノムは30億文字もありますが、端的に

言うと、どのように全ゲノムを読み取られたのでしょうか?

2. ヒトゲノムの「プログラムコード」は解読されましたが、問題点は何でしょうか?

3. 成相さんが取り組んでいる、主な研究テーマとは?

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分子生物界の“ガリレオ”~ヒト遺伝子のプログラムコードの意味を推理する

~ バイオインフォマティクス

成相 直樹

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私は現在、ボストン大学バイオインフォマティクスプログラム (Ph.D.

コース) に在籍しています。バイオインフォマティクスという分野を私

なりに定義すると、『生命科学あるいは医学的に重要な問題をコンピュー

ターを活用して解き明かす』と言うことが出来ると思います。

一つの例を挙げると、30億文字のヒトゲノムが2003年に解読されましたが、

これはコンピューター科学の力を総動員して、達成されました。当時のヒト

ゲノム読み取り機では約1000文字しか正確に読むことができなかったのです

が、簡単に述べると以下の様な方法で、30億文字のヒトゲノムが決定されま

した:

1. 30億文字のDNAをランダムに切断して、それぞれの断片を1000文字読む

2. 上記 1.のステップを数多くのヒトゲノムで行なう

3. 得られた断片同士を配列のオーバーラップを見てつなぎあわせていく

この様にヒトゲノム配列を始めとして、チンパンジー、イヌ、ニワトリなど

現在では数多くのゲノム配列が決定されています。そしてゲノム配列が分

かったことで遺伝子、タンパク質の構造などがより明らかになり、分子生物

学・医学はバイオインフォマティクスとの相乗効果で、かつてないスピード

で進歩しつつあります。

さて、ヒトゲノム(DNA配列)というものはコンピュータープログラムの様な

ものですから、プログラムが全て読めたのでヒトの機能や病気が全て解明さ

れる日は近いと思われる方も居るかもしれません。ところが、ヒトの体と

いうものはそう簡単なものではありません。プログラムのコード自体は分

かったものの、そのヒトゲノムを構成しているプログラムの言語がどの様な

構造をしているか、そしてそもそも書かれているプログラムが何を意味して

いるか、という点に関しては、まだ完全な理解にはほど遠い状態です。

現在、ヒトゲノム30億文字のどの部分が遺伝子(タンパク質をコードする

部分) か、ということについては、バイオインフォマティクスの発展もあ

り、大体分かってきました。

しかしその2万数千存在すると言われている遺伝子のうち、半分以上の遺伝

子については未だに機能が分かっていません。私の現在の研究テーマは、

このような機能未知の遺伝子やタンパク質の機能を、さまざまな生物学的

データを利用して推測する、というものです。例えば、機能未知でも遺伝子

の配列は分かっているので、他の機能の分かっている遺伝子と配列を比べて

みて、似ていればタンパク質の機能も似ているだろう、という、ある程度の

推測が出来ます。

他にもやや専門的になりますが、タンパク質間の相互作用、遺伝子の発現

情報、タンパク質局在情報などの、ゲノム全体規模のデータを利用して、

統計的なフレームワークのもとで、信頼性の高い機能予測システムを開発

することを目指しています。私たちの研究が、糖尿病やガンなど病気に関

わる新たなタンパク質の発見、そして最終的には創薬につながれば良いな

と考えています。

最後に宣伝になりますが、ボストン大学のバイオインフォマティクスプログ

ラムについて紹介したいと思います。

このプログラムは時代に先駆けて1999年に設立され、全米の中でも長い伝統

と実績を誇るプログラムです。

現在は約90名のPh.D.及びM.S.コースの大学院生が学んでいます。必修の

授業では主に分子生物学、物理化学、そしてバイオインフォマティクスを

学びます。例えば分子生物学の授業は、分子生物学を専門とする学生に混

ざって勉強する事になるので、なかなか厳しいですが刺激的です。教授陣

の中にはヒトゲノム計画をスタートさせたチャールズ・デリシ、そしてバイ

オインフォマティクスを勉強している人は100%知っているであろう、

スミス・ウォーターマン・アルゴリズムを開発したテンプル・スミスなど、

世界レベルの教授が数多く在籍しています。

また、ボストンという地域柄、ハーバードやMITとの共同研究なども多いで

す。卒業後はアカデミックに残る人、ボストン界隈に数多く存在する製薬

会社やバイオテック企業に研究者として就職する人、経営コンサルティング

会社や投資銀行に就職する人など様々です。

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自己紹介

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成相 直樹 (なりあいなおき)

2003 年 東京大学理学部情報科学科卒業

2005 年 東京大学院情報理工学系研究科コンピューター科学専攻修士課程修了

同年 ボストン大学バイオインフォマティクスプログラム入学

2008 年後半 Ph.D. 取得後、民間企業に就職予定

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今日のポイント(エキスパートな質問の答えです)

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1.30億文字のDNAをランダムに細かく切断して、それぞれの断片を読んでい

き、それらの配列のオーバーラップを見て、各断片をつなぎあわせていって、

全ゲノムを解読した。

2. ヒトゲノムの「プログラムコード」はすべて解読されたものの、その

ヒトゲノム・プログラムの言語がどの様な構造をしているか、そしてそもそも

書かれているプログラムが何を意味しているかは、まだ理解されていない。

3. ヒト遺伝子のうち、半分以上の遺伝子については未だに機能が分かって

いないので、成相さんは、このような機能未知の遺伝子やタンパク質の機能

を、さまざまなデータを利用して推測する研究をしている。

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編集後記

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このメールマガジンと同様、今年始めから(正確には昨年からですが)はじ

めたホームページ(http://kagakusha.net/)。いまだにベータ版として、

一年間試用してきましたが、内容を変更したり、セキュリティをさらに強化

させたあと、近日中に本格的にスタートさせる予定です。皆さんからの

「こうしたらいいのではないか」という提案や、「ここが問題なのでは」

というご指摘も、随時お待ちしております。

(杉井)

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