【海外サイエンス・実況中継】2. Multidisciplinary View

Post date: Jan 30, 2012 7:25:14 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ June 2008, Vol. 36, No. 2

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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今週も引き続き、Ph.D. 取得後のキャリアパスについて、今村さんにお送りし

てもらいます。今村さんが前回のエッセイと今回のエッセイを最初の段落に要

約してくれたので、すんなりと話が頭に入ってくると思います。

また、紹介がだいぶ遅れてしまいましたが、今村さんの研究分野と大学院志望

動機のエッセイに関しては、過去ログからご覧下さい(無料のユーザー登録が

必要です)。

■ ○○サプリや●●ダイエットって本当に効くのか - エビデンスの重要性

(栄養疫学)

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=9

■ 人のための学問:学際領域への興味

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=10

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Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには~様々なケースから学ぶこと

『2. Multidisciplinary View』

今村 文昭

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前回は、研究の成功には、研究の深みを臨んで得られる成功を縦軸として、他

の分野の知見を統合して得られる成功を横軸として、多様性があるのではとい

うことを述べました。私は栄養学と疫学の世界に身を投じて、横軸の成功を睨

んでいく必要性を感じています。今回の寄稿では、その横軸の成功について、

(1)ニーズと環境、そして(2)成功に向かう上での留意点について記述し

てみたいと思います。

(1)ニーズと環境

たとえば、次のようなトピックの研究において、功を成すというのは、一人の

偉業となり得るものでしょうか。

「保険制度と癌の罹患率・死亡率との関係」

「食育の導入と子供の注意欠陥・多動性障害・鬱病との関係」

「温暖化と感染病の関係」

こうした研究内容の業績が、ニュースとして公衆で流れたとき、その内容を専

門とする研究者にスポットライトが当たることは、想像することができますが、

その業績を実らせるのは、多くの研究者が関わっているであろうことも想像す

ることができます。つまり、成功を一人の研究者に帰属することができないの

です。そして、こうしたトピックから判るように、幅の広い分野の知見を統合

して成せる業績のニーズが、高まっていると考えられます。

私は幸運にも、こうした学術的なニーズの流れに、敏感に対応している教育環

境にいると考えています。私の身をおく教育環境では、栄養学を軸に疫学や生

化学の専門家はもちろん、農業関連の環境問題、途上国での飢餓対策など、多

方面の専門家が講演を行い、学生が勉強する機会が提供されています。そうし

た環境に身をおく私が(まだ実証できずにいますが)、栄養学関係の幅広い研

究分野で活躍している学者を見ると、このような環境が横軸の成功を収める資

質を養う土壌となっているように思います。

しかし、こうした環境が提供されても、情報を最大限吸収する意識が無くては、

その資質というものを獲得し、成功するには至りません。多くの博士課程の学

生やポスドクの研究者が、縦軸の成功を収める資質を鍛えるべく一つの研究に

従事するにしても、幅広い学際領域に触れ、自身の研究分野と重なる点には、

アンテナを張っておくことが重要でしょう。

(2)横軸の成功に向かう上での留意点

さまざまな研究に触れて、アンテナを意識して気付くことの一つは、さまざま

な学術領域での異音同義語や同音異義語です。

たとえば、統計学では、医療統計学、経済統計学、心理統計学・・さまざまな

形で、科学に貢献しています。その中で、同じ統計方法でも、異なった呼び名

があり、使用方法があり、異なる発展を遂げています。また、心理研究でも、

精神医学、心理学、教育学などの領域で、異なる方法論や研究報告のトレンド

があります。臨床研究において、同じ事柄に着目するにしても、疫学者、生命

科学者、臨床薬剤師、医師などの考え方には相違が生じることでしょう。この

ような相違に、敏感に、柔軟に対応できることが、横軸の成功へと繋がってい

くことでしょう。

これらは、分野ごとに存在する「文法」や「方言」であると、私は考えていま

す。横軸の成功を収めるためには、言語習得において、文法や方言・アクセン

トに慣れて、実際のコミュニケーションに応用するように、幅広い分野の文法

や方言に慣れ、実際のコミュニケーションを経て、考え方や表現の違いなどに

慣れることが必要不可欠です。分野の敷居を越えてキャリアを積んでいる科学

者は、そうした科学ならではのコミュニケーションや「習わし」によく通じて

いるように思います。

コミュニケーション能力というと、人柄に依存するところが多いように聴こえ

てしまうかもしれませんが、私は、必ずしもそうではなく、専門用語の使い方

や、各分野の理論的な考え方の違いといった科学的な相違の理解度が、コミュ

ニケーション能力とも関係があるものと考えています。

以上、成功に対する私個人のここまでの考えをまとめてみると、

1.研究者としての成功には2種類(以上)の成功の「軸」が考えられる

2.幅広い分野の知見が要求される研究が多くあり、社会的なニーズも高い

3.そうした領域で功を成すには、異なる分野の文法や方言、習わしに慣れる

ことが必要である

というようになります。

研究者としての成功を考えなくとも、どんな風に成功したいか、そして他の分

野の人と、共同研究を行うならば、どんな内容なら貢献できるか、ということ

を考えるのは面白いのではと思います。そうした興味や好奇心が、活路に繋が

り、研究者間の関係を繋ぎ、実際に実を結べば良いですね。

今回のエッセイへのご意見は、こちらへどうぞ。

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=92

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自己紹介

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今村文昭

上智大学理工学部化学科卒(学士)

コロンビア大学医学部栄養学科卒(修士)

現在タフツ大学フリードマン栄養学科学政策大学院大学栄養疫学博士課程在籍

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編集後記

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若輩ながら、「成功」について書かせていただきました。成功するということ

を考えるのは、研究者としての姿が醜くなってしまいそうな気がしますね。世

間では、成功したと思われている人ほど、上を目指しているようにも思えます。

「深く考えない」というのも戦略でしょうか?

(今村)

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