3/28【海外サイエンス・実況中継】University of Michigan, Chemical Biology PhD プログラム紹介

Post date: Jan 30, 2012 8:18:42 PM

このたびのの震災において被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。

今週はUniversity of Michiganに所属する宮田さんのChemical Biology Doctoral Programを紹介していただきます。

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PhDプログラム紹介

University of Michigan, Chemical Biology Doctoral Program

宮田能成

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こんにちは。University of Michigan, Chemical Biology Doctoral Program所属の宮田能成です。今回は、私が所属する大学、プログラム、そして大学があるミシガン州アナーバーについて紹介させていただきます。

-University of Michigan

University of Michiganはミシガン州アナーバーにある州立の総合大学です。(州内その他2ヶ所に分校がありますが、ここではメインのアナーバーキャンパスにてついて紹介します)。総学生数は4万人を超え、その内3割強が大学院生です。学部の専攻科目は200以上、博士課程の専攻科目も100を数え、その多くで高い評価を受けています。また、研究課程の大学院以外にも、経営学大学院、法科大学院、公共政策大学院、公衆衛生大学院等が設置されています。

大学の年間研究費は10億ドルを超え、そのうち約6割が医学・生命科学系、工学系の分野で使われています。2009年にはかつてファイザー製薬が所有していた研究施設を丸ごと買い取り、今後新たに大学の研究施設として約2000人の研究者・スタッフを雇用する計画となっています。

大学内では技術移転も積極的に行われており、2001年から2009年までに大学のtechnology transfer officeは93のベンチャー起業をサポートしています。[1] 理工系の学生を対象に、技術移転、起業、特許等、ビジネスのクラスも開講されていて、いわゆるtranslational researchに興味のある人にとっても良い環境が整っています。さらに最近では上記の研究施設内にVenture Acceleratorが開設され、学内の研究成果を基にしたベンチャー企業に対して研究設備・オフィススペース、ビジネスサポートなどが提供されています。

また、公共政策大学院にはScience, Technology and Public Policy Programがあり、理工系を含む様々な分野の大学院生達に対して、科学政策についての教育が行われています。

学問・研究以外にはスポーツも盛んで、特にアメリカンフットボールは人気があります。ミシガン大学のフットボールチームは、通算勝利数、勝率ともNCAA(全米大学体育協会)第1位であり、シーズン中ホームゲームの日には街中がファンで溢れ返ります。大学のフットボールスタジアムはスタジアムとしては全米最大(世界第3位)で、収容人数は11万人近くにもなります。

-Chemical Biology Doctoral Program

当プログラムは2004年に新設された、米国でも数少ない独立したケミカルバイオロジープログラムです。近年ケミカルバイオロジーという領域が認知されるようになり、多くの大学でそれに対応したプログラムが設立されてきましたが、学科・プログラム内の副専攻のようなものであったり、Chemistry-Biology Interface Programと呼ばれるような学科とは別のプログラム(例えば化学科に入学した後にそのプログラムに改めて応募する)であったりする場合が多いようです。当プログラムでは、入学当初から化学・生物両方の分野を幅広く学び、卒業時にはPhD in Chemical Biologyが正式な学位として授与されます。

現在は7つの学科から44人の教授陣がFaculty mentorとして所属しており、専門領域も生物有機化学、医薬品化学から、酵素学、構造生物学まで多岐に渡ります。

1学年の人数は10人前後なので比較的小さなプログラムです。そのうち約2〜3割が留学生ですが、米国の大学を卒業した学生も多く、そうでない場合は修士課程を終えてからこちらに来ている場合がほとんどのようです。また、他の大学と同様、留学生の大半がアジアの出身です。

さて、カリキュラムについてですが、1年目は最低2回のローテーションが義務付けられています。基本的にローテーションは学期を通じて行いますが、ハーフローテーションとして1学期に2つの研究室でローテーションを行うことも可能です。ほとんどの学生は秋学期(9〜12月)、冬学期(1〜4月)と2回のローテーションを行い、所属する研究室を決めますが、決められない場合には春・夏学期(5〜8月)に3回目のローテーションを行う人もいます。また、正式にカリキュラムが始まる9月より前の夏学期に最初のローテーションを行うことも可能です。

ローテーションに加え、1年目は秋学期・冬学期ともに、ケミカルバイオロジー必修科目2つと選択科目1つを履修します。必修科目のうち1つは通常の講義、もう一つは最新の論文に関するディスカッションで、どちらもケミカルバイオロジーの研究に必要な分野の知識を幅広くカバーします。選択科目については特に細かい規定はなく、各学生の希望する研究分野に基づいて、化学、生化学、生物学等の科目から選ぶことができます。

3度めのローテーションを行わない場合は1年目の冬学期終了時に所属する研究室を決め、夏の間は研究に従事します。

2年目は各学期とも選択科目を1つ履修するのみで、ほとんどの時間は研究活動に充てられます。また冬学期の1月には単位の一環として自分の研究についてのセミナーを行わなければならず、これをパスすることが後述するcandidacy examを受けることの前提条件となります。

博士課程全体の条件として、取得単位の平均評価がB未満だと退学ということになっているようですが、これまでこの条件を満たせなかった学生は見たことがありません。

また、既に関連分野で修士号を取得している場合、それまでに履修した科目によっては2年目の選択科目が免除になることもあります。

2年目の冬学期が終わるまでにはcandidacy examを受けなければなりません。前述のセミナーが1月にあるため、多くの学生が3〜4月中に受けます。この試験では、NIHが規定する研究費申請書のフォーマットに基づいて自分の研究に関するプロポーザルを書き、博士論文審査委員(3〜5人の教授)の前で発表・質疑応答を行います。比較的短い発表(スライド15枚以内)について1〜2時間程度の質疑応答が行われるため、学生たちは約1〜2ヶ月間必死に勉強します。ほとんどの学生は1回目で合格しますが、不合格の場合でももう1度チャンスがあり、これまで落第した学生はいません。

3年目以降は自分の研究に従事し、アドバイザーが研究成果を認めれば、博士論文を書いてthesis defenseを行い、卒業となります。また、希望する場合、各学期ごとに1つまで授業を履修することができます。前述しました通り、ビジネスや公共政策のクラスも受講が可能ですので、研究職以外のキャリアも考えている学生にとっては、良い機会だと思います。

当プログラムは米国の大学としては珍しく、基本的には5年以内に卒業することが定められています。設立してから今年でまだ6年目なので、過去のデータはあまりありませんが、最初の年に入学した学生は全員5年以内に卒業、中には3年半で卒業した学生もいます。

学費に関してですが、5年間の学資援助が保証されており、これによって学費、健康保険がカバーされ、それに加えてstipendという形で給料を受け取ることができます。他のプログラムではこのような学資援助を受けるために少なくとも1学期はTAとして教えることが義務付けられていることも多いと思いますが、当プログラムの場合、1年目は奨学金という形で、2年以降は所属する研究室のアドバイザーからresearch assistantshipとう形で学資援助を得られるため、コースワークや研究に専念することができます。

もちろん将来アカデミアに残りたい等の理由でTAとしての経験を積みたい場合には、それも可能です。また、アドバイザーの方針、グラントの状況によってはTAとして教えることを勧められる場合もあるかもしれません。

前述しました通り、当プログラムに所属する教授陣の研究内容は多岐に渡り、学生達も有機合成、X線結晶構造解析、プロテオミクス等、幅広い分野の研究に従事しています。いわゆるケミカルバイオロジー(ケミカルゲノミクス)以外の研究も多く行われていますので、ライフサイエンス・バイオメディカルサイエンスの分野で米国大学院進学を考えていらっしゃる方は一度当プログラムのウェブサイト(http://www.chembio.umich.edu/ )をご覧になってみて下さい。

-Ann Arbor

ミシガン州アナーバーは人口約11万3千人のカレッジタウンでデトロイト空港から車で30分程度の場所に位置します。ミシガン大学の学生が4万人、大学の雇用者が3万人程度なので、街の3/4が大学関係者ということになります。そのため、街全体の教育水準は高く、また治安もアメリカの街としてはかなり良いほうです。その分、物価は周辺の地域より高めになりますが、大学院生の給料で十分に暮らしていけるレベルです。

また、海外から多くの研究者が来るため、非常にインターナショナルで、留学生にとっても住みやすい街だと思います。ダウンタウンには多くのレストランが存在し、様々な国の料理を楽しむことができます。市内には数件のアジア系食料品店も存在し、食材の入手に関しても困ることはほとんどありません。デトロイト郊外には多くの日本人が駐在しているため、日系の食料品店、本屋などもあり、車で30分ほどのアクセスです。

毎年夏にはアートフェアが開催され、50万人もの人が訪れます。また、大学のコンサートホールであるHill Auditoriumでは多くのコンサートが開催され、世界の著名な交響楽団、ミュージシャン達が公演を行っています。

比較的小さな街ではありますが、学問・スポーツ・芸術の全ての面において活気があり、充実した学生生活を送れる場所だと思います。

最後にアクセスですが、デトロイト空港からは車で30分程度、タクシーやエアポートシャトル等が利用できます。デトロイトまでは成田空港から直行便が出ていますが、成田空港以外からの場合は直行便がありませんので乗り継ぎが必要になります。

[1] http://www.techtransfer.umich.edu/about/facts_figures.php

宮田 能成

東京大学農学部卒業(2003年)

東京大学農学生命科学研究科修士課程修了(2007年)

University of South Florida, Department of Chemistry, Research scholar (2004-2006年)

University of Michigan, Chemical Biology Doctoral Program(2007年-現在)

専門分野:分子シャペロンのケミカルバイオロジー、メディシナルケミストリー

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自己紹介

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杉村 竜一

大阪大学医学部医学科卒(2008)。以降、米国カンザスシティのストワーズ医学研究所にてPhDプログラムに所属。造血幹細胞の研究に従事する。

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編集後記

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このたびの震災において被災された方々に心からお見舞い申し上げます。現地では多くの住民がまだ避難生活を余儀なくされ、被害を受けた原発に対する不安も募っています。米国にいる日本人学生や研究者にとっても大きな問題であり、微力ながら何か支援させていただくことができるか模索する日々です。

(杉村)