【海外サイエンス・実況中継】あなたの心や病気をコントロールする!? ~ホルモン研究のあゆみ

Post date: Jan 09, 2012 5:9:44 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ March 2007 Vol 4 No 1

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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研究の最前線をお伝えする第4回目。今週は、少し時間のベクトルの向きを

変えて、ミユキさんが「ホルモンの研究」について、これまでたどってきた

歩みを楽しく伝えてくれます。ミユキさんは、知る人ぞ知る「理系の大学院

留学・メールマガジン」元祖カリスマ発行者です。リンクはこちら →

http://www.geocities.co.jp/CollegeLife/2291/

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今日のエキスパートな質問(答えは下にあります)

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1.血液中にある「興奮状態」を引き起こす物質は何?誰によって最初に分離

された?

2.「ホルモン」とはどういう意味?

3.「病気みたいな感じ」を引き起こす、機械的、心理的、病理的な原因を

総称してなんと言う?

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あなたの心や病気をコントロールする!? ~ホルモン研究のあゆみ

ミユキ

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私の分野の研究を紹介したいと思います。といっても、専門の専門の話をし

ても世界中で50人ぐらいしか面白そうと思ってくれないでしょうから、

ちょっとしたバックグラウンドを紹介したいと思います。

むかしむかし、いっても150年ぐらい前でしょうか。実験とは、物理や

化学のものだと思われていました。なぜか。それは、生物というのはミステ

リーで、内なる力がすべてを支配していると考えられていたからです。

ジャングルに住む人とイグルーに住む人の体温を比べたらほとんど同じ。

内なる力が一定に保っているからです。

それに内臓一つが病気になったら瞬く間に全身が悪くなって死に至ります。

実験というのは、部分だけいじってみてどう反応するかな?と見る物だから、

一ついじっただけで全部が影響を受けてしまうような高等な生物相手に、

実験なんてできっこない。そう思われていました。

ところが、劇作家を目指してパリに出たクロード・ベルナールという田舎

青年が、自分の才能を見限ってかふらりと医学校に入り、実験という観念を

医学生物学分野に持ち込みました。体が一定の状況を保ってるのは、体の中

の「内的環境」が体を取り巻く「外的環境」から臓器を切り離しているから。

そのことさえ頭に入れておけば、生物にだって絶対真理というか法則という

かそんなものがあるんだし、そういうのは実験で確かめなければならない、

と。そして実際に、実験でさまざまな生命現象を解き明かして見せました。

これはもう衝撃で、彼の出現を期にあらゆる実験が始められました。今でも

彼の書いた「実験医学のススメ」みたいな本が売られています。時期にして

大体19世紀の終わりごろから20世紀の初めにかけて。あんまり古い話じゃ

ないんですよね。なかなかいい事書いてますよ。

「仮説を立てよ」「仮説に従って実験を計画せよ」「思ってもみない結果が

出たら、自分の仮説をごり押しせずに新たな仮説を考えよ」「例えボスが

『私はね、この分野で長いんだ。そんなことあるわけないだろ。君のこと

だから試薬でも入れ忘れたんじゃないの。ちゃんとした結果出るまで何百回

でもやり直しなさいよ』なんて言っても耳を貸すな。自分のデータを信じよ」

てな感じです(私にはこの本を突きつけてやりたい!と思う人が何人か思い

浮びますね~)。

で、彼の言う「内的環境」が血液やリンパをさすのが明らかだったんで、

血液の勉強は結構盛んに行われていました。その頃の実験と言ったら涙もの

です。その頃はパブロフとその子分の神経学者たちが幅を利かせていた時代

で、すべてのものは神経のみによって支配されている!と言われていました。

そんな時代だから、とある人が犬の首を血管だけ残して全部切断、体の電気

刺激で目がびっくり見開く状態を観察し、「神経だけじゃないじゃん。血液

になんかあるよ。ビックリを引き起こす、何かがあるよ」と発表した時、

その「血液中の何か」を探してそれはそれはすごい競争が起こりました。

勝ったのはなんと日本人の高峰譲吉。20世紀の初頭です。血圧上昇物質と

してアドレナリンを牛の副腎(アドレナル。腎臓の上にくっついてる小さな

器官)から分離同定して名付けて特許を申請しました。一年ほど遅れて

ドイツのグループも発表。ところがアメリカ人の誰かさんが数年たって

「高峰はスパイまがいなことをした!」

「彼らの発見したのは不純物混ざりまくり!」

「アドレナリンなんて認めない!腎臓(ネフロン)の上(エピ)から出るっ

て事でエピネフリンと名付ける!」

なんて、まあ大喧嘩になりました。今でもアメリカではエピネフリンと呼ば

れていますね。日本では 最近になって、高峰譲吉の名誉回復のために、

アドレナリンの名称を復活させたようです。

かわいそうな高峰譲吉。だけど夜なべして実際にアドレナリンを抽出したの

は彼の部下で、論文発表と名誉は高峰が独占。彼もまあ、天使ではなかった

ようで。ちなみに彼は青い目ブロンドのアメリカンガールと結婚して、姑に

よる嫁いびりから逃れるためにアメリカで生涯を過ごすことに決めたという、

思わずうっとりしてしまうような男らしさも持ち合わせています。

そのちょっと後、やっぱり20世紀の頭、ハーバードのアイビーアメリカ人、

ウォルター・キャノンが「感情が生体に及ぼす影響」について発表しました。

彼はもともとレントゲン研究をしていてバリウムみたいなのを飲めば胃だっ

て写真が取れる!と発見して医学に多大な貢献をした人です。

その彼が、猫を使って胃の写真を取ってばかりいた頃、「オスはギャーギャー

騒ぐけど胃は全然動かない。でもメスはごろごろ気持ち良さそうにじっと

していて、胃は逆にグルグル動くからなかなか写真が撮れない。これ、何で

だろう?」と疑問に思いました。そこでキモグラフィーという、当時の

トップテクノロジーを駆使した実験装置を開発。それは、電池で回る缶に

ツルツルの紙を張り、ろうそくのすすで紙を真っ黒にして、針をやっと触れ

るぐらいにセットし、針の逆側はリンゲルに浸かった筋肉にくっつけ、

筋収縮したら針が微妙に動いてすすを削り取るという、涙ものの装置。

これを用いて「恐れや怒りといった感情はアドレナリンを放出して、瞳孔

開いて心臓ドキドキ冷や汗ダラダラでも胃腸は静止の状態にする!」と証明

しました。ちなみに彼が生体の「恒常性(ホメオスタシス)」という言葉を

作りました。

ちなみにその頃心理学もサイエンスになりつつあり、ハーバードは実験心理

学の名士たちが揃って「感情とは」「本能とは」と議論していたようで、

彼の本にもその影響が多分にうかがわれます。

ちょうど同じ頃、別の分野でパブロフに抵抗した人がいました。ロンドンの

ベイリスとスターリン。彼らは生きた犬の腸の一部だけ切り取って、血管

以外の付属物は神経もろとも全部はがして、胃酸の代わりに希塩酸をそこに

たらし、膵液が分泌されることで「ほら!やっぱり血液中になんか出る!」

と言いました。

その時の論文と「後日談」によると、膵液の分泌を見た彼らのどっちかが

「そうだ!ちょっと待って!」と言って、腸粘膜をスプーンでこすり取り、

塩酸の中でつぶし、ろ紙でこして血管に注射。なんと!膵液分泌!粘膜中に

何かある!世紀の大発見だ!!と興奮の渦に包まれたようです。そして彼ら

が、血液中に放出されて体のどこかでなんかする、と言う物質を総称する

名前として「ホルモン」という言葉を作りました。「ホルモン」ってギリシャ

語で「私、興奮させちゃうわよ」て感じの意味です。遠隔操作でね。

腸の粘膜にあるって、どういうことよ、と、いろんな人がいろんな抽出法を

試み、膵液分泌を起こすセクレチンというホルモンが同定されました。同時

にインスリンじゃないくせに血糖値を下げるホルモンも入ってると判明。

最終的に、現在糖尿病治療の臨床試験段階の物質が発見されました。

ここら辺の歩みはのろいです。100年近くかかりました。糖尿病はずっと

人間とともにあったから、みんな必死で探したんだけど、神経切ったりろ紙

でこしたり犬の血液を交換したりのアナログな実験ではどうしても太刀打ち

できなくて、DNAの配列解読ができるようになるまで待たなければならな

かったんですね。それは日本がバブルに沸いていた80年代。ワンレンボディ

コンでパンツ見せながら踊りまくる女性や、ドラクエのために徹夜で並んだ

ストーンウォッシュジーンズの男性たちの影で、糖尿病治療薬候補の発見。

技術発展万歳。

話はまた変わり、糖尿とは全然関係ないところで、オーストリア・ハンガ

リー帝国からカナダに渡った若いお医者さん、ハンス・セリエが、新しい

性ホルモンを発見しようとがんばってました。いろんな臓器を取り出して

すりつぶしてこして、血管に注入してみる。すると、なんと、副腎を含めた

いくつかの臓器が特異的に変化しているではないですか!彼は興奮したもの

の、とりあえず他の臓器をつぶして「ここにはその新しいホルモンは入って

いない」ということを証明しようとしたら、どの臓器をつぶしても同じ結果

が出る。脳でも腎臓でも肺でも卵巣でも肝臓でも、全部おんなじ結果が出る。

ふと目に止まったホルマリンを入れてみたら・・・同じ結果。

つまり体に悪い「何か汚いもの」を血管に入れたら同じことが起こったって

わけねと気づいた、一瞬ノーベル賞を夢見てしまった異国の地に来たばかり

の若者は、頭を抱え込んですっかり落ち込んでしまいました。しばらく落ち

込んだものの、転んでもただでは起きないセリエ。「そうだ!人間はたとえ

風邪をひいてもがんが出来ても腎臓病でもテストを明日に控えていても、

何だか熱っぽくてだるくてしんどくて、と『原因は知らないけど何か病気っ

ぽい』という同じ症状を出すではないか!きっとそれだ!」と思い立って、

一生をその研究にささげます。恩師に「「汚れ」の薬理学で一生を棒に振る

のか?」と言われながらも。

そして「テストや遠足が明日に控えていても、昨日クビになっても失恋して

も、猛暑や極寒に見舞われても、風邪を引いても腫瘍ができても、どれも

同じような『病気みたいな感じ』を起こす、それが続いたら実際に病気に

なる」と独特の説を発表し、世界に衝撃を与えました。なんせストレスの

多い社会ですから。ストレスと病気の研究の始まりです。20世紀の前半の

話です。ちなみに彼が小学生ぐらいの時、祖国が第一次世界大戦の口火を

切りました。その後敗戦でハプスブルク家の統治が終わり、ウィーンで生ま

れた彼は分離独立して外国となったチェコの医大に行っています。カナダに

渡り、上記の論文発表の二年後に祖国はナチスドイツの手に落ちました。

そういう状況下「ストレスだって本当の病気を引き起こす」という研究に

一生をささげたセリエ・・・。彼のバックグラウンドに思いを馳せると胸が

痛みます。

さて、ここに長々と書いた文章すべてが私の研究に関係しています。あ、

なるほど、じゃあこんな実験ね、とずばり当てられる人は世界中に多分5人

ぐらいいます。なのでその5人に入らなくてもがっかりしなくていいですよ。

私の博士号は日本では医学博士か理学博士になると思いますが、アメリカで

はPh.D.、これはドクター・オブ・フィロゾフィー、哲学博士です。

物質とは何か、生物とは何か、世界とは何か。そんな質問から発展してきた

科学。最近になってやっと「何で哲学?」と思わなくなりました。まだまだ

世の中にはわからないことがあります。それは神秘や精神世界や哲学問題と

して初めは取り扱われ、とあるきっかけでバイオロジーの枠で解明されて

いくのかもしれません。

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自己紹介

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HNミユキ

獣医師にして、あと数ヶ月で駆け出しの脳神経科学「哲学博士」。神秘的な

生命現象と蛋白などのマテリアルの間に挟まってる大きなブラックボックス

の解明を目指しています。就職活動として、これから一生研究していくかも

しれない「神秘的な生命現象」のショッピング中。「老化」とか「痴呆」

とか「狂気」とか「鬱」とか「記憶」とかがショッピングリストに入って

います。

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今日のポイント(エキスパートな質問の答えです)

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1.アドレナリン(アメリカではエピネフリンと呼ばれる)。 高峰譲吉の

助手によって20世紀初頭に分離され、高峰譲吉の名前で発表、特許の申請

がされた。

2.ギリシャ語で「私、興奮させちゃうわよ」。 血液中に放出され体の

どこかで何かの役割をする、という物質を総称する名前として広く使われる。

3.ストレス

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編集後記

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就職活動中に原稿を書きましたが、今は獣医師兼駆け出しの脳神経科学

「哲学博士」としてヨーロッパで仕事をしています。テーマは緑内障。一見

節操がないようですが、老化のライン上です。基本的に私の得意技は

「顕微鏡」と「組織学」でして、これを武器に神経にかかわることをやる

(目も神経器官ですから)マルチプレイヤーというのが私のサバイバル術

です。というか、まあ、本文見てもらったらわかりますが、ひとつ勉強し

だすと広く余計なことまで調べてしまう性格なもので、テーマのジャンプは

結構平気、いや、楽しいです。

(ミユキ)

トップにも書いたように、ミユキさんのメールマガジン「アメリカで

サイエンス」

http://www.mag2.com/m/0000022914.html

は、まだメールマガジンという媒体が新しかった、1999年に創刊されま

した。大学院留学やサイエンス系メルマガの元祖的存在です。このメルマガ

で勇気づけられた人たちも、たくさんいたことでしょう。

(杉井)

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カガクシャ・ネットワーク http://kagakusha.net/

発行者: 杉井重紀

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