10/14 【海外サイエンス・実況中継】沖縄科学技術大学院大学(OIST)プログラム紹介

Post date: Oct 27, 2012 6:12:20 AM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ Oct. 2012, Vol. 52, No. 2

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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・カガクシャネットメンバーが共同通信社から取材を受け、記事が

Japan Times にて紹介されました。

http://www.japantimes.co.jp/text/nn20121018f2.html

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メルマガ担当、ブラウン大学石井です。今回は、

沖縄科学技術大学院大学(OIST)に在籍されている濱田さんに

プログラム紹介をしていただきます。

財政援助が得られる、入学に際してTOEFL, GREを要求されるなど

アメリカのプログラムと同じプロセスがあるようです。海外だけでなく、

こちらのプログラムも留学を考える際の選択肢として上がってくるのでは

ないでしょうか。それではお楽しみください。

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沖縄科学技術大学院大学(OIST)の濱田太陽(ハマダ ヒロアキ)と

申します。僕のいる大学院は去年創立され、今年の九月から計18カ国・

地域から新入生34人を受け入れ大学院としてスタートしました。

開学したばかりの大学院なので、Ph.Dプログラムのすべてをお伝えする

ことはできませんが、大学院設立の経緯、Ph.Dプログラム、僕自身が

入学に至るまで体験したことをお伝えしたいと思います。

OISTの簡単な紹介

OISTは沖縄本島の中部、恩納村に位置しています。琉球王朝の

建物の色を意識して作られたキャンパスに入るには、長い長いトンネルを

抜け、そこからエレベーターで向かうことになります。エレベーターから

臨む東シナ海はマリンブルーのとても澄んだ色をしており、見る者の心を

いやしてくれます。

元来沖縄は、日本のみならず中国、東南アジアの各国を繋ぐ

中継貿易によって独自の文化を形成してきました。OISTはこのような

沖縄の文化的、地理的な特徴を活かしてアジアのみならず世界を繋ぐ

21世紀の新たな学際的な学問の中心拠点として発展していくことが

期待され設立されたのです。特に、基礎研究に力をいれ日本の次世代の

技術を担う研究の発展、研究者の育成を理念としています。

OIST設立以前、2005年にはOIST基盤整備のために独立行政法人

沖縄科学技術基盤整備機構が創設されました。この機関には、理事であり

著名な分子生物学研究者であるシドニーブレナー博士の下、神経科学や

分子生物学といった分野を中心に研究されていました。さらに、教育の

充実を目的として世界中から著名な研究者を招き交流が行われる

Okinawa Computational Neuroscience Course(OCNC:沖縄計算神経科学コース)

といったサマーコースが開始され、教育体制に不備がないように徹底されて

います。

OISTの設立には利根川進博士をはじめとしたノーベル賞受賞者複数名を

含む世界各国で活躍している研究者17名が委員としてかかわり、科学者の

目から見た最高の環境づくりを目指しているのです。現在、OISTで展開されて

いる主な研究分野は、神経科学、分子・細胞生物学、環境・生態学、物理科学、

数学・計算科学といった学問分野です。学生は、この複数の分野の架け橋に

なることが期待されているのです。

最近では、神経科学、分子生物学に限らず多くの分野でのサマースクール、

ワークショップが開催され小さな学会も頻繁に行われるようになってきました。

研究所の規模と設備

OISTは教員50名程度、学生は一学年20名程度、ポスドク、技術員、

職員などを含めると500名ほどの小規模な大学院となっています。しかしながら、

導入されている機器は最先端のものばかりでありこの規模の大学院ではありえない

ほどになっています。僕の専門分野に関連する範囲でいえば、高速に大量のDNA配列を

読むことができる次世代型シークエンサーを6台、また神経科学分野で神経細胞の

活動を詳細に記録することができる二光子顕微鏡も4台ほど導入されており、

学生であっても自由に使うことができる環境になっています。

Ph.Dプログラムの紹介

OISTは、九月入学の五年一貫制の博士課程のみをもち、様々な国から学生を

集め教育、研究ともに英語で行っています。先ほども述べたように、サマースクールや

ワークショップでの経験を活かし、教育と研究の整備には余念がありません。また、

このようなイベントを通じて、世界各国の研究者と交流することができ、将来の

キャリア形成に繋がります。さらに、後に詳しく述べるように英語で高等教育を受けて

こなかった学生に対しては研修制度が設けられており、英語が苦手なものであっても

学生生活を円滑におくれるように配慮がなされています。

学生において一番の心配は、お金の問題だと思います。OISTでは、入学した

学生はリサーチアシスタントとして研究に従事することで財政支援を受けることが

できすべてに対して入学費、学費、生活費すべてにおいて給付金があり、日本の

大学のようにアルバイトをしながら大学に通わなければならないという制約がなく

なっています。さらに金銭面のサポートの他、住居の提供、育児施設、PCの無料貸与

の提供などといったサポートも充実しています。

少し詳しく博士課程の流れをみてみましょう。学生は、二年の間に18単位

を専門分野から取得することが義務づけられ、また初年度は授業と平行して三つの

研究室を回ること(ラボローテーション)が期待されています。さらに特徴的なのは、

この三つの内、一つの研究室は自分の研究分野とは異なる分野であることが必須と

されている点です。もちろん、まったく異なる分野というわけではなく、将来的に

自分の分野に関連するような分野を選択することができるのです。このラボローテーション

ののちアドバイザーとともに博士論文の計画を練り上げ、3-5年にかけて博士論文を

完成していくカリキュラムになっています。

しかしながら、修士取得した学生にとっては5年一貫制はあまりにも

長過ぎるかもしれません。その場合は3-4年で卒業できるように個人に合わせて

カリキュラムの変更を行うことができます。例えば、ラボローテーションを二つ

にし、授業を一部免除して、さっそく博士論文の準備を行っている学生も存在

します。心配な方は興味のある教授とコンタクトをとってみるといいと思います。

入学に関して

ここではOISTの入試について説明したいと思います。OISTの入試には

二段階に分けられています。それは書類審査とインタビューです。

書類審査の段階では、学生は英語で個人情報、志望動機書、成績証明書、

GREもしくはTOEFL等のスコアの提出をWebを通じて行うことになっています。

この際自分の希望する研究分野と教授について答えることになっています。

もちろんそれなりに成績証明書、英語のスコアが重要視されますが、一番重要なのは

志望動機書です。どこの大学院でも同じですが、学生は自分の研究したい

分野の興味について明確に述べる必要があるようです。

書類審査を通過すると、メールを通じてインタビューの呼びかけが

行われます。学生は沖縄までくることが求められますが、その際にかかる

費用はすべてOISTが負担してくれます。沖縄にきた学生は3日間の間に、

自分の希望する分野の教授陣と一対一の面接を5もしくは6回と、三時間以内で

与えられた記事に対して自分なりの意見を述べるエッセイを書くことが求められ

ます。もちろんすべて英語です。

面接の内容は教授によって様々なようです。僕の面接では、これまでの

研究の説明、やりたい研究の内容、OISTを選ぶ理由といった研究に関する話から、

好きなゲームと研究のつながりなどいったカジュアルな会話、”自分の研究が

どうしようもうまくいかなくなったときどうするか?”といった人生観のような

ことも尋ねられました。

エッセイでは様々なバックグラウンドをもつ学生に考慮して10本ほどの

記事の束を渡され、その中から一つだけ興味のある分野の記事を選び、自分の

意見を5パラグラフで書くことが求められました。

ハードなエッセイと面接のあとには食事会が催されます。他の入学希望者と

僕も少しだけ話をしましたが、様々な経歴をもつ人たちの話を感慨深く聞いた

記憶があります。東南アジアで生物学の教師をしている人、20歳で大学を

卒業した人、就職をしたのち研究者として働いている人。様々な人生があるのだと

実感した日でした。

Gap programの紹介とその経験

OISTに合格すると、合格時期に応じて研修期間が設けられます。

例えば、3月に合格が決まった人は5月以降からOISTの研究室に呼ばれ、

入学までリサーチアシスタントとして研究を行うことができます。また、

前述のように、何人かの学生は英語トレーニングのために海外研修に行くことも

できます。実はぼくはその海外にいった一人でした。

僕の場合は、生物学で有名なアメリカのカルフォルニア大学サンディエゴ校が

設けている語学学校に研修として二ヶ月間ほど送ってもらいました。

さらにこの期間、語学学校だけでなくサンディエゴ校の近くにあるソーク研究所という

生物学の研究機関の中では有名な研究所でサマーインターンの形で研究室に

所属することができました。海外研修先は、個人の希望する研究分野の中から

OISTが連携している研究所の中から選定され、ソーク研究所はその一つだった

いうわけです。他の学生は、サンディエゴ校の中の研究室に配属されていました。

この期間に様々な場所で研究室の仲間と地元の人たちと話をしましたが、

そこで培われる英語感覚というものは研究にも活かされるものだと実感しています。

サンディエゴでは、彼らの人生観、科学観、兄弟姉妹のことなどなど様々な会話を

しました。OISTの同級生たちとラーメン屋で突如議論することができるのも、

サンディエゴで経験した生活の中にある言語感覚によって磨かれたといっても

過言ではないかもしれません。

入学後と学生生活

OISTに入学すると同時に、学生のサポートをしてくれる教授と一緒に

授業を決め、ラボローテーションの研究室を決めます。その後は、授業をしながら

多忙な毎日の生活を過ごすことになります。

OISTでの生活はまだ完全に整備されたものではありません。スーパーなどは

キャンパスから遠いので、車を持たない学生にはまだまだ不便なことが多いです。

しかしながら、毎日キャンパスからでるシャトルバスで買い物にいくこともできるように

なっていますし、キャンパス内のコンビ二で生活必需品を買うこともできます。

また卓球台、ダーツなどの遊び場もでき始めています。

さらに、毎週木曜日には午後4時からティータイムの時間がありキャンパスに

いる多くの研究室やアドミニストレーションオフィスから人がカフェテリアに

集まり話をします。このような機会を利用してキャンパス内の学生と研究者、

アドミニストレーションスタッフたちは交流しているのです。ざっくばらんに

異分野の研究者たちが研究について語る姿は、OISTの理念を自然に受け継いでいると

言えると思います。またフットサルクラブ、テニスクラブ、バレーボールクラブ、

サルサダンスなどなど研究者たちで作るクラブ活動も盛んで、金色の夕陽が沈んで

いくのを感じながらスポーツで汗を流すのが僕の一つの楽しみとなっています。

ここまでが僕が知っていることのすべてです。 この文章を読んでくれた方と

このOISTのキャンパスでまた会えたらそのときは続きの話をしたいと思います。

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発行責任者: 杉村 竜一

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