【海外サイエンス・実況中継】1. Multidimentional View

Post date: Jan 30, 2012 7:24:51 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ June 2008, Vol. 36, No. 1

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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「Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには~様々なケースから学ぶこと」第

5回を、引き続きタフツ大学の今村さんにお送りしてもらいます。今村さんは、

物事を深く掘り下げる研究を縦軸、多分野にまたがる研究を横軸と表現し、栄

養疫学においては横軸の視点を重要視しています。物事が複雑化し、細分化さ

れてきた現代だからこそ、どの分野でも必要な視点と言えるでしょう。

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Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには~様々なケースから学ぶこと

『1. Multidimentional View』

今村 文昭

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私は現在、栄養疫学と呼ばれる分野で、Ph.D. 取得に手が届きそうで届かない

状況で、研究に従事しています。ですので、まだ成功の二文字とは程遠いので

すが、研究に没頭している身として、私の研究分野の視点から、このテーマに

ついて書いてみたいと思います。一分野からの視点とはいえ、内容としては一

般的にも通用しうるものと考えています。

私は、栄養疫学に通じて、科学における幕の降りない業績を研究者の成功と考

えると、成功には次の2種類の筋道があると捉えています。

・一つの分野を深く追求していくことで得られる業績による成功(縦軸の成功)

・多くの分野をまたぐことによって得られる業績による成功(横軸の成功)

私のまわりには、この縦軸の成功を得ている研究者もいれば、横軸の成功を得

ている研究者も、そして両軸の成功を得ている研究者もいます。

疫学には、多くの統計学者が貢献しているのですが、たとえば、

○ある統計学者は、統計学教育があまり充実していない栄養学の分野において、

多くの研究者と共同研究をすることで、統計解析に貢献、数多くの業績を収め

ています。

○別の統計学者は、ある統計手法を研究のトピックとし、(私にとって)難解

な理論を幾重にも重ねて、その統計手法の発展と応用に貢献しています。

○また別の統計学者は、生命科学者と共同研究を行うとともに、ある疾患の遺

伝統計解析を行い、遺伝学特有の統計解析手法の方法論の発展にも貢献してい

ます。

未知のものごとを追求し、成功を収めるのは、縦軸の成功と私は考えています。

日本では、科学に限らず、多くのことで職人や専門家を鍛える文化を有してい

るので、研究における縦軸の成功は、日本人にとってふさわしい成功の形かと

思っています。研究の「究」は「きわめる」という訓読みが与えられているよ

うに。

その考えとは別に、私は自分が肩まで浸かっている栄養疫学においては、横軸

の成功が求められていると感じています。この寄稿では、横軸の成功について

触れたいと思います。

栄養疫学の研究とは、ある集団の食生活の傾向と、疾病を患う確率(罹患率)

との関係の有無、その関係がどれ程かを明らかにするものです。この分野では、

疫学の範疇として、多くの研究者がともに意見を交わし、多くの共同研究を進

めていることがとてもよくわかります。疫学の領域での成功には、こうした現

場での活躍が不可欠になります。

たとえば、個人個人の遺伝子情報と罹患率の関係を見る疫学研究は、創薬や予

防戦略のデザイン、疾病のメカニズムの解明などに重要な役割を果たすという

ことで、注目を浴びています。そういった研究に、多大な資金を投じて遺伝子

情報を収集・蓄積しても、解析する技術を有する人材がいなくては、研究が滞っ

てしまいます。また、遺伝子情報をある特定の集団から集めたはよいものの、

適格な比較対照を設定しなくては、科学的な妥当性が損なわれてしまいます。

万単位・億単位の遺伝情報から、たまたま疾患と相関の強い遺伝子郡が見つかっ

たとしても、偶然ではないことを説明する知見や追試も必要です。

技術や科学の発展に伴って、このように、遺伝子情報と病気の罹患率という生

命科学研究の範疇でも、専門家一人では対応し難い事柄が多くあり、たった一

人の業績・成功というのは考え難いこととなります。

疫学のみならず、ある領域の研究者は、横に広い研究のニーズに応えられる資

質を獲得しておくことが要求されていると言えるでしょう。こうした研究にお

ける業績とは、一人の成功に帰属できることではありません。1999年のノー

ベル平和賞が、「国境なき医師団」という団体に贈られたことは、横軸に広が

る貢献が実を結んだ成功の形ではないでしょうか。

研究者の成功といっても、定義し難く思うのですが、それは成功が一様ではな

いからかと思います。その多様性を、縦軸と横軸の平面におさめて考えてみた

わけですが、いかがでしょうか。研究者として「パブリックでの成功」などの

軸を設定して、成功をより高次のものとして捉えることもできるかもしれませ

ん。

その高次の空間を、どういった方向性を臨んで歩むか・・個々に委ねられると

ころかと思います。ぼんやり考えてみても良いかもしれませんね。

次回は、横軸の成功について、掘り下げてみたいと思います。

今回のエッセイへのご意見は、こちらへどうぞ。

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=91

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自己紹介

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今村文昭

上智大学理工学部化学科卒(学士)

コロンビア大学医学部栄養学科卒(修士)

現在タフツ大学フリードマン栄養学科学政策大学院大学栄養疫学博士課程在籍

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編集後記

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シカゴにて疫学の学会に参加している最中です。誰もが何らかの成功に向かっ

ているというような学会の雰囲気は、本当に良いモチベーションになりますね。

そういった刺激を、誰もが交換し合っているとすると、単独の成功というのは

あり得ないのかもしれません。

(今村)

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