【海外サイエンス・実況中継】大学院留学を成功させるための指導教官選び(後)
Post date: Jan 30, 2012 7:30:19 PM
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ October 2008, Vol. 38, No. 2, Part 2
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
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前回に引き続き、大学院留学を成功させるための指導教官選びに関して、山本
がご紹介させて頂きます。テーマとしては、「留学本では教えてくれない海外
大学院のホント~実際の体験から」のつもりで書き始めたのですが、もう一方
の、「Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには~様々なケースから学ぶこと」
として通ずる部分もあるかもしれません。
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留学本では教えてくれない海外大学院のホント~実際の体験から
大学院留学を成功させるための指導教官選び(後)
山本 智徳
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前回は、まず一流・有名な大学院を選ぶべきかに関して議論し、大学院留学の
成否を握る指導教官選びに関して触れました。おおまかにですが、大学教授を
理論派・実験派、マネージャータイプ・研究者タイプに分類しました。今回は、
私の知る4人の成功した教授を例に、理想的な指導教官選びを考えてみたいと
思います。
*A教授(実験寄り・マネージャータイプ)*
前回の分類で考えると、A教授はかなり実験寄りのタイプでしょう。理論を疎
かにすることはありませんが、主にハードウェアを使った実験を得意としてい
ます。一つの分野にこだわると言うよりは、同時に様々なプロジェクトを進め
ており、A教授の指導する学生・ポスドクの数は年々増えています。そのため、
マネージャータイプに入るでしょう。
A教授は非常に表現力が豊かで論理が明快です。専門家はもちろんのこと、全
くの門外漢であっても理解できるよう、研究内容を説明することができます。
この表現力は、ライティングにおいても発揮されます。そのため、研究に携わ
る大学教員にとって生命線とも言える、研究資金(グラント)獲得に優れてい
ます。学生・ポスドクにとって、財政援助の面で一切の心配がありません。
A教授は面倒見が良いのですが、さすがに膨れ上がった研究室の各メンバーに
割ける時間は減っています。また、あまり理論が得意ではないため、学生たち
は、実験以前に理論で行き詰まった際のサポートがほとんど得られません。A
教授の学生であれば、研究発表や論文・グラントの書き方は飛躍的に向上する
でしょう。しかし、理論的な困難に直面したとき、具体的なアドバイスが得ら
れず、学生自ら解決方法を考え出さざるを得ません。
*B教授(理論&実験・マネージャータイプ)*
B教授のバックグラウンドは理論ですが、理論と実験と両方とも重視していま
す。かなり多くの研究資金を獲得し、非常に多くの学生・ポスドクを抱えてい
ますが、とても一人で対応できる人数には見えません。A教授同様、マネー
ジャータイプに分類されるでしょう。
多くのプロジェクトが進行しており、異なる分野の学生が集まるため、研究室
は多様性に富んでいます。また、B教授は顔が広く、会話術にも長けており、
非常に広いネットワークを持っています。そのため、共同研究者も多く、著名
な教授との繋がりもあるため、研究室メンバーは有名研究室への短期留学・就
職も可能です。B教授の幅広い活動のおかげで研究資金は潤沢ですので、定期
的に研究室メンバーは募集され、また財政援助の心配が全くありません。
一方で、そのような研究資金獲得やネットワークを広げる「政治活動」に余念
がないため、学生・ポスドクと接する時間がほとんどありません。研究室のメ
ンバーが多く、B教授は学外への出張が多いため、定期的なミーティングを開
くことは困難です。そのため、学生にとっては、年に数回だけ開かれる研究室
のミニ学会が、B教授に研究を説明する時間であり、アドバイスをもらう機会
でもあります。
*C教授(理論寄り・研究者タイプ)*
C教授は非常に理論寄りです。理論を裏付ける必要があれば実験も行いますが、
基本的に理論主体で研究を進めます。C教授はまだそれほど高齢ではないので
すが、C教授の携わるその分野において、数々の輝かしい業績を修めており、
既に多数の学会からフェローの称号が贈呈されています。自ら第一線で活躍す
る、研究者タイプに該当します。
A・B教授の研究室ほどではありませんが、C教授の指導する学生・ポスドク
の数は少なくありません。ですが、毎日のように学生オフィスに顔を出し、一
対一で研究の進捗状況を確認します。理論が得意ですから、どのような展開に
なるのか、ある程度の予測はできるのでしょう。学生と徹底的に議論するため、
学生にも考えさせつつ、一方で適切なガイドラインを作ることができます。こ
れを繰り返すことで、研究室メンバーは考える力を養うことができます。
C教授は、数学的には簡潔に表現できても、万人にもわかるような説明があま
り得意ではありません。できないと言うよりは、そこまで発表への下準備に時
間を割かないのでしょう。また、一流の研究者ではあるのですが、研究資金調
達に関しては上手ではありません。C教授の研究室には、PhD 課程であっても、
学費・生活費を自己負担為ざるを得ない学生が半数以上います。学生にとって、
金銭的には非常に厳しい大学院生活となるかもしれません。
*D教授(理論&実験・研究者タイプ)
D教授は理論畑出身ですが、理論を実証するために、実験にもかなりの比重を
置いています。D教授の研究室に所属する学生・ポスドクの数は非常に少なく、
少数精鋭といった雰囲気が漂っています。D教授自らも単著で論文を書き続け
る、研究者タイプに当てはまります。
D教授は、まだ比較的若いながらも、学生時代から幾多にも及ぶ賞を受賞して
います。また、最高技術責任者として、ベンチャー企業経営にも携わっていま
す。そのため、とても多忙な毎日を送っていますが、自分の学生たちへの研究
指導にも非常に熱心であり、学生たちは国際学会において Student Award を
受賞しています。また、講義などの大学教育も一切疎かにせず、大学・学部か
ら、Teaching Award を何度も受賞しています。
企業経営にも携わり、自らも現役として活躍する研究者であるため、指導する
学生・ポスドクの数は非常に少ないです。研究資金は十分に持っているものの、
D教授が面倒を見られる数に抑えるため、学生を取らない年度も少なくありま
せん(10年間で指導した PhD 課程の学生は、たったの6人です)。また、
優秀であるがためにヘッドハントにも合います。研究室メンバー、特に PhD
課程の学生にとっては、いまの大学に残るかD教授と一緒に移るかは、かなり
大きな問題でしょう。
●理想的な指導教官とは
今回例として挙げた4名とも、大学教授として大成功していると言っても過言
ではありません。しかし、学生にとって理想的な指導教官かと言うと、必ずし
もそうは言えないと思います。指導教官を選ぶ際には、自分にはどんなタイプ
のアドバイザーが合っているのか、十分に吟味する必要があります。
大学院でしっかり基礎を固めたい場合、マネージャータイプよりは研究者タイ
プの指導教官が合っているでしょう。もちろん、自ら考えることが研究の本質
ですが、駆け出しのときや新しい分野に挑戦する場合、ある程度の方向性なし
に進むのは、非常に難しく感じると思います。一方、マネージャータイプの指
導教官を持つと、ネットワークが多いに活用できます。特にアカデミアを希望
する場合、将来の就職の際には、そのコネは大きな武器となります。もちろん
両方を備えたタイプが一番良さそうですが、なかなかそう簡単には見つかりま
せんし、そういう教授の研究室は、やはり非常に狭き門です。
さらに、理想的な教授が見つかったとしても、たまたま出願する年度は(例え
ばD教授のように)学生を取らないかもしれません。アシスタント・プロフェッ
サーだと、テニュア(終身雇用権)を取れずに大学を去る場合もありますし、
逆にテニュアを持っていると、サバティカル(研究休暇)で大学外に半年~1
年ほど出掛けてしまう場合もあります。特に、自分の卒業前に指導教官のサバ
ティカルが重なると、非常に苦労しそうです。また、女性教授であれば、出産
が重なることも十分にあり得ます。
このような細かい条件を挙げていけば切りがありませんが、やはり指導教官と
は長い付き合いになるので、研究業績のみではなく、その教授の性格や上記で
挙げたタイプなども加味する必要があると思います。ラボローテーションがで
きるのであれば、自分自身を印象付けるのはもちろんのこと、こういう点も細
かくチェックするべきでしょう。入学前に指導教官を決める必要がある場合、
学会で会って話したり、研究室訪問をすることが理想的です。それが難しい場
合、電話・メールの応対や、その研究室の学生から教授の印象を訊くのも判断
材料になるでしょう。今回のエッセイが、これから出願する・指導教官を選ぶ
方の一助になれば幸いです。
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自己紹介
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山本智徳
1998年都立日比谷高校卒業。一浪後、東京工業大学第5類入学。2003
年に東京工業大学制御システム工学科を卒業。今度は一年半の院浪生活を経て、
2004年秋より、メリーランド州ボルチモアにあるジョンズ・ホプキンス大
学機械工学科博士課程に在籍。現在、博士課程5年目。
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編集後記
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日本「出身」の4氏が受賞したことで、今年のノーベル賞のニュースは日本で
多いに沸き返っていることと思います。これまで偉大な賞であること以外、こ
れと言ってノーベル賞に関しての知識はほとんどありませんでしたが、その歴
史を振り返ってみると、意外に負の側面があることも否定できないようです。
ここで紹介するかどうか躊躇しましたが、非常に興味深い記事だと思うので、
下記に記事へのリンクを張っておきます。全文読むためには、無料ユーザー登
録が必要かもしれません。(山本)
NBonline:伊東 乾の「常識の源流探訪」/日本にノーベル賞が来た理由
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20081009/173322/
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