アメリカ理系大学院留学を実現させるためのノウハウ ~修士・Ph.D. 課程の選択~

Post date: Jan 30, 2012 8:12:25 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ October 2010, Vol. 53, No. 22

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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10月を担当させていただく今村文昭です。

皆様、日米はともに連休だったかと思いま

す。どのように過ごされましたでしょう

か?ボストンは紅葉がすばらしく、快晴で、

とても快適でした。

今回の記事も、先月の青木さんの紹介に引

き続き、「理系大学院留学-アメリカで目指

す研究者への道」から、「修士・Ph.D. 課

程の選択」について紹介したいと思います。

また、本に記載された内容に加え、私の経

験によるちょっとした考えを紹介したいと

思います。

大学院留学を考えておられる方、興味のあ

る方にとって何らかの参考になれば幸いで

す。

本にご興味のある方は是非↓のリンクをご

覧ください。 http://kagakusha.net/alc/

ご意見などございましたら、カガクシャ・

ネットホームページ経由、Eメールでもご連

絡をお待ちしております。今後配信して欲

しい内容や、その他の要望などもお願いし

ます。

http://kagakusha.net/

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アメリカ理系大学院留学を実現させるためのノウハウ

~修士・Ph.D. 課程の選択~

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修士・Ph.D. 課程の選択

修士・Ph.D. 課程の選択については、ま

ず、日本とアメリカの修士課程の違いを認

識する必要があります。日本の修士課程で

は、授業はあくまで卒業単位取得のために

受けるものであり、基本的に研究が中心で

す。

一方、アメリカでは、修了条件に修士論

文が課されないプログラムも多く存在しま

す。授業によっては、ファイナル・プロジ

ェクトと呼ばれる、その授業に関連した研

究課題に取り組む場合もありますが、日本

とは異なり、研究が中心のカリキュラムで

はありません。

従って、アメリカの大学院で研究するこ

とに主眼をおくのであれば、Ph.D.課程を選

んだ方が良いでしょう。

ただしアメリカの大学院では、Ph.D. 課

程であっても授業に割く時間は日本より多

くなるため、研究のみに専念したい場合は、

日本で博士号を取得後、ポスドクとして、

アメリカへ研究留学するという道もありま

す。

アメリカでは、このようなプログラムの

特徴(修士課程:ほぼ授業のみ、Ph.D. 課

程:授業+研究)があるため、どちらを選

択するかということが、学位取得後の進路

と密接に関わってきます。

アメリカでの就職を考えるなら、修士の

み修了した場合では、高校の先生、投資銀

行、特許事務所、コンサルタント会社、研

究支援産業の営業、販売促進と、研究には

直接関わらないポジションとなる可能性が

大きいでしょう。

修士取得後に研究職に着任する場合は、

Ph.D.取得者の下で働く必要があったり、技

術補佐員(technician)扱いだったり、待

遇面や権限の違いが生じる可能性が高いの

で、それらも考慮に入れた上で、自分に合

ったプログラムを選ぶ必要があります。

一方、Ph.D.を取得しておくと、社会的に

一人前の研究者とみなされるので、製薬企

業、シンクタンク、製造業、国立研究所、

大学など、直接研究に関わるポジションに、

それなりの権限を持って就職する傾向にあ

ります。もちろん例外もあって、修士卒業

でもかなり優秀な場合は、企業や大学にお

いてPh.D.取得者と同じようなポジションで

研究している人もいます。

注意点として、日本ではどの分野におい

ても、修士・博士の両課程がありますが、

アメリカの場合、特に生命科学系などにお

いては、Ph.D. 課程しか存在しない場合が

あります。

また、Ph.D. 課程では財政援助が一般的

であるのに対して、修士課程ではその人数

が限られていたり、財政支援があっても、

Ph.D.課程のものには及ばなかったりする場

合もあります。修士論文の提出が必要とさ

れない、授業履修のみで修了できるプログ

ラムの場合、財政援助は非常に限られてい

る、と考えた方がよいでしょう。

それでは、私(今村)の経験による事柄

を少し紹介したいと思います。

上記のように、研究者としての価値、卒

後の就職に、修士課程を出るか、博士課程

を出るかは大きく異なってきます。基本的

に、米国において修士号のみ持つ人が研究

者としてみなされることはほぼ無いでしょ

う。

では、研究者を目指す人にとって、修士

課程の価値とはなんでしょうか。

種々の案があるかと思いますが、私は修

士課程は専門性を定める分岐点として価値

があると思っています。

私は、日本で理工系の化学を専攻してお

りました。(それこそ先日、ノーベル化学

賞を受賞された北海道大学の鈴木章名誉教

授と米パデュー大学の根岸英一特別教授が

確立された領域です。)

私は理工系の道を外れて、生命科学系の

応用分野に貢献できる領域で研究した

い・・と思い、北米の栄養学の修士課程に

進みました。

私は研究者にはなりたいと思っておりま

したが、実は、どういう研究がしたいという具体的なアイデアは無かったのです。と

にかくも、化学を生かせてなお、一般社会

に貢献できる領域と思っていました。栄養

学・環境学など、頭にありました。

そして修士課程において北米大学院レベ

ルの教育課程で栄養疫学という領域に惹か

れその道博士を取る道を選びました。栄養

疫学、および疫学は、日本では教育課程も

歴史の浅い領域ですので、結果的に大正解

でした。

私はそんな道を歩んできたので、米国の

修士課程について、私がそうだったように、

「研究者になりたいが、学士を取った時点

で自分の道を決めたくない/決められな

い」という人にとって向いていると思って

います。

研究者を志す人にとって、専門領域分野

を変えたりすることには、やはりリスクが

伴いますが、北米の大学院は、強い意志と

(潜在的な)実力があれば、専門領域を変

えることは容易です。

北米大学院の修士課程では、多様な選択

肢を思い描くこと、さらにいろいろな志を

持った人が同じ学を修めることを可能です。

北米の大学院の1つの魅力ではないでしょ

うか。

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自己紹介

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今村文昭

上智大学理工学部化学科卒業(2002年)、コロンビア大学医学部栄養学科修士課程卒業(2003年)、タフツ大学フリードマン栄養科学政策大学院栄養疫学博士課程卒業(2009年)、2009年よりハーバード公衆衛生大学院疫学部門にてPost-doctoral Fellow

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編集後記

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9月、日本に一時帰国しました。ハー

バード関係で記事になったのか「最近は、

留学生が減ったんでしょう?」という話を

何度も伺いました。その真意はわかりませ

んが、それに伴って、日本は元気が無いと

か、学生は内向きだとか、そういった話も

耳にしております。本当なのでしょうか。

疫学者の私としては、科学的根拠を求めた

いところです。

日本のノーベル章受賞、科学政策のあり

方、科学者の雇用に関する社会問題などの

後押しもあってか、科学系での大学院留学

が以前より増して着目・再考されているよ

うに思います。このメルマガも、その点か

らも、重要な役割を果たしておりますでし

ょうか。私も編集に携わる1人として、読

者の皆さまのお役に立てれば幸いです。

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