【海外サイエンス・実況中継】アメリカ企業就職サバイバルのためのアドバイス(後)
Post date: Jan 30, 2012 7:36:40 PM
執筆者: tyama (4:18 pm)
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ February 2009, Vol. 44, No. 1, Part 2
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
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先週に引き続き、今回も「アメリカ企業就職サバイバルのためのアドバイ
ス」に関しての記事です。前回は、仕事を見つけるために重要なのはネット
ワーク作りであること、そして実際にレジュメを書いてみること&その書き方、
に関して書いてくれました。今回は、レジュメと同様に大事な、カバーレター
の書き方、そして実際にオファーをもらった際の、それ以降の交渉に関してで
す。今回も多くの例と共に紹介してくれるので、非常にわかりやすく、明快だ
と思います。どうぞ、お楽しみ下さい。
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Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには~様々なケースから学ぶこと
アメリカ企業就職サバイバルのためのアドバイス(後)
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レジュメを書いたことがあるという人はおられるかもしれませんが、アメリカ
で仕事に応募する上で欠かせないものとして、カバーレター(Cover Letter)
が挙げられます。カバーレターとは、レジュメに添えて就職を希望する会社に
提出する手紙で、以下の点について書く必要があります。
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・あなたがレジュメを提出する理由
・あなたが応募しているポジション名
・どのようにそのポジションのことを知ったか
・あなたのそのポジションへの適性を、これまでの教育・技術・経歴などから
説明する
----
つまり、カバーレターは自己紹介の手紙で、応募するポジションごとに書く必
要があります。日本では、仕事に応募するというよりも、会社に応募するのが
一般的で、応募の段階では、具体的にどのような仕事につくのか分かっていな
い場合が多いでしょう。しかし、アメリカの場合は、各ポジションごとに適任
の人を雇います。そして、レジュメとカバーレターにより、自分がどれほどそ
のポジションに適しているかを説明する必要があります。
以下、例を考えてみましょう。仮にあるハイテク企業が、材料評価法であるエッ
クス線回折 (x-ray diffraction)、電子顕微鏡法(TEM、STEM、SEM など)、
分析電子顕微鏡法(EELS、EDS 法)、集束イオンビーム法(FIB)に詳しい材
料科学者(Materials Scientist)の募集をし、以下のような求人広告(Job
Posting)を出したとします。
REQUIREMENTS:
- Competence with TEM and STEM techniques for solving materials
science problems as related to industry.
- Hands-on operation and some routine maintenance of such systems.
- Working knowledge and expertise in EDS and EELS analysis.
- Interpret results as it impacts processes and material development
for recording heads, MRAM, MEMS, and other related programs.
- Additional knowledge and expertise in XRD, XRR and Dual Beam
preferred.
- Minimum of a M.S. degree, Ph.D. preferred in Material Science,
Physics related field.
このポジションに応募するとして、サンプルのカバーレターを書いてみました。
うまく書けているかどうか分かりませんが、一応アメリカ人にもチェックして
もらいました。ご意見・批評などありましたら、お願いします。
http://toshiboston.web.fc2.com/resume/coverletter_sample.pdf
募集先が、レジュメ・カバーレターを通じて応募者に興味を持つと、まず電話
でのスクリーニング、つまり篩(ふるい)に掛けることがよくあります。担当
部署のマネージャーが電話を掛けてくる場合もありますし、人事担当からの場
合もあります。このスクリーニングをパスすると、ようやくジョブインタビュー
(Job Interview)となります。多くの場合(絶対ではないですが)、面談に
掛かる費用、例えば交通費(飛行機・レンタカー代)や宿泊費は、会社側が持っ
てくれるのが一般的です。
ジョブインタビューの際には、グループで面接したり、一人ずつ何人もの人と
面接をしたり、プレゼンテーションを頼まれたりします。これにより、会社側
は候補者がどのような人物なのか、どのような技術・知識を持っているのかを
見ようとします。また、面接を受けている人にわざとストレスを与え(例えば、
難しい質問を連続で浴びせたりする)、どのような反応をするか見る会社もあ
ると聞きました。
ジョブインタビューに際しては、事前に会社の事業内容、経営者や研究者につ
いて調べ、さらに応募しようとしているポジションに要求される技術・知識な
どについてしっかりと理解しましょう。そして、予想される質問に対して、自
分なりの回答を準備しましょう。少なくとも、レジュメに書いたことに関して
は、何でも質問に答えられるようにすると良いと思います。また、質問に答え
る際には、あなたのレジュメ・カバーレターに書いてある経験・知識・技術、
そして業績と応募しているポジション・会社との関連付けを行うようにしましょ
う。つまり、あなたがそのポジションにぴったりの人物であることを印象付け
るように、努力する必要があります。アメリカのジョブインタビューでよく訊
かれる、とても典型的な質問リストがネットにありましたので、以下に紹介し
ます。
(編集者注:編集の都合上、簡略化したURLを掲載しています)
また、ジョブインタビューでは、雇う側があなたを面接するわけですが、あな
た自身がその会社をインタビューする機会でもあります。予想される質問への
答えだけではなく、面接の際に訊く質問をたくさん準備しましょう。ジョブイ
ンタビューの際に、面接者に様々な質問をしていく過程で、職場の雰囲気や自
分の上司となる人、あるいは同僚の性格など、多くのことを知ることが出来ま
す。特に、同僚がどの程度、会社や上司、そして仕事内容に満足しているかを
知ることは、あなたがオファーをもらった際に、最終的に受諾するかどうかを
決める上で、重要な判断材料となるでしょう。
面接に行く前、もしくはオファーを受ける前に必ずやるべきことは、応募して
いるポジションのその地域での平均的な初任給・給料についてリサーチをする
ことです(転職者の場合は、アプライしようとしているポジションの平均給与
を調べます)。同じ名前の仕事でも、初任給・給料は、分野・地域・学位によっ
ても異なります。以下のリンク先や所属学会のウェブサイトなどを使ってリサー
チをし、データに基づいた数字を頭に入れておくと良いと思います。
私の分野に近い物理系であれば、Ph.D. の初任給は、2003-2004年のデータで、
$68,000ドル~90,000となっています(数年前のデータですから、今はこの額
よりは少し高くなっていると思われます。私の予想では、$72,000~95,000
程度)。生活費の安い地域では、$68,000ドル~80,000、ニューヨークやカリ
フォルニアなど、生活費が高い地域では、$90,000(今ならば$95,000程度)に
近い給料が期待されます。その地域での平均的な初任給を知っていれば、
オファーをもらった時にその条件を評価するのに非常に助かります。
以下、アメリカ物理学会のデータです。
http://www.aip.org/statistics/trends/reports/emp.pdf
仕事のオファーをもらっていない段階で、給料をどれくらいもらえるかを尋ね
ることはタブーとなっています。また、面接もしていない段階で、応募先が希
望給料額(Salary requirement)を、メールや電話などで尋ねてくることがあ
ります。この際には、失礼にならないように、具体的な数字について言及する
のは避けましょう。メールの場合などには、Salary の欄は空欄にするか、
「面接の際にお話します」のように断っておくと良いと思います。
また、転職希望者の場合、オファーをもらう前の面接の際に、現在の給料はい
くらか尋ねられると思います。応募先は、その額を基に人選・オファーを考え
るわけですが、この情報は出来れば相手側に与えたくないところです。なぜな
らば、現在の給料が応募先の会社の考えている額に対して多すぎる場合は、そ
れだけで対象外となるかもしれませんし、額が少ない場合は、オファーの額を
少なくされてしまう可能性もあるからです。そのため、"I am making a com-
petitive salary for a Materials Scientist with 5 years of experience."
のように、できるだけ具体的な数字を避けた方が良い、とアメリカ人からアド
バイスを受けました。もちろん、具体的な数字を面接者に言わないといけない
こともあるでしょう。その場合は、相手がその数字についてどう思うか尋ねる
などして、情報が一方通行にならないような工夫をすると良いと思います。
実際に面接を終え、最終的に会社側があなたに仕事をオファーすることを決め
ると、例えば
"We are pleased to offer you the position, Materials Scientist at an
annual salary of $85,000"
というように、具体的な給料額の提示を受けます。
オファーを受けたら、給料を含めてオファーの内容をしっかり確認するように
しましょう。引っ越しが必要な場合は、どのようなサポートがあるのかも重要
な項目です。例えば、引っ越し屋のサポートはあるのか、車の輸送費は出るの
か、飛行機代はでるのか、などです。不明な点はその場で質問するか、後から
電話して確認すると良いと思います。そして、その内容を実際にオファーレター
として(電子メールではなく、ハードコピーして)送ってもらうようにしましょ
う。
オファーをもらったら、リサーチに基づいて評価してみて下さい。提示額に不
服のある場合は、交渉をすることも出来ます (Salary Negotiation)。その際
には、自分がいくら欲しいかを訴えるのではなく、「市場でのあなたの学位、
経験などに基づいた適正給料」に集中することをお勧めします。つまり、「デー
タによると、・・・市近郊での Ph.D. の初任給は$xxxになっていますが、い
かがお考えでしょうか」のように聞くのが良いでしょう。
参考までに、実際に受け取ったオファーレターの最初のページを紹介します。
なお、一部の情報は伏せさせていただきました。
http://toshiboston.web.fc2.com/resume/offer_letter.pdf
お金について少し書きました。もちろん、お金が一番大切ではないかもしれま
せんが、自分の好きな仕事をすることで自分の価値・業績をきちんと評価して
もらい、それに応じた待遇を受けることは、素晴らしいことだと思いませんか。
そして、アメリカは、研究者であろうと自分の価値・仕事を正しく評価しても
らうために、きちんと自分の考えを述ベることが出来る国です。
話は大きく変わります。日本では終身雇用制が崩れつつあると聞きますが、そ
れでも一生同じ会社に勤める人はまだ多いと思います。きちんとしたデータは
無いようですが、アメリカでは平均で一生のうち4~5回転職すると聞きます。
転職の目的は、より良い仕事と待遇、つまりステップアップです。もちろん同
じ会社に何十年も勤めている人もたくさんいます。キーとなるのは、自分の仕
事・環境・待遇がどれだけ好きかということだと思います。
自分が就職活動をしているときに、就職斡旋のプロから、「最初の仕事は、必
ずしも夢の仕事ではないかもしれない」と言われました。つまり、そのプロに
よると、卒業してすぐ夢の仕事につければ本当にすばらしいが、そうでないか
らと言ってがっかりすることはない、とのことです。その場合、将来的に、夢
の仕事につくためにプラスになる経験を積む努力することで、夢の仕事を目指
し続けることが出来るわけです。私の知人で、2回目の転職で、ようやく夢の
仕事につけたと言っている人がいました。こういうことは良くあることだそう
です。
夢の仕事につくために一番大切なことは、実力を身につけることだと思います。
実力とは、ただ単に勉強、研究、仕事が出来ることを指すのではありません。
それらに加えて、人間関係の技術、チームワーク力、リーダーシップ、幅広い
知識、語学力など、様々な面でプロフェッショナルあるいはビジネスパーソン
としての力をつけていくことであり、その努力をすればきっと道は開けていく
ことと思います。
この点につきまして以下のメールマガジンバックナンバーをご参照ください。
* 【海外サイエンス・実況中継】Vol. 36, No. 1, Part 1およびPart 2
* http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=93
* http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=95
このようなエッセイを書いてきましたが、私自身もまだ自分の夢に向かって前
進している途中だと思っています。内容に、不備・至らないところがあろうか
と思いますが、ご了承ください。このエッセイが、アメリカで就職・夢の実現
を目指している方々の何らかの参考になったり、日本を飛び出して、海外で自
分の力を試してみたいと思われる方々の一助になれば幸いです。
今回のエッセイへのご意見は、こちらへどうぞ。
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=122
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編集後記
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只今バケーションで、日本の家族と共にモニュメントバレーに来ています。明
日からはグランドキャニオン、ブライスキャニオン等に向かいます。初めてグ
ランドキャニオン、モニュメントバレーを訪れたのはアリゾナで貧乏大学院生
をしていた2001年。広大な大自然に身が震えるほど感動しました。そして、大
学院での自分の苦労がとても小さなものに感じ、絶対に頑張るぞ、という思い
が湧き上がって来たのをおぼえています。あれから8年の月日が経ちました。
その間、大学院を無事卒業し、現在はプロフェッショナルとして働いています
が、今回の旅はいわば私の原点・Sanctuaryに戻る旅。特別な想いを感じてい
ます。混沌とした先の見えない世の中、自分の原点・Sanctuaryにて自分を見
つめなおすと共に5年後、10年後の自分のビジョンについて考えてみたいと思っ
ています。皆様も自分のSanctuaryをお持ちでしょうか?(著者)
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