【海外サイエンス・実況中継】ジョンズホプキンズ大学 Biomedical Engineering Ph.D.プログラム‏

Post date: Jan 30, 2012 8:13:36 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ November 2010, Vol. 53, No. 24

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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11月を担当させていただく、メリーランド大学薬学部

の小葦泰治です。こちらは、日曜日の夜中に時計の針が

1時間後ろに戻り、夏時間(Daylight saving time)から、

標準時間に戻り、1時間余分に寝れ、すごく得をした気分

です。ちなみに現在、米東海岸(ニューヨーク、ワシン

トンDC)と日本の時差は14時間です。

さて今回は、ジョンズホプキンズ大学にいらっしゃる

宋云柯(そう うんか)さんに、大学や所属されている

Biomedical EngineeringのPh.D.プログラムについて、

またプログラムへ応募する際に、選考委員の方々が出願

者のどのような部分を見て、また評価しているのか、

さらにそれを踏まえて合格率を上げるために気をつける

といい点のアドバイス、それから卒業後の進路、大学の

ある街ボルチモアについてまで、幅広く、非常にうまく

要点を抑えながら執筆してくださっています。

ちなみに、このプログラムは、この分野では全米一と

言われていて、私たちカガクシャネットの主要メンバー

がこのようなプログラムで活躍されていることは、もの

すごく誇りです。

私も宋さんとは、個人的に何度もお会いさせていただい

ていますが、すごい好人物で、個人的にも活躍を期待し、

将来が楽しみな後輩の一人です。

メルマガについて、ご意見などございましたら、カガク

シャネットホームページ経由、 Eメールでもご連絡をお

待ちしております。今後配信して欲しい内容や、その他

の要望などもお待ちしております。http://kagakusha.net/

私たちの最新著書、理系大学院留学(アルク社)

http://kagakusha.net/alc/ につきましても、手に取り

ご覧になっていただければ幸いです。どうかよろしく

お願い申し上げます。

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Johns Hopkins University School of Medicine

Biomedical Engineering (BME)

Ph.D. Program 宋 云柯 (そう うんか)

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カガクシャ・ネット、メルマガ購読者の皆さま、

こんにちは。私は Johns Hopkins University (JHU)

School of Medicine, Department of Biomedical

Engineering (BME), Ph.D. Program 三年目の宋 云柯

(そう うんか)と申します。(生まれは中国北京なので、

名前がちょっと変わっていますが、小学校から大学まで

日本で育ちましたので、半分日本人みたいなものです。)

さて、このメルマガでは、まず私が所属するJHU につい

て簡単に紹介をさせていただきます。

◆Johns Hopkins University (JHU)について

アメリカ東海岸メリーランド州ボルチモア市にある、

大学生約5000人、大学院生約1700人の小さな大学です[1]。

1876年にアメリカで最初の研究大学としてJohns Hopkins

の寄付金によって設立ました。

アメリカで最初に博士号(Ph.D.)を授与したのも、

初めて実験室で化学実験を行ったのもJHUだといいます[2]。

学生、教師含め過去に計33人(医学・生理学賞16人、

平和賞3人、経済学賞5人、化学賞5人、物理賞3人、文学

賞1人)のノーベル賞学者を輩出しています。

ショウジョウバエの遺伝学実験で有名なノーベル賞

学者、トーマス・ハント・モルガンもJHUでPh.D.を

取得しています。また、最近では2009年にCarol

Greider教授がノーベル医学・生理学賞を取得しました。

JHU School of Medicineは、それ自体がアメリカで

よく名の知られた医学部・医学研究科であり、Biomedical

Research のほぼすべての分野において世界最先端の

研究を行っています。例えば、研究者の評価の指標

として、よく引用数(ある研究者の書く論文が、どれ

だけほかの論文から引用されるか)が用いられますが、

ただ今世界で最も総合引用数が高い研究者はJHUの教

授です(Bert Vogelstein, M.D.)。

また、細胞シグナル伝達できわめて重要なp53という

癌抑制遺伝子を発見したもの、初めての制限酵素を

発見したのも、免疫の補体の一連のメカニズムを発見

したのもJHUです。

◆JHU BME博士課程について

私が所属するBMEは、学部と修士課程がSchool of

Engineeringに、博士課程がSchool of Medicineに

属するユニークな学科です。JHU BMEは全米で最も

歴史が古く、最も大きく、また最も高い評価を受け

ているBME学科のひとつでもあります[3]。

BMEがカバーする分野はCells and Tissue Engineering,

Cardiovascular Systems, Medical Imaging, Systems

Neuroscience,Molecular and Cell Systems, Bioinformatics

and Computational Biologyと広く、数多くの教員、

研究員が各分野でユニークな研究をしています。バイ

オと工学の両方の知識と研究経験を得たい学生、また

は実際に医療に役立つ機器を作りたいという学生には

お勧めの学科でもあります。

博士課程に入ると、一年目と二年目はコースワーク

(授業)が比較的多く、研究になかなか時間をとるこ

とができないことが多々あります。しかし、授業はい

ずれも内容が濃く、研究に有用なものが多いので、長

期的には有益なシステムだと思います。

博士課程二年目または三年目にはGraduate Board Oral

Examinationという試験があり、これに落第すると博士

課程から追い出されることになります。合格基準は、

他校に比べて甘いと思います(落第率約3%)。四年

目にはThesis Proposal(NIHへの研究費申請フォーマ

ットに従って、自分の研究を5人の教授の前で説明し、

質問に答える試験)を受ける必要があります。そして

最終試験として、卒業間じかにThesis Defense(博士

課程で自分の行った研究を要約して教授方に説明し、

質問に答える試験)に合格すれば、晴れてPh.D.を取得

することになります。

他校の多くの博士課程と同じく、JHU BMEの学生は全員

が学費を全免除され、それに加えて給料を受け取ります。

給料は毎年ほんの少しずつ上がり(2010年は$27,125)、

生活に困ることはない額が支払われます(たいして贅沢

はできませんが)。給料のほかにも、健康保険が学校に

よってカバーされ、ほとんどの医療代が無料か10ドル程

度になります。

◆受験の仕方、アドバイスなど

一般的なアメリカ大学院の受験の仕方については

「理系大学院留学-アメリカで実現する研究者への道-」

http://kagakusha.net/alc/)をご覧ください。

JHU BME博士課程への合否は、教授陣の投票によって決

まります。つまり、数ラウンドの書類選考を経て、一部

の受験生が候補として選ばれると、すべての教授が集ま

り、どの受験生を合格させるかを話しあい、投票します。

学生は給料をもらう研究者であり、6年前後の比較的長

い時間と多くの資金を費やして育てることになりますの

で、教授陣は「この学生はどれだけ勉強ができるか」と

いうより、「この学生はJHUの研究に必要な人材である

か」という視点で学生を評価することになります。です

から、受験生が書くエッセイ(Statement of Purpose)

では、自分の成績の良さ、GREやTOEFLのスコアの良さを

強調するよりも、この大学でどのような研究をしたいか

ということを強調して書くべきだと思います。

(編集者注: これは比較的、多くの大学で共通しているこ

となので、これから出願を考えられている読者のみなさま

には、特に留意していただきたいと思っています。)

◆卒業後の進路について

Ph.D.取得後の道は比較的自由です。アカデミアへの道を

歩む人もいれば、会社に入って得た技術を製品開発に応

用する人、コンサルタントになる人、銀行に入る人等、

いろいろな人生を選ぶ人がいます。

たとえば私の研究室から卒業した人は過去二人いて、ひ

とりは大手電子機器メーカーに、もう一人は大手コンサ

ルティング会社に入りました。もう一人、卒業間じかの

学生は博士課程の間にベンチャーを起こし、卒業後は自

分の会社で働くようです。

◆ボルチモアについて

人口ランキングによると、ボルチモアはアメリカで約20

位前後の中型の都市のようです[4]。魅力としては、港が

あるダウンタウンがきれいであること、ワシントンDCに

車で一時間の距離、ニューヨークに三時間の距離である

ことなどが挙げられます。蟹が名物です。

ボルチモアはアメリカトップレベルの犯罪率を誇ります。

それだけを聞くと、生活環境はかなり厳しいように感じ

られますが、夜一人で危険エリアに出かけなければ、ま

ず事件に巻き込まれることはありません。

◆最後に

JHUに限らず、アメリカには多くのよい研究大学があり

ます。博士課程で日本を出て世界を見てみることは、

なかなか刺激的で面白いことだと思います。つらいこ

ともあるかと思いますが、それを乗り越え、自分ひと

りで問題を解決する、または自分ひとりで何かを成し

遂げるというのは、とても有意義なことです。もし留

学に興味がある方がいらっしゃいましたら、ぜひとも

がんばってチャレンジしてください。

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[1] http://members.ucan-network.org/jhu

[2]http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%97%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B9%E5%A4%A7%E5%AD%A6

[3] http://grad-schools.usnews.rankingsandreviews.com/best-graduate-schools/top-engineering-schools/biomedical

[4] http://www.infoplease.com/ipa/A0763098.html

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自己紹介

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宋云柯 (そう うんか)

慶應大学理工学部生命情報学科卒業。現在、アメリカ

東海岸のJohns Hopkins University,School of Medicine,

Department of Biomedical Engineering Ph.D. 課程

に所属マイクロ流体工学、一分子蛍光検出に関する研

究に従事。

専門分野:生体工学

小葦泰治

関西大学工学部生物工学科卒。京都大学大学院生命科

学研究科修士課程中退。Mount Sinai School of Medicine

of New York University (Ph.D.)。現在、University

of Maryland School of Pharmacyにて、世界第4位のス

パコンKrakenなどを用い、創薬ならびに、実験では解

析の難しい病気関連タンパク質の原子レベルでのシミュ

レーション研究に従事。また科学技術政策にも興味があ

ります。

専門分野:生物物理、計算機化学、分子シミュレーション

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編集後記

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アメリカに来たあと、食生活に気をつけないと、大変な

ことになります。あと、日本のご飯が恋しくなる。日本

にいるうちに、おいしくて健康的なご飯をおなかいっぱ

い食べてください。 (宋)

あくまで個人的な意見ですが、知日派、親日派の中国人、

また米国へ留学中の心ある中国人の方々は、中国人ノー

ベル平和賞受賞者(2010年度)の劉暁波氏、天安門大虐殺

事件(1989年)、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件(2010年)

などを、日本、米国、英国などのニュースで情報を得、

非常に公平かつ冷静に中国共産党政府がいったい何を行

っているのか、なぜ中国本土内で、youtube、twitter、

facebookが禁止され、情報統制が敷かれているのかにつ

いて、ものすごく疑問を持ち、それらを明らかにおかし

いと言っている方々を知っています。なので、個人的に

は中国人だからと言って日本人が敬遠してしまうことに、

強い懸念を抱いています。

一方、1895年以降、尖閣諸島は国際的にも日本固有の領

土で、中華人民共和国が 1949年の建国当時、尖閣諸島

の領有権を主張せず、1968年に地下埋蔵資源が確認され

て以降、中国、台湾が相次いで領有権を主張という流れ

なので、日本政府は弱腰ではなく、命がけで日本国民の

生命と財産を守るために、毅然とした態度で中国共産党

政府と対峙する、また同様のことをロシア政府に対して

も行うことを海外在住の憂国の日本人として、断固望み

たいと思います。(小葦)

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発行責任者: 杉井 重紀

編集責任者: 小葦 泰治

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