【海外サイエンス・実況中継】お年寄りの体重の減少と痴呆発症率の関係(前)

Post date: Jan 30, 2012 7:42:38 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ August 2009, Vol. 49, No. 1, Part 1

_/ カガクシャ・ネット→ http://kagakusha.net/

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今回は新しいトピックに関して、引き続き今村さんに紹介してもらいます。

このエッセイも前編・後編の2回に渡ってお届け致します。

なお、これまでに今村さんが書かれたエッセイに興味がある方、ぜひ過去ログ

へアクセスしてみて下さい(無料のユーザー登録が必要です)。

■○○サプリや●●ダイエットって本当に効くのか

- エビデンスの重要性(栄養疫学)

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=9

■人のための学問:学際領域への興味

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=10

●学生代表として携わったカリキュラム構成委員会(前)

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=88

●学生代表として携わったカリキュラム構成委員会(後)

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=90

▲Multidimentional View

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=91

▲Multidisciplinary View

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=92

【番外編】

★科学英語についての特集(研究者向け)

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=134

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最近発表された論文の簡単な紹介とその将来的な可能性など

お年寄りの減量と痴呆発症率の関係

今村 文昭

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最新の研究内容を報告するというテーマに沿う形で、前回、日本で行われた健

康に関する研究の報道について、記事を書かせていただきました。今回は、ア

メリカで行われた研究とその報道について、述べたいと思います。

その前に、日本とアメリカの報道の違いを一つ述べたいと思います。まず、日

本の大手の報道サイトには、「科学」や「サイエンス」という項目は設けられ

ておりますが、「健康」という項目はありません。

http://www.yomiuri.co.jp/

http://www.jiji.co.jp/

http://mainichi.jp/select/

http://www.asahi.com/news/

しかし、欧米の報道関係のサイトでは、Healthという項目が決まってあります。

http://news.bbc.co.uk/

http://www.msnbc.msn.com/

http://abcnews.go.com/

http://www.cnn.com/

CNNのアメリカのサイトには、Healthという項目がありますが、日本のものに

はありません。

http://www.cnn.com/

Googleでも同様です。

http://news.google.com/

(本来なら、系統立てて複数の検索サイトで、決まったキーワードで検索すべ

きなのですが)健康に関する報道記事を眺めていると、日米の健康の情報を扱

う基盤が、そもそも違うという印象を抱きます。私は、日本のウェブで紹介さ

れる疫学・栄養学系のニュースが、どのような基準が選択されているのか、い

まいちハッキリと理解していません。なるべく日米両方の健康・食事・サプリ

メントのニュースに目を通し、原著論文も読むようにしているのですが、残念

ながら、研究の質ではないのは確かです。

また、研究施設・大学・学会が、広報に力を入れるか否かが影響するようです。

アメリカでは、ある程度有名な学術誌に掲載された論文であるという条件さえ

クリアすれば、平等に報道されるようです(時折、ダイエット関係の有名人の

記事などがあり、違う視点で読むのですが・・)。

研究の質が悪い論文でも、その問題が明るみにされることなく報道されるのが、

いまの日本の状況です。私はそれを脅威と感じているのですが、その状況を改

善する仕組みが、アメリカ・イギリスの報道にはあると感じています。

今回は、そんな報道の内容について、次の研究を基に紹介したいと思います。

体重の減少が痴呆症の発症と関係があるという研究の報道です。

* US News: Rapid Weight Loss in Seniors Signals Higher Dementia Risk

http://tinyurl.com/lemrmj

* BBC: Weight loss link to dementia risk

http://tinyurl.com/q4pn5l

* Headline: Weight Loss In Old Age May Signal Dementia

Link: http://tinyurl.com/qhyopb

Source: Science Daily / American Academy of Neurology

原著論文はこちらからになります。

* Association between late-life body mass index and dementia

http://tinyurl.com/n23clx

この研究は、日系アメリカ人女性2,000人弱を、約7年間追跡した研究です。研

究開始時の平均年齢は、71歳とかなり高く、日本人との類似性も伺えますね。

研究の結論は、肥満に分類される人の方が、痩せ型や普通体型の人に比べて、

痴呆症を患う率が低いというものです。ここでいう痴呆症は、アルツハイマー

病も含めます。

この研究では、平均7年間の追跡の最初の時点に測定された BMI(体重÷身長

の二乗。それぞれ単位は、キログラムとメートル)の値と、追跡後の BMI の

値の変化に着目しています。BMI は、肥満の程度を示す指標であり、BMI が高

いほど、肥満であるといえます。そして、この研究では、BMI の値や変化が、

その追跡中の痴呆症の発症と、どのように関係しているかについて検証してい

ます。さらに、単に肥満の程度、肥満の程度の変化について見ているだけでな

く、最初に肥満だった人、肥満ではない人それぞれで、肥満の程度が変化する

影響を見ています。結論として、平均71歳の研究参加者について、研究開始時

の BMI が高い方(つまり太っている人)が痴呆症を患う率が低くなったとの

ことです。さらに、体重が減少しない人は、減少した人と比べると、痴呆症発

症率が低くなるというものです。

この研究では、体重が減ってしまったのか、気を付けて意識的に減量したのか、

明らかではありません。この点については、報道でも、研究論文でも議論もさ

れておらず、肥満に関する研究としてはイマイチというところでしょうか。

結論から推察して言えることを簡単にまとめると、

・お年寄りは10%弱の人が痴呆を患っていくが、痴呆症のみに着目すると、太っ

ている方が良い

・体重の減少は危ぶまれる

・この研究でも、肥満体型の人ほど、高血圧、高脂血症、狭心症、糖尿病を患っ

ている率が高くなっているので、総合的に考えると、肥満が良いというわけ

ではない

・痴呆症の発症については、肥満の程度や体重に影響する食生活・運動量との

関係について、医学的に理解できていないことがある

ということでしょうか。現時点で総合的に考えて、けっきょく、肥満は問題で、

運動を課して意識して体重をコントロールするということが大事といえます。

肥満が問題視されている中で、心理的な健康や病気の予後については、太って

いる方が良い結果と結びついていることを示す研究も同時に多く出てきていま

す。そんなトレンドに乗った有意義な研究だと思います。アメリカで行われた

研究ですが、日系アメリカ人ということで、日本人の私たちにとっては注目す

るに値するのではないでしょうか。

さて、今回はさまざまな報道機関によってカバーされた、高齢者については、

痩せていることが必ずしもよいことではない、という研究を紹介しました。次

回は、この研究に関する報道について、日本の一般的な報道と比較しつつ、そ

の内容を紹介したいと思います。

今回のエッセイへのご意見は、こちらへどうぞ。

http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=138

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自己紹介

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今村文昭

上智大学理工学部化学科卒

コロンビア大学医学部栄養学科修士課程卒

タフツ大学 Friedman School of Nutrition Science and Policy 博士課程卒

ハーバード大学公衆衛生大学院疫学リサーチフェロー

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編集後記

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肥満は、糖尿病や循環器系の疾患だけでなく、癌や関節炎、精神的な疾患など

多くの病状に、あらゆる年齢層で特異的に関係してくるので、ダイエットに関

する研究はあらゆる形で報道されると思います。幅が広がる分、内容が中途半

端になりがちなのではと危惧してしまいますね。これからも関心を寄せていき

たいですね。次回もお楽しみに・・。(今村)

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発行責任者: 杉井 重紀

編集責任者: 山本 智徳

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