【海外サイエンス・実況中継】 クリーンで安全な、新しいエネルギー源としての核反応利用「レーザー核融合」 ~ 機械工学

Post date: Jan 09, 2012 5:23:39 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ August 2007 Vol 15 No 1

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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研究の最前線をお送りする第15回目です。今週はロチェスター大学の澤田

さんが、機械工学の中の分野、レーザー核融合について解説をしてくれます。

「核融合」と聞くと、それだけで構えてしまう人も多いかもしれません。

そうではなく、むしろこれからの時代に求められる、環境に優しい、

クリーンで安全なエネルギー源の有力候補であること、レーザー核融合の

原理などが、エッセイから読み取れるでしょう。

ちなみに、編集後記でも書かれているように、澤田さんはホームページの

作者でもあります。

「科学者への道」 http://www.geocities.jp/fwin0003hiroshi/

(杉井)

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今日のエキスパートな質問(答えは下にあります)

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1.「核融合」という言葉はよく使われますが、どういう反応のことを言う

のでしょうか?

2.「制御核融合」に使われる主な燃料は?なぜクリーンなエネルギー源と

して期待されているのでしょう?

3.核融合を起こす点火方式として、最近注目されている「高速点火」方式

とは、どのようなものでしょうか?

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クリーンで安全な、新しいエネルギー源としての核反応利用「レーザー

核融合」 ~ 機械工学

澤田 寛

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核融合は、水素などの軽い原子が“ぶつかり合って”融合し、重たい原子に

生まれ変わる反応です。身近な例は、太陽などの恒星。核融合反応によって

水素原子が融合してヘリウムに変わり、光・熱を発しています。遠くにある

太陽からの夏にじりじりと照りつける熱量を考えても、核融合で出る光・

熱は相当なものであることがわかるかと思います。この核融合反応で発生

する熱を発電に利用しよう、というのが、制御核融合(controlled

thermonuclear fusion)の最終的な研究目的です。

エネルギー問題でよく言われているように、石油、石炭、天然ガスなどの

化石燃料は有限です。燃料を使い切ってしまうという以外にも、火力発電に

よる二酸化炭素の放出は温暖化の促進につながり、資源と環境の2つの課題

をクリアしなければなりません。

現在、日本の発電量の3割ほどを担っている原子力発電は核分裂反応による

もので、火力とは違い、二酸化炭素の放出はそれほどありません。しかし、

原子力発電は、燃料(ウランの枯渇、プルトニウムの扱いの難しさ)、放射

性廃棄物、原子力発電所の運転(老朽化)と様々な問題を抱えています。

中越沖地震で世界に報道されたように、特に地震の多い日本での原子力発電

所の運転は安全性が問題視されています。核分裂は大きい原子を分裂させる

ことでエネルギーを発生させていています。反応は1回だけの分裂ではなく、

次々と連鎖的に起こるので暴走の恐れがあります。

これらに対して、制御核融合に使われる主な燃料は水素(重水素)で、海水

から取れるため豊富にあり、核融合反応で出来る副産物はヘリウムという

ことで、二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギー源として期待されて

います。核融合反応は、エネルギーを加えてから起こる反応なので、暴走

することはありません。太陽光発電、風力発電等、新エネルギーと呼ばれる

エネルギーもクリーンかつ安全ですが、発電容量が少なく、今の発電量、

これからさらに増加するエネルギー消費を十分に賄うものとなると、制御核

融合が有力候補となるわけです。

太陽など恒星では頻繁に起こっている核融合反応ですが、地上で核融合を

起こすことは、なかなか容易なことではありません。“原子同士をぶつける”

といっても、発電に必要なエネルギーを得るためには、1回だけの衝突では

なく、連続して衝突させ、反応させる必要があります。具体的には、燃料

(水素)をどうにかして“閉じ込めて”、核融合反応が起こり易い高温(?

1億℃)、高密度(固体密度の?1000倍)の状態を作っています。

主に研究されている方法は、この“閉じ込め”方法によって分類できます。

1つは、磁場によって燃料を閉じ込める方法(磁場核融合)。もう1つは、

小さい球状のカプセルに燃料を入れ、それを周りから押し込めるように閉じ

込める慣性を使った方法(慣性核融合)です。フランスと日本が最後まで

誘致を争った核融合施設ITER(International Thermonuclear

Experimental Reactor)は、前者の磁場核融合方式の実験施設です。

レーザー核融合は慣性核融合の方式の1つで、レーザーを使って、燃料カプ

セルを撃ち、カプセルの外側から燃料を押し込めて核融合反応をさせていま

す。

レーザー核融合では、レーザー光によって燃料の入ったターゲット(直径

1mmのプラスチック、中には重水素(deuterium)、三重水素(tritium)

が入っている)を照射して、ターゲットを圧縮し、高温、高密度状態にして

核融合反応が起こりやすい状態を作ります。

この一連の大まかな過程は、映画「スパイダーマン2」が参考になります。

映画の中では、トリチウムが入った小さい球体をまわりからレーザーのよう

な光で照射し(映画では8本のビーム)、そのターゲットが圧縮されています。

圧縮後には燃えさかる太陽の絵が現れて、いかにも反応が起こっているよう

なイメージが描かれています。正直、このシーンを見た時は、研究内容その

ものでビックリしましたね。

少し細かくなりますが、実際は、レーザー光がターゲットを圧縮している

わけではありません。高強度レーザーをターゲットに当てると、プラスチッ

クの表面が瞬間的に熱され、照射部分がすごい勢いで噴出します(ablation)。

このとき、噴出している方向と反対の方向に、噴出した力と同じ力が働いて、

残っているターゲットの外側が内側の燃料を押し込めます。このターゲット

の外側が噴き出す現象は、ロケットの推進力と同じ原理で、ロケット効果

(rocket effect)と呼ばれています。

レーザー核融合の反応は、レーザーがターゲットに当たってから、ターゲット

が圧縮され高温、高密度になり、燃料を点火してエネルギーが出るまで、ナノ

秒(10の-9乗秒、0.000000001秒)の間に起こる現象です。この間に起こる

様々な流体不安定性や物理現象を理解することが当分の研究課題です。

現在研究されているレーザー核融合方式には、高強度レーザーでターゲット

を均一に照射して圧縮し、自己点火させる「中心点火方式」と、最近注目

されている「高速点火(fast ignition)」という方式があります。この二つ

の点火方式は、車のディーゼルエンジンとガソリンエンジンに似ていて、

ディーゼルエンジンのように燃料を圧縮して自己発火させる方法と、気化

したガソリン燃料を圧縮し、スパークプラグで点火させる方法、まさにそれ

らと同じです。

高速点火の場合、スパークプラグの代わりに超高強度・短パルスレーザーを

使います。ターゲットを圧縮するレーザーの長さが10ナノ秒で強度が10の15乗

W/cm^2ぐらいであるのに対し、高速点火用のレーザーは、長さが10ピコ秒

(ピコ秒:10の-12乗秒、0.000000000001秒)で、強度が?10の21乗W/cm^2

です。現象としてはどちらも一瞬ですが、ターゲットが一番圧縮された瞬間

に、点火ビームで“火“をつける感じで局所的に加熱するのが高速点火です。

高速点火の魅力は、中心点火に必要な、あまり効率の良くない大型レーザー

(固体レーザー)の利用率を押さえ、全体のエネルギー効率を上げることが

できる点にあります。将来、核融合発電が可能になったとき、実用の発電効

率を考えると、電力発生に使うエネルギーは少ない方が理想的ですから。

高速点火を含め、レーザー核融合を研究している主な機関は、日本では大阪

大学のレーザーエネルギー学研究センター(Institute of Laser Engineering、

レーザーの名前は激光)、アメリカではカリフォルニア州リバモアにあるロー

レンスリバモア国立研究所(Lawrence Livermore National Laboratory)

やニューヨーク州ロチェスターにあるUniversity of Rochesterの

レーザーエネルギー学研究所(Laboratory for Laser Energetics、

レーザーの名前はOMEGA)、イギリスにあるImperial collegeのラザ

フォードアップルトン研究所(Rutherford Appleton Laboratory、

レーザーの名前はVulcan)、フランスのレーザーメガジュール(LMJ)、

他にもドイツ、マックスプランク研究所や重イオン核研究所(GSI)、

中国にもレーザー核融合施設(レーザーの名前は神光)があります。

リバモアの国立点火施設(National Ignition Facility、NIF、

196本のビームライン)、フランスのLMJは現在建設中で、NIFでは

2010年度の点火実験を目指しています。現在、ロチェスターにあるOMEGA

(60本のビームライン)に高速点火用のレーザーOMEGA EP(Extended

Performance)を建設中で、2009年頃から両方のレーザー施設を使った

高速点火等の実験を始める予定です。

レーザー核融合はレーザーによる物質(プラズマ)との相互作用に関する

研究分野の大きな流れの1つで、その他の関連分野としては、もちろん高

強度レーザー、レーザーに使う鏡、結晶等の開発、極紫外光源の開発、可視

光、X線、中性子などの計測技術の開発などがあります。レーザーによって

圧縮された物質の状態は、木星など惑星の中心部分に近い状態と予測されて

いることから地球物理学や宇宙物理(実験室宇宙物理)とも関連があります。

また高強度レーザーを使った応用としては、レーザーによる加速器の開発で

医療に使える小型重イオンビーム装置への期待など医療の分野からも注目

されています。

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自己紹介

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澤田 寛

2000年3月、近畿大学理工学部電気工学科卒業。4年次に大阪大学レー

ザー核融合研究センター(現レーザーエネルギー学研究センター)にて卒業

研究。このときのテーマはレーザー核融合関連ではなく、レーザーアブレー

ションによる宇宙デブリ(宇宙の塵)の除去について。2000年秋より

ロチェスター大学機械工学科、博士課程に在籍。博士論文のテーマは、

OMEGA実験グループにて、レーザー核融合で作られる高温高密度プラ

ズマの診断に関する研究。2007年秋卒業予定。

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今日のポイント(エキスパートな質問の答えです)

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1.核融合とは、水素などの軽い原子がぶつかり合って融合し、重たい原子

に生まれ変わる反応。

2.制御核融合に使われる主な燃料は水素(重水素)。海水から取れるため

豊富にあり、二酸化炭素を出さないので、クリーンなエネルギー源として

期待されている。

3.超高強度短パルスレーザーを使い、燃料の入ったターゲットが一番圧縮

された瞬間に、点火ビームで局所的に加熱するのが高速点火である。

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編集後記

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2007年秋卒業予定ということで、博士論文の序論にはここに書いた内容

と似たような事を書いている最中です(スパイダーマン2の事以外)。研究所

には、機械工学の学生だけじゃなく、光学、化学、電気工学、物理学科など、

いろんな専攻の人がいて、学生はそれぞれの専門の理解を深め、研究者と共

に協力し合っています。レーザー核融合を含め、大きい国家プロジェクトは

ビッグサイエンスと呼ばれ、年間?数億円単位の研究予算が付き、国として

の研究成果を出すために、研究者は日々努力しています。将来は、大学の

研究室とは違い、国立研究所のような環境で学んだ経験を生かし、研究、

教育ともに“いい”仕事をしていきたいです。

ホームページ: 「科学者への道 (http://www.geocities.jp/fwin0003hiroshi/)」

(澤田)

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