9/15 【海外サイエンス・実況中継】アンケートから見る!大学院留学準備

Post date: Oct 08, 2013 2:55:9 AM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ August 2013, Vol. 62, No. 1

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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- From editors --

カガクシャ・ネットのメンバーには多くの海外大学院留学生/修了生に加え、

学位取得を目的とした大学院留学を目指しているメンバーが多く在籍しています。

そこで今回のアンケートでは、大学院留学の準備で大きな壁となる、大学選びと

各種試験対策、そして渡航後の経費をまかなうTA/RA制度について、留学経験のある

メンバーからの声を集めました。さっそく大学院留学の実態を覗いてみましょう!

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1.大学選びについて

大学選びはいつごろから、どんなルートで行なっていくことが多いのでしょうか?

自分の興味のある分野をより深く勉強するために重要な大学選びについて、くわしく

見ていきます。

[質問]

いつごろから大学選びを本格的に始めましたか?最も近いものを選んでください。

[回答]

大学1・2年生 1

大学3年生 2

大学4年生 5

大学院修士課程 5

大学院博士課程 0

卒業後または修了後 0

就職後 1

その他 1

大学選びの時期としては、大学4年生から修士課程という場合が多いようです。大学選びの

方法でも、多くのメンバーが自分自身のやりたいことを中心に論文を探したり、指導教員の

アドバイスを参考にしたり、人脈を活用したりしていました。このようなスタイルで大学

選びをする場合、研究室に所属する大学後期から修士課程にかけて、大学選びのハードルが

グッと下がるのかもしれません。一方で大学1,2,3年生から大学選びを始めたメンバーも

少なくありません。このようなメンバーからは「自分の興味のある分野、地域、知っている

人がいる場所などを総合的に考えていくつか訪問して出願を決め、受かった中から条件が

最適な物を選びました。」というように、多くの選択肢から幅広く選ぶことができたことが

伺えるコメントが多くみられました。また、複数大学院への訪問と応募を考えている場合、

余裕のあるスケジューリングが必要になります。やりたいことが漠然としているなら、

大学1,2年生のうちからどの大学が強いのかを調べておくことも、一手と言えます。

では、いぜ大学選びをするときには、どのような情報を参考にしているのでしょうか?

[質問]

大学選び・研究室選びで参考にした情報源をすべて選んでください

[回答](複数回答可)

留学先大学のWebページ 12

所属大学の教員 9

先輩や友人 7

雑誌 6

留学先大学以外のWebページ 5

図書 3

所属大学以外の教員 3

所属大学以外の国際交流・留学支援団体 2

所属大学の国際交流部門 1

その他 3

(留学先大学以外のWebページは質問サイトなどを含む)

今回回答したメンバーのうち、実に8割のメンバーが留学先大学のWebページを利用して

いました。自分の机から留学先大学の情報を得られるWebは非常に魅力的なツールと

言えるでしょう。その一方で、2番手、3番手につけているのが所属大学の教員、先輩や

友人などのface-to-faceな情報です。前述のように指導教員の知り合いの教授の研究室

を留学先にするメンバーが多かったことを考えれば、この結果は納得がいきます。また、

同じ分野で留学経験のある先輩からの情報があると、指導教員のつながりが自分の関心の

ある分野を学ぶのにふさわしいかどうかを判断する助けになります。また、ランキングには

あまりはっきりとは現れませんでしたが、論文を検索したメンバーが多かったことも興味

深い点です。どの程度の時代の論文までさかのぼるかは研究分野しだいですが、近年成果を

出しているアクティブな研究室を選ぶためにも、論文から入ることは有効な手段でしょう。

2.試験対策

大学選びも重要ですが、ほとんどの場合で英語能力試験(TOEFL,IELTS)や学術試験

(GREなど)の受験対策を行うことが必要です。それぞれの試験対策を始める時期は

いつごろが多いのでしょうか。

[質問]

試験対策を始めたのは、はじめて試験を受けるどのくらい前ですか?

[回答]

英語 学術

1ヶ月未満 1 1

1ヶ月以上・半年未満 5 3

半年以上・1年未満 1 4

1年以上 7 5

その他 1 2

アンケートによると、英語能力試験の対策は短期集中型と長期継続型の2パターンがあり、

学術試験の対策はおおむね1ヶ月以上の期間をかけるケースが多いことがわかります。

勉強法としては、「ひたすら練習」「とにかく何回も受ける」「TOEFLはパターンがある」

など、日頃から継続的に英語を練習し、試験の数をこなしてよいスコアを取る戦術が多く

みられました。また、「GREはTOEFLで高得点が取れるようになってから短期集中で

勉強すればよい」など、試験会場が遠い、経済的に難しいなどの理由で試験があまり

受けられない場合には、どちらかの試験に重点を置く方法も有効かもしれません。

英語力は大学院に入学するためだけでなく、その後の研究と留学生活を充実させる上で

非常に重要です。本業である研究に支障の出ない範囲で努力を重ねていくこと、

そしてモチベーションを維持していくことが鍵のようです。

3.Teaching Assistant / Research Assistant

さて、海外大学院生の一番の特徴と言えるのは、学費や生活費を自分で支払っている学生が

日本に比べ非常に少ないということですが、それができるのは、授業を補佐するTeaching

Assistant(TA)という奨学金、研究を行うResearch Assistant(RA)という奨学金を

獲得することで、授業料免除に加え生活費が支給されるためです。では実際、いつ応募し、

どのような仕事をして、いくらほどもらえるのでしょうか。

[質問]

TA/RAに申し込んだ時期(または、留学先大学に希望する旨を伝えた時期)について、

一番近いものを選択してください。

[回答]

大学選びの時期 3

出願の時期 6

合格後・渡航前 1

渡航後・ 1年目 2

渡航後・ 2年目以降 0

セメスターごとに応募 1

TA/RA をしていない 2

出願時または大学選びの時期という解答が最も多くみられます。PhD program に応募する

場合、合格通知とともに自動的にTA/RAを獲得できる場合が多いですが、Master programに

応募する場合、出願時に条件として提示または交渉しなければTA/RAを得ることが難しい

場合が多いです。このため、Masterで応募する場合、事前にTA/RAを得られるか確認する

ことが特に大事です。TAは学科のスタッフに、RAは担当教授に質問するのがいいでしょう。

理系の分野の場合、PhD programなら5年間TAが保証されていることが多いですが、それでも

セメスターごとに応募することが普通です。文系の分野の場合、TA/RAの獲得が理系に比べ

難しい印象を受けます。TA/RAはpart timeと呼ばれる週20時間労働(F-1ビザの学生は

これ以上働くことはできません)が普通です。TA/RAは個人の研究時間を割かれてしまうので、

外部の奨学金で学費、生活費をカバーできるのがベストです。そのためTA/RAが保証されて

いるPhD programでは、TA/RAは保険のように考えられ、外部の奨学金で生計をたてる方が

研究効率上良しとされています。海外の大学院では学費+生活費をカバーするTA/RAは

当たり前の制度なのです。

【TA/RAの仕事】

では、実際にTA/RAはどのような仕事をするのでしょうか?

TAの仕事内容は分野によってもちろん異なりますが、採点、実験補佐、小授業、ディス

カッション、課題作り、試験監督、課外学習などの組み合わせです。生徒が質問できる

オフィスアワーをもうけるのが普通です。クラスの生徒数は20人前後から100人以上まで

まちまちで、それによってTAの人数も1人から30人ほどまで様々です。内容も採点だけの

クラスから、lab sectionと言われる小グループに対し実際に授業を行うクラスまで

様々です。

筆者の在籍するアメリカの大学ではクラスがレベル分けされており、そのレベルやクラスに

よって仕事量が異なります。例えば、筆者は哺乳類学や集団遺伝学のような40人ほどの

大学院生も受講する高いレベルのクラスから、一般生物学という850人ほどの新入生が

受講する入門的なクラスまでTAを経験しましたが、高いレベルほど「準備に費やす時間は

多いが生徒を良く知ることができやりがいがある」、入門レベルほど「形式化されている

ので教えるのは簡単だがやりがいにかける」という印象を受けます。簡単にまとめれば

クラスによって内容も仕事量も大きく変わると言えます。

RAは一般的に理系の分野に限られますがその仕事内容は様々です。個人の研究活動、

実験室の試薬/機材購入、担当教授の研究助成金(グラント)の資料作成、予備データの

取得などの組み合わせです。TAの給料は学科/大学が負担していますが、一般的にRAの

給料は担当教授のグラントから負担しています。 このため、担当教授がお金(グラント)を

もっているかどうかで、RAが存在するかしないかが決まる場合が多いです。自分の所属する

担当教授がRAを採用していなくても、他の研究室や他学科でRAをすることも可能です。

お金をだしているのが教授なので、仕事内容はその教授からだされた課題ということに

なります。もし担当教授が自分の所属する研究室なら、仕事内容が卒業研究の一部として

つかえる場合が多いので一石二鳥です。個人的にはRAをした経験がないですが、アンケートに

よるとPhD programの分野によって入学時に基本的にRA採用されるという大学院もあるようです。

【TA/RAの報酬】

気になる給料はいくらほどもらっているのでしょうか。一般的にTA/RAの給料は、月に

1500~2200ドル程度です。幅があるのは、物価、地価の違いに地域差があるためで、

給料が変わってくるためです。例えば、生活費の高い地域では、2000ドルを超えることも

あります。贅沢をしなければ不自由なく生きていける金額です。この給料に加え、学費や

保険料が免除されます。留学生は最低取得単位が決められており、一学期の学費はたちまち

100万円(200万円以上の私立も)を超えてしまうため、この学費の免除は非常に助かります。

現地の学生の学費は格段に安いので外部の奨学金で学費をカバーできることが多いですが、

留学生はPhD programの5年間TA/RAをやり続けるという場合も少なくないのはこのためです。

【TA/RA制度のまとめ】

PhD programによってはTAを必修としている大学も多く、TA制度は単に学生を援助するだけ

ではなく、「教える」ことのトレーニングを兼ねている場合が多くあります。R-1 Universityと

呼ばれる研究重視の一流大学の大学院は、研究者を育成することを目的としており、教育者を

育成するという面に欠けていますが、TAをすることで教育に目覚め、高校やCommunity College

(短期大学)で研究者より講師を目指したいという学生や、博物館や企業などで広く教育活動に

携わりたいという学生が生まれたりします。もちろん、人に何かを教えることは自分がその分野を

より深く勉強するきっかけにもなります。

お金をもらって研究するRAは、日本ではあまりみられない制度です。同世代の人間がバリバリ

働いている中、親のすねをかじりながら学生をしているという一般的な日本の大学院生の心情と、

自分は研究をしながら生計を立てているというアメリカの大学院生の心情では、研究者としての

プロ意識に違いが生まれるように思います。TA/RAという制度は、お金の心配をしなくて良い

という面だけでなく、人間としての成長が期待できるという面でも魅力的な制度と言えるでしょう。

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