【海外サイエンス・実況中継】アメリカ大学院生のバックグラウンド!

Post date: Jan 30, 2012 7:47:10 PM

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』

_/ December 2009, Vol. 53, No. 2

_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/

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これまでJohns Hopkins Univの山本智徳氏が編集を担ってくださいましたが、カガクシャ

ネットの皆で編集も持ち回りにしましょうということになりました。今回は、今村文昭が

務めさせて頂きます。

「大学院留学を実現するためのノウハウ」の一環として、今回は、私と布施慎一郎氏で、

編集しました、大学院志願者のバックグラウンドに関する文章を紹介させて頂きたいと思

います。この文章は、来る3月に発刊予定である「理系大学院留学を実現する方法(仮)

」に掲載予定なのですが、改変前のナイーブな文章として捉えて頂ければと思います。

また、編集後記に、別途、私の視点で同内容について情報を付加したいと思います。

大学院留学を目指す方は、すでにApplicationのDeadlineが目前・・ということも多いと

思います。少しでも参考になれば幸いです。

ご意見などございましたら、ぜひカガクシャ・ネットホームページ経由でもEメールでも

ご連絡ください。

(URL:挿入予定

EMAIL:fumiaki.imamura [AT] hsph.harvard.edu)

先日、お伝えした日本での公開インタビューのイベント・・数時間後開催です。

カガクシャ・ネットを主宰する杉井氏をトップにまたとない機会となることと思いますの

でご都合の合う方は、ぜひ参加して頂けたらと思います。

イベント案内: http://kagakusha.net/images/event09.pdf

詳細はメール末尾に添付しました。

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大学院留学を実現するためのノウハウ

志願者の多様性を知る

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北米の大学院生のバックグラウンドはさまざまです。その多様性は、理学系の大学院に限

らず、多くの教育場面で見受けられます。

まず、医学・栄養学・法学などの教育を例に挙げてみましょう。これらの分野では、アメ

リカにおいてプロフェッショナルの資格を得るために、大学院教育を修めなくてはなりま

せん。日本では学部卒でも国家資格を得ることができる領域です。

それぞれの大学院へ入るための条件は異なりますが、例えば、医学系の大学院へは、

生物はもちろんのこと、数学から物理、中には経済学を学んだ人まで入学します。

大学院医学課程に臨む人の多くは、学部時代に主専攻(Major)、あるいは副専攻(Mino

r)として、医学と関係のある科目を履修し、さらに休みの間には、インターンシップな

どでユニークな経験(保険事業のボランティアや実際に生物系研究室での研究など)を積

みます。

このように専門性のある大学院教育でも多くの分野が交じり合うことが約束されています。

大学院教育とはそういうものなのです。多彩な経験を積んだ人が多いことが特色となり、

そうした多様性が尊重されています。これは、複数の文化を多く受け入れてきた、多民族

国家のアメリカ「らしさ」と言えるでしょう。

それでは理工系の大学院はどうでしょうか。

内容に専門性の求められる理工系の大学院では、そうした多様性はそれほど顕著ではな

いかもしれません。しかし、理工系の大学院でも、哲学や言語学などがバックグラウンド

であっても、基礎や目的がしっかりしていれば、多様性はむしろ歓迎されるのです。

幅広いバックグラウンドや経験が生かされる環境は、学部・修士課程を卒業し、仕事の経

験を積んだ後に、大学院へ進学する人の多さからもわかります。生命科学系、あるいは工

学系の企業でも、科学と社会のインターセクションにおいて経験を積んだ人こそ、基礎研

究や最先端技術の応用の現場を知っています。また、新たに基礎から学ぼうとする動機や

意欲を持っているため、これから必要とされる研究への展望が明白にできるでしょう。

アメリカの大学院における Ph.D. 課程は、企業研究には劣るものの、経済的なサポーも

充実しています。そのため、企業を離れて再び学を求める人に対しても、敷居の低いもの

と考えることができます。

また、企業研究の一端を担う学術機関も少なくないように、研究内容によっては、企業と

学術機関との距離が近いことも事実です。このような環境があるため、企業経験をバック

グラウンドに持つ人が博士号を目指すことも珍しくなく、学生のバックグラウンドも広が

ります。

そのため、選考の際の競争率が高くなることは確かです。しかし、企業経験のない大学院

生でも、課程に入れれば企業経験のある人の知恵や経験に触れる機会を増やすこととなり、

教育環境として素晴らしいものを作り上げていることには違いありません。

アメリカ理系大学院の入試選考において、専門性が明確に求められるのは GRE Subjectの

みで、独自性が求められる書類審査が大きな比重を占めます。そのため志願者は、どれだ

けプログラムや研究室、科学領域に貢献できるか、生き残るだけでなくさらに飛躍してい

く可能性があるか、などをアピールすることになります。その中で、志願者のバックグラ

ウンドが、出願するプログラムと同類のものである必要はありません。

物理学や数学を医学に、生命科学を環境問題に、経済学を化学工学に―そうした知的財産

の応用・流動は、本来望まれるべきであり、実際にアメリカの大学院教育は、そのような

可能性を受け入れているのです。また、各研究機関は、異なる領域が協力し合うことによ

る相乗効果を求められており、教育現場もその流れを汲んでいます。

つまり、バックグラウンドが特異的でも、その特異性が科学に貢献できる可能性に富んで

いることを訴えることができれば、選び抜かれます。

それでは、日本はどうでしょうか。日本の基礎科学や医学において、多くの偉人が歴史に

名を残し、工学は群を抜いた高度経済成長を支えてきました。1つの道を究める職人気質

や、それを敬う日本の社会と文化が、世界に "Japan as Number One"(Ezra F. Vogel

著)と言わしめました。

そして、理工学とその応用を根底から支える教育機関は、専門性を深く追求できる人材を

育てる仕組みを構築してきました。そのため、大学院に進む学生のバックグラウンドは、

大学院入学時から専門性に長けていることが期待されるのです。そうした人材育成と社会

との深いつながりが、大学院生のバックグラウンドが限定されたものになったといえます。

そうした教育を基盤に、量子力学などの物理領域ではノーベル賞受賞者が生まれ、分子生

物学や免疫学などの生命科学領域でも世界でも有力な研究成果を残してきました。しかし、

日本において、研究が縦に深く掘り下げられることはあっても、研究者の強い専門性のた

め、分野をまたいだ交流に弾みがつかず、研究が横に広く拡張していくことは難しいとい

えます。

京都大学の山中伸弥教授が2006年に拓いた、幹細胞研究の臨床・応用研究への発展も、日

本はアメリカに遅れをとっていると言われています。日本では、科学の社会への貢献が、

科学的、および経済的にも求められおり、そういった点では、大学院生のバックグラウン

ドが限定される日本の大学院課程は、その利点を維持しつつ、欧米諸国の多様性の価値を

深めることが、今後必要とされるでしょう。

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自己紹介

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今村文昭

上智大学理工学部化学科卒

コロンビア大学医学部栄養学科修士課程卒

タフツ大学 Friedman School of Nutrition Science and Policy 博士課程卒

ハーバード大学公衆衛生大学院疫学リサーチフェロー

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編集後記

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私の知っている北米にいる変わったバックグラウンドをもつ日本人大学院生の極端な例と

して、生物学を一切学んだことのない心理学科卒の脳神経科学の学生、日本文学を専攻し

ていた分子生物学の学生があげられます。

優秀な人というのは背景がなんであろうとも、どんな分野でも生き残れるはずで、興味さ

えあれば凄まじいスピードで最先端の知識を吸収できるのです。北米の大学院は、そうい

った人材を見出し、迎え入れる懐があるように思います。

逆に、同じことしか学んでこなかったような頭の固そうな人ではまずいのです。

先月、日本ではいわゆる「事業仕分け」の政策で、科学と政治の考え方の違いが浮き彫り

になったように思います。さまざまな背景を持った人が、異分野交流を図るような社会基

盤が必要とされているのではないでしょうか。留学するしないに関わらず、「専門」に捉

われない、そして「専門」を尊重しあうことが大切・・と改めて思います。(今村)

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理系大学院留学経験著名人「公開インタビュー」12月13日開催!

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研究の世界もグローバル化が進んでいる今、これからの科学者は視野を広めるために、研

究留学することがますます必須となっていますが、大学院から留学するという選択肢が脚

光をあびつつあります。特に、一流の研究者を育てるための教育・サービスが非常に充実

している、アメリカの大学院は、世界中から優秀な学生を集めています。昨年も好評をい

ただいたこのセミナーを、今回はさらに規模を拡大し、実際に大学院留学を経験した若手

組と著名人の両方が集結。主にアメリカの大学院について紹介し、みなさんの質問にお答

えします。また大学院留学に興味のない方でも、第二部は楽しめることと思いますので、

どうぞご参加ください。学内外の参加を歓迎します。準備の関係上、事前に下記に登録申

し込みをお願いしております(当日も可ですが、できるだけ早い登録をおすすめします)。

スピーカーへの質問もありましたら、ぜひ登録時にお知らせください。

【イベント・スピーカー】

● 若手留学経験者

山本智徳(ジョンズ・ホプキンス大博士課程在籍中、カガクシャ・ネット副代表)、

斎藤広隆(ミシガン大博士課程修了、現東京農工大、

カガクシャ・ネットエグゼクティブメンバー)、

杉井重紀(ダートマス大博士課程修了、現ソーク研究所研究員、

カガクシャ・ネット代表)、

他数名を予定。

● 公開インタビュー著名人

北澤宏一博士(MIT博士課程修了、科学技術振興機構理事長)、

東原和成博士(ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校博士課程修了、12月1日よ

り東大農学生命科学研究科教授)

【日時】

2009年12月13日(日)午後1時30分~午後4時30分

午後1時30分~午後2時45分 第一部:留学経験者による講演、パネルディスカッション

午後2時45分~午後3時00分 休憩

午後3時00分~午後4時30分 第二部:留学経験著名人への公開インタビュー、質疑応答

午後5時以降 懇親会(参加任意:飲食実費がかかります)

【場所】

東京農工大学小金井キャンパス13号館3階L1331教室(中央線東小金井駅から徒歩約10分)

http://www.tuat.ac.jp/access/

【参加費】

無料(ただし懇親会は実費)

【登録フォーム】

http://kagakusha.net/event.htm

【イベント告知ポスター】

http://kagakusha.net/images/event09.pdf

【本セミナーに関する問合せ先】

東京農工大学地域生態システム学科 斎藤広隆

Email: hiroscc.tuat.ac.jp

( を@に書き換えてください)

Tel/Fax: 042-367-5584

【主催】

カガクシャ・ネット

http://kagakusha.net/

【後援】

東京農工大学国際センター

(株)アルク

科学技術社会論学会

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発行責任者: 杉井 重紀

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