球体論——舞楽《球体伝説》に寄せて

球体論——舞楽《球体伝説》に寄せて

豊島重之

気 象をなす時

途方もない始まりがある

象 気をなす時

果てしもない終りがある

始まりは 形となり

終りは 色となる

始まりと終りを同時に抱え込むもの

それが 球体である

しかも そのことは

忽ち 球体ではなくなるかのように危うい

形と色を同時に背負うもの

それが 球へ向かう体である

詩と声と音と体という

実は一体のものを 一体とするために

ある確認が 身をよじる

詩と声と音と体がせめぎあう

その分水嶺に静かに浮かぶ言葉

言葉で彩られた一つの伽藍

伽藍より降る影

影より発せられる光

光が闇をそぎ

闇が影を縫う

光と影が向きあう鏡

鏡よりたちのぼる窓

再び窓をとじる影

さらに

言葉という球体は

どのような影をとじるというのか

(初出:豊島重之+豊島舞踊団+柴内舞踊団ほか トータルメディアシアター「球体伝説=球体論」パンフレットより/1973.12.09)