モレキュラーシアター月島(東京)公演ルポ

モレキュラーシアター月島(東京)公演ルポ

<八戸の女優陣が東京で絶賛>

豊島重之

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八戸市を拠点とするモレキュラーシアター(高沢利栄代表)が芸術文化振興基金助成事業として、もんじゃ焼きで有名な東京月島のアートスペース「テンポラリー・コンテンポラリー」で、去る11月7(金)8(土)9(日)の三日間、豊島重之演出・美術による演劇「イリュミオール・イリュシオール」公演を開催した。80名も入れば満席の白い壁面に包囲されたギャラリーは連日満席状態。タイトルの意味は「人工的に光る虫/病気で光らない虫=季節を間違った蛍」。イリュシオールを「ハエ」とするならイリュミオールは「ハエのたかる死体」というほどのニュアンスであろう。

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客席の顔ぶれがスゴい。札幌から駆けつけた写真家の露口啓二さん・八戸から造形家伊藤二子さん・ICANOF代表米内安芸・ICANOF展でおなじみの矢野静明・江澤健一郎さん・(かつて青森県庁文化課長で現在は)東京藝大副学長の堀江振一郎さん・八戸市東京事務所の水野茂樹さん・八戸出身の芸術思想家及川廣信さんをはじめ、世界的な詩人吉増剛造さん・多摩美大教授の写真家港千尋さん・一橋大学教授の哲学者鵜飼哲さん・立大教授の哲学者宇野邦一さん・明大准教授の倉石信乃さん・東大教授の内野儀さん・法大教授の岡村民夫さん・近畿大教授の絓秀実・八角聡仁さん・映像作家の小原真史さん・詩人の稲川方人・瀬尾育生・佐藤恵・野村喜和夫さん・批評家の鴻英良・前嵩西一馬・志賀信夫・七字英輔さん等々。忘れてはならないのが最近モレキュラーサイト<provisional>を立ち上げた音楽家根本忍さんの労作。これはICANOFトップページからアクセスできる。

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特筆すべきはモレキュラー女優陣に対する絶賛、とは言わないまでも、手応えのある好評である。ことに作品の軸をくっきりと据えたプロジェクショナー秋山容子の立ち姿。田島千征・苫米地真弓のフライング(フライ=ハエ)をも辞さない逸脱的な異例性。若手ながら品性のある俊敏さで圧倒した四戸由香。四角い光のフレームを「収容所状況」に変換してみせた大久保一恵。そしてすべてを取り仕切った高沢利栄。では、演出家である私は何をしていたのか。ほぼ何もしていない。ただ、彼女たちの舞台に見とれていただけ。いいのか、そんなことで。勿論いいのだ。演出家があれこれ手取り足取りしているようでは、世界に通用する演劇はおよそ不可能なのだから。

(初出「月刊はちのへ情報アミューズ」No.449/2008.12)