パラサイト/パラ・サイト/パラ・サイト

パラサイト/パラ・サイト/パラ・サイト

PARASITE/PARA-SITE/PARA-CITE

粉川哲夫(批評家)

カフカは、フェリーツェに宛てたある手紙のなかで、二人が一種のテレタイプ装置で直接コミュニケイトしあう夢を見たと記している。「その最初の文字がテープに現れたとき、それはなんという喜びだったでしょうか。本当はベッドから落ちてもよいくらい、その喜びが強烈だったのをおぼえています。」

テープが次々と打たれて行く文字(エクリチュール)というこの想像は、カフカの「フェリーツェへの手紙」の基本性格を暗示する。何百通にも及ぶこの手紙が、1912年から1917年のあいだに書かれたとき、それはとめども流れ出る一本のテープであった。が、それが「フェリーツェへの手紙」として一つのテキストになったとき、それはまさに長大なループをなして回転する<エンドレス・テープ>となった。

この<テープ>は、第一次大戦後の一時期のプラハでカフカが<レコード>した<スクラッチ>を永劫に反復する。それはつねに<同じこと>をくりかえすのだが、<同じこと>は必ずしも<等しいこと>を意味しない。

その<スクラッチ>は無限に分割可能であり、分割された<分子的>な一断片が他の断片と組み合わさって他の断片をつくるので、この<エンドレス・テープ>は、聴きなおすたびに別の響きがする。

豊島重之は、「f/F・パラサイト」の実験的なヴァージョンで、「フェリーツェへの手紙」の<エンドレス・テープ>的な性格を直感的にとらえていた。このテキストの一部を読む声を文字通りエンドレス・テープで反復することによって生まれる等質の場に、劇団モレキュラー・シアターの面々による<パフォーマンス>が対置(パラサイト)され、異物として付け加わり(パラサイト)、平行的に引用され(パラサイト)、その場の等質性は<分子的>な<同一性>に変容される——そんな瞬間をわたしはこの実験のなかでつかのま経験した。

(初出「f/F・PARASITE」/1987)